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ベンチャーキャピタリストのリアル:日本のスタートアップエコシステムを加速させる「知性」と「スピード」

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活況を呈するスタートアップエコシステムの中で、その成長の原動力となるのがベンチャーキャピタリスト(VC)の存在です。彼らは単なる資金提供者ではなく、未来を創造する起業家たちの最も近くで、そのビジョンを実現するための伴走者となります。

先日開催された「CORAL SCHOOL」のイベントでは、Coral Capitalのパートナー西村氏をモデレーターに迎え、Coral CapitalのFounding Partner & CEOジェームズ・ライニー氏、そしてOne Capitalの代表取締役CEO浅田慎二氏という、日本のVC業界を牽引するお二方をゲストにお招きし、ベンチャーキャピタリストの仕事の醍醐味、日本のVC業界の現状、求められるスキル、そしてキャリアパスのリアルについて、多角的な視点から熱い議論が交わされました。

本記事では、この貴重な議論を深く掘り下げ、日本のVC業界がどこに向かっているのか、そこで働く人々には何が求められるのか、そして未来のスタートアップエコシステムを築くために何が必要なのかを、専門性と分かりやすさを両立させながら解説していきます。


転換期を迎える日本のVC業界:危機感と成長の狭間で

日本のVC業界は今、まさに歴史的な転換期を迎えています。浅田氏とジェームズ氏の言葉からは、現状に対する「危機感」と、来るべき未来への「期待」が同時に感じられました。

成長する市場、募る危機感

浅田氏は、VCの役割について「リターンをとにかく出さなければいけない。それが紛れもない事実」と断言します。それはVCが存在意義を問われる根本であり、裏を返せば、まだ日本のVC業界全体として、期待されるリターンを出し切れていないという危機感の表れでもあります。さらに、「新産業を作る役割を僕らがちゃんと担わなければいけない」と強調し、日本のVCが単なる資金の出し手ではなく、社会変革の担い手となるべきだと語りました。

ジェームズ氏もまた、日本のVC業界が「3倍から5倍の(投資)リターンをコンスタントに出すには、もっともっとグローバルで勝負しようとしているスタートアップが増えないと限界がある」と指摘します。彼の言葉は、日本のスタートアップが国内市場に留まるのではなく、世界を目指すことの重要性を浮き彫りにしています。

実際、日本のスタートアップエコシステムは近年目覚ましい成長を遂げています。ジェームズ氏がCoral Capitalを立ち上げた2016年当時は、年間約1000億円以下だったスタートアップへの投資額が、今や10倍近くにまで増加しています。しかし、これはまだスタートラインに過ぎません。

世代を重ねるエコシステム:日本が目指す「シリコンバレーモデル」

シリコンバレーのVC産業は、PC、インターネット、ソーシャルメディアといった大きなテクノロジーの波に乗って、それぞれの時代に巨額の成功リターンを生み出してきました。そのリターンが新たなVCファンドやスタートアップへの投資に繋がり、「世代」を重ねてエコシステムが成熟していったのです。浅田氏の言葉を借りれば、シリコンバレーはすでに7世代ほどのサイクルを回しているのに対し、日本はまだ3~4世代目。つまり、VC業界自体がまだ成長の途上にあるという現状認識です。

この世代の差は、単なる時間の経過だけを意味しません。それは、成功事例の積み重ねが不足していること、そして、成功した起業家が次の起業家を支援するキャピタリストとなる「ペイフォワード」の文化がまだ根付いていないことを示唆しています。ジェームズ氏自身も、自身の起業経験を経てキャピタリストとなり、再び起業を支援するという「シリコンバレー的なパターン」を日本でも増やしていきたいと語ります。


成功するVCに求められる資質:IQとEQ、そして「触れる」好奇心

では、このような転換期にある日本のVC業界で、起業家と伴走し、共に世界を変えることができる人材とは、どのようなスキルや資質を持っているのでしょうか。

知性と感情のバランス:IQとEQの融合

ジェームズ氏は、VCにフィットする人材の共通点として「IQとEQのバランスが取れている人」を挙げます。

  • IQ(知能指数):投資先の事業性、市場分析、財務分析など、論理的思考力や分析能力はVCにとって不可欠です。複雑なビジネスモデルを理解し、データに基づいて判断を下す能力は、投資判断の根幹をなします。
  • EQ(感情的知性):一方で、スタートアップへの投資は不確実性の高いものであり、数字だけでは測れない「人」の要素が大きく影響します。起業家の情熱、リーダーシップ、チームの結束力、困難を乗り越えるグリット(やり抜く力)など、共感力や人間関係を築く能力は、起業家との信頼関係を構築し、長期的な伴走を可能にするために極めて重要です。

浅田氏もまた、IQとEQがバランス良く備わっていることが重要であると語りながら、「Excelスキルよりも好奇心と問う力、そして実際にプロダクトを触る人」の重要性を強調します。これは、単に数字を追うだけでなく、事業の本質やユーザー体験への深い理解を求めるVCの姿勢を示しています。

「触れる」好奇心と「問う」力:事業の本質を見抜く

浅田氏は、B2B SaaS領域に特化した自身のVC経験から、「プロダクトに触らずに投資検討している人たちも意外と業界に多いのではないかという仮説がある」と語ります。これは衝撃的な指摘ですが、裏を返せば、実際にプロダクトに深く触れ、ユーザーの課題や体験を肌で感じる「好奇心」こそが、VCとして差別化を図る上で極めて重要なスキルになり得ることを示唆しています。

プロダクトの進化が加速する現代において、VCは常に新しい技術やサービスを学習し、その可能性を深く理解する必要があります。表層的な情報だけでなく、「なぜそうなったんだろう?」という問いを常に持ち、多角的に物事を捉える力が、起業家との対話の解像度を高め、より的確なサポートを提供することを可能にするのです。


VCのキャリアパス:Up or Outの先にある未来

ベンチャーキャピタリストというキャリアは、華やかなイメージがある一方で、その道のりは決して平坦ではありません。しかし、その先に広がる可能性は、世界を変える起業家たちと密接に関わり、社会に大きなインパクトを与えることができるという、他に代えがたいものです。

上昇志向が全て:「Up or Out」の厳しい世界

浅田氏は、VCのキャリアパスを「Up or Out(昇進するか、退社するか)」という厳しい表現で説明します。これは外資系企業によく見られる文化ですが、VC業界においては特に顕著です。なぜなら、VCはファンドの資金を預かり、そのリターンを最大化するという明確な使命を負っているからです。

世界を変えたい起業家と伴走するという役割なので、やはり上昇志向の強い方がフィットする」と浅田氏は語ります。現状維持は停滞を意味し、それはVCにとっては「Out」につながる道でもあります。常に新しい知識を吸収し、自身の専門性を高め、起業家と共に成長し続ける意欲と実行力が求められるのです。

しかし、この厳しい環境を乗り越えた先には、大きなキャリアの選択肢が待っています。それは、GP(ゼネラルパートナー)としてファンドを運営する道、自身が起業家として新たな挑戦をする道、あるいは投資先のCxOとして事業成長を牽引する道など、多岐にわたります。

シリコンバレーモデルの模倣と創造:成功の循環を日本に

ジェームズ氏は、シリコンバレーにおけるVCのキャリアパスの多様性を指摘します。「起業してキャピタリストになったり、そこからまた起業するパターンもある」と語るように、成功した起業家がその経験と知識を元にVCとなり、そこで得た知見を活かして再び起業するという「成功の循環」が根付いています。

ジェームズ氏自身も、JPモルガンを経てレジュプレス(現Coincheck)を創業し、DeNAで海外投資を担当した後、Coral Capitalを立ち上げた経験があります。彼がCoral Capitalで目指すのは、「起業家からの評価が一番」とされるようなVCであり、成功事例を増やし、エコシステム全体を底上げすることです。日本のVC業界も、この循環を加速させることで、より多くのグローバル企業が誕生する土壌を作ろうとしています。


個性が光るVCのポジショニング:One CapitalとCoral Capitalの戦略

日本のVC業界では、各ファームが独自の戦略とポジショニングを確立し、差別化を図っています。One CapitalとCoral Capitalも、その典型的な例です。

One Capital:SaaS特化とブティック型アプローチ

浅田氏が率いるOne Capitalは、「Mission: 新たな日本へ、もっと加速させる」という明確なビジョンを掲げ、その実現のために「テクノロジーで働くを進化させる」ことを目指しています。その中核をなすのが、以下の3つのサービスです。

  1. SaaS Product: VC自らがSaaSプロダクト(事業計画SaaS、SaaSメトリクスDB、採用支援SaaS)を開発・提供することで、投資先への支援だけでなく、VC自身の意思決定とオペレーションのスピードを高めています。浅田氏は、「作ってみてやっぱり本当に分かったことだらけ」と語り、自らプロダクトに触れることの重要性を強調しました。
  2. SaaS x AI VC: アーリーステージのB2B SaaS企業に特化し、T2D3(売上3倍、3倍、2倍、2倍、2倍成長)を目標に掲げています。採用支援も手厚く、投資先の成長を強力に後押しします。
  3. DX: 大企業LP(リミテッド・パートナー)に対して、DXの長期伴走、ためるDX(デジタルトランスフォーメーション支援)、炉端談義体制構築、守りDX(セキュリティ対策支援)、DX企業変革(M&A投資)といった多岐にわたるコンサルティングサービスを提供しています。

One Capitalのファンド規模は1号ファンドで合計170億円、2号ファンドは最終的に200億円を目指しており、その多くを国内外の機関投資家から調達しています。22社の投資先のうち19社でリード投資家を務めるなど、少数精鋭でハンズオンな支援を徹底しています。浅田氏は、投資領域を「横グローバル」ではなく、「縦グローバル」と表現し、SaaS、フィンテック、ヘルスケアなど特定分野での深い専門性を追求しています。

Coral Capital:「オープンマインド」なグローバル戦略

一方、ジェームズ氏が率いるCoral Capitalは、総額約600億円に上る運用資産を持つ国内最大級の独立系VCの一つです。彼のキャリアは、日本のスタートアップエコシステムの成長と密接にリンクしています。ジェームズ氏は、自身が起業した当初の日本市場には「いい投資の機会」がある一方で、「スタートアップがない」「シリコンバレーっぽいVCがない」「起業家出身キャピタリストがいない」といった課題が存在することに気づきました。この「市場の空き」にチャンスを見出し、Coral Capitalを立ち上げたのです。

Coral Capitalは、One Capitalとは対照的に特定のセクターに固執せず、幅広い領域にオープンマインドな投資を行っています。しかし、その根底には「グローバルで本気で勝負しようとしているスタートアップをもっと増やしたい」という強い思いがあります。彼らが提供する価値は、「スケール」と「スピード」。成功事例を加速させ、世界に羽ばたく日本企業を育むことに注力しています。

ジェームズ氏が特に重要視しているのは、「人」です。彼は「IQとEQのバランスが取れている人」こそがVCにフィットすると語り、自身のチームも多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成されています。また、キャピタリストとして「起業家からの評価」が最も重要であると考え、「時代が変わった」と述べて、もはやVCが上から目線で指導する時代ではないことを示唆しています。


結論: 日本のスタートアップエコシステムの未来を拓く

日本のVC業界は、過去の成功モデルに囚われず、常に変化と進化を求められています。浅田氏とジェームズ氏の議論は、その挑戦の最前線で何が起こっているのかを鮮やかに描き出しました。

VCは、単に資金を提供するだけでなく、起業家と共に汗を流し、知恵を絞り、時には厳しい決断を下しながら、未来を創造するパートナーです。その役割を全うするためには、高い知性と感情的知性を兼ね備え、常に学習し、プロダクトの本質を深く理解しようとする「好奇心」が不可欠です。

One CapitalのようなSaaS特化のブティック型VCが深い専門性とハンズオン支援で特定の領域のイノベーションを加速させる一方で、Coral Capitalのような「オープンマインド」なVCが、新たな技術やビジネスモデルの可能性を追求し、グローバル市場でのスケールアップを支援しています。

日本のスタートアップエコシステムは、この多様なVCがそれぞれの強みを活かし、競争し、協力し合うことで、さらなる高みを目指せるはずです。そして、何よりも重要なのは、未来を信じ、リスクを恐れず、世界を変えようと挑戦する起業家たちの情熱です。

このブログを読んだあなたが、ベンチャーキャピタリストという仕事に、そして日本のスタートアップが描く未来に、少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。私たちジャーナリストもまた、このエキサイティングな時代の目撃者として、その物語を伝え続けていきたいと思います。