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AIエージェントは営業を殺したのか?SaaStr CEO Jason Lemkinが語る、AI時代の営業・組織・投資戦略の真実

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SaaStr AI Annualの会場は、AIがビジネスにもたらす計り知れない可能性への期待と、その激しい変化への戸惑いが交錯する熱気に包まれていました。SaaS業界の著名な思想家であり、SaaStrのCEO兼創設者であるJason Lemkin氏は、この変革の最前線から、AIエージェントが私たちのビジネス、特に営業という機能にどのような影響を与えているのかについて、率直かつ深い洞察を披露しました。

彼の言葉は、単なる技術トレンドの解説に留まらず、今日の企業が直面する戦略的課題、組織の変革、そして投資の未来までをカバーしています。本記事では、Jason Lemkin氏の講演内容を深く掘り下げ、AIエージェントが再定義する営業の未来、AI時代のビジネス戦略、組織と人材の変革、技術の現状と可能性、そして投資環境の変化について詳細に分析していきます。

第1章: AIエージェントが再定義する営業の未来

かつて、AIは人間の作業を「効率化」し、「代替」するものと見なされていました。しかし、Jason Lemkin氏の視点は異なります。彼は、特定の領域においてAIエージェントが人間を凌駕する能力を持つ段階に達していると指摘し、企業が目指すべき目標は「最高の営業担当者の80%を再現する」ことではなく、「人間以上の成果を出す領域を見つけること」だと提言します。

1.1 人間を超えるAIエージェントの力:目標のシフト

Jason氏は語ります。「あるケースでは、エージェントが人間よりも優れているという段階に達していることに気づきました。ですから、あなたの目標は、最高の担当者の80%を再現することではなく、人間よりも高い目標を達成できる領域を見つけるべきです。」 これは、AIを単なる効率化ツールとしてではなく、新たな価値創造のパートナーとして捉えるべきだという、根源的なパラダイムシフトを意味します。AIの活用は、人間の能力の限界を押し広げ、これまで不可能だったことさえ可能にする力を持つ、という強いメッセージです。

1.2 ソーシャルセリングの進化:無駄から価値創造へ

Jason氏は、2021年頃に流行した「ソーシャルセリング」を例に挙げ、従来のやり方の限界を指摘しました。多くの人がLinkedInで100人のプロスペクトをモニタリングし、「Great job!」のような定型的なコメントを残すことで営業を進めようとしましたが、彼はこれを「LinkedInで時間を無駄にすること」と断じています。見知らぬ人からの「Great job, Jason」というコメントに、彼がミーティングに応じることはなかったと言います。

しかし、AIエージェントが登場したことで、この状況は一変しました。彼は、自身のソーシャルメディア活動をAIエージェントに任せたところ、驚くべき価値が生まれたと説明します。 「私たちのためにソーシャルメディアを行うエージェントを立ち上げた今、そのエージェントは実際に価値を加えることができます。エージェントはそれを行い、問題を分析し、私のアカウントを見て、解決策と答えを提供することができます。人間には決してできません。それは『インスタントな、とんでもない価値(instant effing value)』です。」

具体的な例として、彼がReplit(開発プラットフォーム)についてOAuthの問題を抱えていると投稿した場合、AIエージェントは以下のような行動を取ると想像されます。

  1. 問題の分析: 投稿内容から具体的な技術的課題を把握する。
  2. アカウント情報の確認: 顧客(Jason氏)のReplitアカウント情報を参照し、問題の原因を特定する。
  3. 解決策の提示: 即座に具体的な解決策や回避策を提供する。

これは、単なる「いいね」や「おめでとう」のコメントとは比較にならない、顧客の課題に直接応える「深い価値」を提供します。人間であれば、このような即座かつパーソナライズされたサポートは、多くの時間と専門知識を要し、物理的に不可能です。AIエージェントは、この領域で人間を遥かに凌駕する能力を発揮し、ソーシャルセリングを「顧客の課題を解決する」ための強力なチャネルに変革する可能性を秘めているのです。

別の例として、顧客が「HubSpotと統合でき、特定のワークフローを持つAI SDRツールを探している」と投稿した場合、AIエージェントは次のように対応できます。 「当社のツールがそのワークフローに対応できます。同じワークフローを持つ22社の顧客をご紹介できます。Payhawkチームと話したいですか?ご紹介しましょうか?」 これは、単なる営業トークではなく、顧客が抱える具体的なニーズに対して、パーソナライズされた、実績に基づいたソリューションを即座に提示するものです。まさに「インスタントな価値」の具現化と言えるでしょう。

1.3 インバウンド対応の劇的な変革:AI BDRの衝撃

営業活動において、特に見込み顧客の獲得と資格認定は、時間とリソースを大量に消費するプロセスです。Jason氏は、Salesforceが買収したQualifiedというエージェントの事例を挙げ、AIがインバウンド対応をいかに劇的に変革しているかを強調しました。

「我々が利用しているエージェントの一つにSalesforceのQualifiedがあります。それはインバウンドの顧客を管理します。彼らは私たちに会いたがり、スポンサーになりたがり、何かをしたがっています。そして、それは彼らの質問に答え、彼らを資格認定し、もし彼らが良いプロスペクトであれば、リアルタイムでミーティングを設定します。」

Qualifiedが設定したミーティングの数は、なんと682件。そしてJason氏は断言します。 「これは私がこれまで一緒に働いたどんなBDRよりも優れています。BDRは月に何件、週に何件のミーティングを設定することになっていますが、その多くは質の悪いミーティングだったり、ノルマ達成のために基準を下げていたりします。そしてミーティングに参加しても、その内容はつまらないものです。しかし、このエージェントは682件もの質の高いミーティングを設定しました。」

従来の人間BDRは、多くの場合、ノルマ達成のために「とりあえず」ミーティングを設定し、その質が低いことが問題でした。Jason氏が「魂を砕かれるような(soul-crushing)電話」と表現するように、製品知識の乏しいBDRが「San Mateo Community Collegeを卒業したばかりの私、Jasonが、御社が何をしているかを知り、次の週にAEがあなたと話す価値があるかどうかを判断する」といった状況は、プロスペクトにとっても時間と労力の無駄でした。 AIエージェントは、質問に正確に答え、顧客のニーズを深く理解し、適切な資格認定を行うことで、人間BDRでは達成できないような量の「質の高い」ミーティングを自動で設定できます。これは、営業プロセスにおける劇的な効率化と品質向上をもたらし、Jason氏は「これに勝る人間BDRはいない」とまで言い切ります。

この経験から、Jason氏は2つの重要な提言を行いました。

  1. インバウンド対応の完全自動化: 「もしあなたが他に何もせずとも、ウェブサイト上のインバウンド対応は真に自動化すべきです。彼らが質問の答えを得て、次の週に人間とのミーティングを設定できないのは嘆かわしいことです。」
  2. APIのエージェントフレンドリー化: 「APIがエージェントフレンドリーでないのは嘆かわしいことです。なぜなら、エージェントが『別のベンダーを使いたい』と言い出すことで顧客を失うからです。」

これらの提言は、AI時代の営業戦略において、企業が顧客接点のデザインと技術基盤をどのように変革すべきかを示唆しています。

1.4 セールスパーソンに求められる新たなスキル:製品専門知識と顧客との深いつながり

AIエージェントが顧客との最初の接点や基本的な問題解決において人間を凌駕する一方で、セールスパーソンに求められる役割も大きく変化しています。Jason氏は、この新しい時代においてセールスパーソンが生き残るための鍵は、「製品のエキスパート」になることだと強調します。

「製品がこれほど早く変化しているAIの時代には、セールスチームは製品のエキスパートでなければなりません。彼らは『くそくらえ』とばかりに製品を完全に理解している必要があります。」

かつて、セールスパーソンは「割引提供」や「Giantsのチケット」といった付加価値で関係を築き、製品知識は二の次でした。特に、Salesforceのような長年使われている製品の場合、顧客は製品を熟知しているため、セールスパーソンに求めるのは契約条件や人間関係がほとんどでした。Jason氏は、Zoomで関係を築くのは不可能であり、実際に顧客と会ったことがあるかという質問を面接で投げかけると言います。

しかし、AI時代においては、製品は「3ヶ月前とは全く違うもの」になっている可能性があります。この急速な変化の中で、顧客は「製品を実際に理解しているセールスパーソン」を求めています。もしセールスパーソンがCody (Replitのフィールドエンジニア) のように顧客の具体的な問題を深く理解し、解決策を提供できないのであれば、顧客はそのセールスパーソンを迂回し、より知識のあるベンダーを選ぶでしょう。

Jason氏は、理想的なセールスパーソンとは、顧客が数ヶ月、数年経っても追いかけてくるような存在であると語ります。 「あなたの会社に適切なセールスチームがいるのはいつわかるか?顧客が数ヶ月、数年後も彼らを追いかけ回すときです。彼らがセールスプロセスでこれほど多くの価値を加えたため、ニューヨークの誰かに引き継がれても、彼らはそれを受け入れず、ボビーやリンジーに戻っていくときです。それが偉大なセールスパーソンの証です。彼らは顧客を解放することができません。」

これは、セールスパーソンが単なる取引の仲介者ではなく、顧客の真のパートナーとして、製品知識と深い洞察を通じて価値を創造する役割を担うべきだというメッセージです。ゴルフや社交による「おべっか」はもはや機能しません。「お金を見せろ(show me the money)」ではなく、「価値を見せろ(show me the value)」の時代なのです。

この「即座の価値提供」の重要性は、SalesforceのCEOであるMarc Benioff氏の洞察とも一致します。Jason氏がPalantirから学んだことについて尋ねた際、Marc Benioff氏は「Salesforceのすべての顧客がFDE(Field-Deployed Engineer)を持ち、デプロイされるまで私に支払う必要がないことを願っている」と語ったそうです。これは、契約前に顧客が製品の価値を完全に実感できるような、即座の価値提供モデルへの願望を示しています。AI時代において、この即座の価値提供能力がセールスの成否を分けることになるでしょう。

第2章: AI時代のビジネス戦略と組織の変革

AIの登場は、単に営業の現場を変えるだけでなく、企業全体のビジネス戦略、計画プロセス、そして組織構造そのものに根本的な変革を迫っています。Jason Lemkin氏は、この新たな時代における企業のあり方について、これまでの常識を覆すような提言を行っています。

2.1 計画から「構築」へ:不安定な世界でのアジャイルな戦略

Jason氏は、2021年のSaaS業界の状況を振り返り、「計画」が非常に有効だった時代があったと語ります。当時はあらゆるSaaS製品が成長し、GoToMeetingのような20年前の製品でさえ売れました。世界が安定し、製品も昨年とほとんど変わらない状況では、年単位の大きな計画を立てることが理にかなっていました。多くの企業が年に一度の大規模リリースと四半期ごとのリリースを行い、大量の人間がリードとセールスキャパシティを管理していました。

しかし、今日のAI時代においては、状況は劇的に変化しました。 「今日、最も急成長している企業のCEOに尋ねれば、『私たちは今、毎週計画を立てています』と言うでしょう。」 世界が不安定な状況にある場合、長期的な計画のROI(投資対効果)は低下します。Jason氏は、「不安定な世界では、すべての計画時間をより良い製品をより速く構築することに費やすべきだ」と主張します。

これは、従来の「プロダクト主導型成長(product-led growth)」の概念をさらに一歩進めた、「プロダクト駆動型世界(product-driven world)」への移行を意味します。 「私たちはプロダクト駆動型の世界にいます。ここにある製品のいくつかは、1年前には不可能でした。そして、それらは素晴らしいことをしていて、不可能だったことをしているため、巨大な市場からの牽引力を持っています。」 AIによって、製品開発のサイクルはこれまでにないほど加速し、昨日不可能だったことが今日可能になる世界では、固定的な計画よりも、市場の要求に素早く対応し、優れた製品を迅速に構築する能力が最も重要となるのです。営業担当者が足りなければ、翌日には採用する。それがこの時代のスピード感だと言えるでしょう。

2.2 新しい役割「GTMエンジニア」の誕生:内部人材の育成

AI時代には、GTM(Go-To-Market)戦略の実行と最適化を担う新しいタイプの専門家が必要となります。Jason氏の会社では、「GTMエンジニア」あるいは「GTMアーキテクト」という新しい職種を創設しようと試みました。彼の会社は社員1,000人、営業担当者100人、SDR50人、マーケティングチーム30人という規模です。

しかし、Jason氏は外部からこの役割の人材を探すことの難しさを指摘します。 「これらの人々は存在しませんし、あなたのために働きたいとも思っていません。」 彼らの会社のAmelia氏が、このイベントで示唆したように、彼女はGTMエンジニアとしてすべてのシステムを運用していると言います。しかし、1年前にはこれらのシステムをサポートするツールが存在しなかったため、Amelia氏でさえこの役割を果たすことはできませんでした。そして、「あなたのために働こうとしているAmeliaが何人いるでしょうか?おそらく誰もいません」とJason氏は語ります。

彼の提案は、既存のマーケティングチームの中から「ツールオタク(tool nerd)」を見つけ出すことです。 「マーケティングの30人のうち、ツールに夢中で、マーケティングをハックする方法を思いつき、エンジニアではないがZapierでシステムを接続したり、完全にサポートされていないダッシュボードを自力で構築したりする人がいるはずです。その人に話しかけてください。」 AI時代のツールは、依然としてツールに過ぎません。重要なのは、それらのツールを好奇心を持って使いこなし、ハックし、ビジネスに適用できる人材です。そのような「ツールオタク」は、新しい技術を学び、既存のシステムと連携させることに喜びを感じるため、AI時代のGTM戦略の中核を担うことができます。Jason氏は、外部からの採用よりも、内部の人材を育成することの優位性を強調しました。

2.3 組織をAIネイティブにするには:リーダーシップへの提言

組織全体がAIの変革の波に乗るためには、リーダーシップ層がAIを深く理解し、その可能性を信じることが不可欠です。Jason氏は、リーダーがAIに「ループイン」していない組織は「AI fluent(AIに精通している)」ではないと断言します。 「もしあなたがその質問をしなければならないなら、あなたの組織は定義上AI fluentではありません。」

彼は、リーダーシップ層にAIの「魔法の瞬間」を体験させることの重要性を説きました。彼自身がAmelia氏と共同で開発したAIエージェント(10K AI VP of Marketing)が、イベントのフォローアップメールを作成する様子をライブでデモンストレーションしました。 「私がリーダーシップのためにするであろうことは、あなたが社内で使っている最も魔法のようなアプリ、あなたがしている最も魔法のようなことを持ち出して、この部屋で彼らに見せてみることです。そして何が得られるか見てください。」

もしリーダーがその「魔法の瞬間」を理解できないのであれば、組織は問題に直面するでしょう。しかし、リーダーが「アハ体験」をし、「どうすればこれを私たちの会社に持ち込めるか?」と問いかけるようになれば、組織的な変革を推進できるとJason氏は確信しています。彼らに最高のツール、最高のユースケース、最高のデモを見せることで、AIが単なるバズワードではなく、具体的な変革をもたらす力であることを実感させる。これが、AIネイティブな組織へと変革するための第一歩なのです。

第3章: AI技術の現状と垂直統合型SaaSの可能性

AI技術は急速に進化していますが、その初期段階では「完璧ではない」という課題も抱えています。Jason Lemkin氏は、AIの「slop(雑さ)」を認めつつも、その急速な改善と、特に「垂直統合型SaaS」においてAIが発揮する大きな可能性について言及しています。

3.1 ハルシネーションと「slop(雑さ)」の課題:不完全さの中での価値

AIの初期段階では、ハルシネーション(もっともらしいが事実と異なる情報を生成すること)や、製品の「slop」(雑さ、不完全さ、バグの多さ)が大きな課題として認識されています。Jason氏もこの点を認め、多くのAI製品が「登録した途端に次の画面が機能しない」といった問題を抱えていると指摘します。 「あなたは全く正しいです。slopがあります。そしてslopとは、毎週、毎月変化しているということです。」

しかし、彼の視点は単なる批判に留まりません。彼は「slopがあるからこそ、我々が構築したもの全てが存在する」と逆説的に語ります。もしAIが最初から完璧であったなら、それはSquarespaceのような静的なツールに過ぎなかったでしょう。 Jason氏が注目しているのは、「価値対slopの比率」が急速に改善していることです。 「価値対slopの比率は改善しています。そして、私たちが生産できるもの、出力できるものは毎週改善しています。だから、一つの見方としては、『ああ、slopだ、なんだかんだだ』と思うかもしれませんが、もっと興味深いのは改善の傾斜です。」

彼はLinkedInのコメント機能を例に挙げます。数ヶ月前は「Go team!」のようなひどいコメントばかりでしたが、ここ1ヶ月ほどでコメントの質が劇的に向上し、「非常に良い」レベルに達したと指摘します。90日後には、AIが生成するコメントが人間よりも優れているため、LinkedInの投稿もAIに任せ、AI同士で会話させるべきではないかと冗談交じりに語るほどです。 もちろん、AIが生成するコメントには「価値がない(hollow)」という課題は残るものの、彼の製品においては「価値がslopの50倍」であると強調します。AI製品のソフトウェア自体はまだ未熟でバグが多いかもしれませんが、AIそのものが提供する価値があまりにも高いため、その不完全さを受け入れることができるのです。彼は「AIはソフトウェアよりも優れていることがある」とまで述べています。

3.2 垂直統合型SaaSの優位性:ドメイン特化型AIの力

「垂直SaaS」という概念は、特定の業界やニッチ市場に特化したソフトウェアを提供するビジネスモデルを指し、Jason氏も「フロッピーディスクの時代から存在した」と語るように、決して新しいものではありません。しかし、AIの登場は、この垂直SaaSに新たな、そして計り知れない優位性をもたらしています。

「垂直SaaSと異なるのは、エージェントをロードアップできるため、より優れたドメインエキスパートになれることです。」 水平型SaaSが広範なニーズに対応しようとするのに対し、垂直SaaSは特定の業界に特化することで、その業界特有の深い知識をAIエージェントに学習させることができます。これにより、AIエージェントは非常に専門的で的確なアドバイスやソリューションを提供できるようになるのです。

Jason氏は、Ownerというレストラン業界向けSaaSの事例を挙げ、Adam氏が構築した「AI CMO」について説明します。 「Adamの会社のAI CMOは、CMOとして全てを知る必要はありません。彼のビジネスはレストランに売るものですから、幸運にも、知るべきことは限られています。」 このAI CMOは、以下のようなレストラン業界に特化した知識を深く習得しています。

  • メニューの仕組み
  • デリバリーの仕組み
  • フードプレップの仕組み
  • アップセルの仕組み
  • ワカモレの仕組み(「メキシコ料理店で最も利益率の高い追加メニューの一つ」であるため、そのマーケティング方法まで知っている)
  • 購買意欲をそそる画像の種類
  • 商品の提示順序
  • SEOや地域情報がどのように機能するか

このドメイン特化型AI CMOは、水平型のAIでは決して到達できないレベルで、レストラン業界のビジネスに貢献できます。あらゆる業界のマーケティング知識を持つ水平型エージェントよりも、特定の業界に特化した知識を持つ垂直型エージェントの方が、はるかに優れた成果を出せるのです。

Jason氏は、ReplitやLovableのような水平型エージェントの挑戦の難しさも指摘します。これらのツールは、ユーザーが非常に多様なものを構築するため、「何を構築したのかさえユーザー自身が知らない」という状況で、汎用的なサポートを提供することの難しさがあります。これに対し、垂直型AIは、限定されたドメイン内で深い専門知識を培うことで、圧倒的な優位性を確立できるのです。

第4章: AIエコシステムにおけるベンダー選定と競争戦略

AI技術の急速な進化は、企業が導入するツールの選択とその運用方法、さらには競争戦略のあり方にも大きな影響を与えています。Jason Lemkin氏は、自身の経験から、ベンダー選定における現実、AIエージェントの意外な「個性」、そしてAI時代の競争における「ランドグラブ」という概念の再定義について語っています。

4.1 ベンダー選定の現実:スイッチングコストと「慣性の獲得」

Jason氏は、SaaStrがAIエージェントを構築する際に経験したベンダー選定のプロセスを例に挙げます。彼は昨年、イベント会場で「もしAI SDRが機能するなら、もう人間は雇いたくない」とまで考えていました。そんな中、Amelia氏がArtisanのCEOと出会い、「デモや次週のスケジュールなしに、すぐにデプロイしてくれる」という提案を受けました。その結果、SaaStrはArtisanを導入し、多大なビジネスをもたらす「スーパーファン」となったと言います。

しかし、別の有名ベンダーのCEOからは「なぜ私たちを使ってくれないのか」と尋ねられたそうです。その理由は、そのベンダーが「我々はあなたの時間の価値に見合わない」と主張するCROとの会話を要求し、製品のカスタマイズもせず、導入に数ヶ月かかると言ったためでした。

この経験から、Jason氏はAI製品のベンダー選定において、スイッチングコストが重要であることを学びました。データロックのような技術的な壁だけでなく、コンテキスト切り替えのコストや、新しいベンダーのツールに慣れるための時間と労力が大きな負担となります。 彼は語ります。「どちらのベンダーを選ぶかは本当に重要ですが、そして私たちは今日何度も言いましたが、それは依然として真実です。最も重要なのは、それをトレーニングし、本当にうまく使いこなすことです。」 Jason氏は、たとえ競合他社より11%劣っていたとしても、自分が既に熟練し、うまく使いこなせるベンダーを使い続けることを選びます。ReplitやLevel Bloom、V Zeroといった様々なツールを試した上で、彼らはReplitのスーパーファンになりました。Amelia氏と彼自身がReplitの扱いに非常に長けているため、スイッチングコストが非常に高くなってしまうのです。

これは、「ランドグラブ(land grab)」という、顧客を一度囲い込んだら長く維持できるという古い概念とは少し異なります。AI時代では、顧客は「8〜10ヶ月後にベンダーを再評価する」と考えているため、長期的なロックインは難しいかもしれません。しかし、Jason氏は「ランドグラブではないが、『慣性の獲得(inertia grab)』は存在する」と表現します。一度顧客が信頼し、熟練したベンダーから他社へ移行させるには、「2倍良い」製品でなければならないと彼は言います。

4.2 AIエージェントの「個性」:異なる「テイスト」の活用

さらに興味深いのは、AIエージェントが、まるで人間のように「個性」や「テイスト」を持つ可能性があるというJason氏の洞察です。彼は、SaaStrの「10K AI VP of Marketing」というエージェントを、ReplitとLevel Upという2つの異なるプラットフォームで構築する実験を行いました。

両方のエージェントに「今日の最高の3つのアイデア」を尋ねたところ、どちらも良いアイデアを提示しましたが、その「視点」や「テイスト」が異なっていたとJason氏は語ります。

  • Replitで構築されたエージェント: Amjad氏(ReplitのCEO)やチームのDNAを反映しているかのように、パフォーマンスマーケティング(より多くのメールを送信する、測定可能な活動を行う)に非常に焦点を当てていた。
  • Level Upで構築されたエージェント: Anton氏(Level UpのCEO)の個性や製品マーケティングのバックグラウンドを反映しているかのように、デジタルメディアやブランドマーケティングに焦点を当てていた。

この発見は、AIエージェントが単なる機能の集合体ではなく、その開発元の哲学や設計思想を内包し、それが「個性」として現れる可能性を示唆しています。Jason氏は、将来的に複数のAI VP of Marketingを異なるベンダーから導入し、「彼らを争わせる」ことで、それぞれの「テイスト」から最適な戦略を引き出すことができるかもしれないと語りました。これは、AIの活用が単一のツールに依存するのではなく、多様なAIの強みを組み合わせる「AIポートフォリオ戦略」へと進化する可能性を示唆しています。

4.3 AI時代の「ランドグラブ」と顧客との関係性:短期契約と「ジャーニー」

従来のB2Bソフトウェアの世界では、「ランドグラブ」という戦略が重要視されていました。一度顧客を獲得すれば、高いスイッチングコストによって長期的に囲い込むことができ、製品が10年間変化しなくても問題ないという考え方です。しかし、Jason氏はAI時代において、この概念が変化していると指摘します。

「今日、AIにはランドグラブがないかもしれません。なぜなら、反対のトレンドがあるからです。それは、私が知っている多くの企業が、最初の月に500万ドル、最初の2ヶ月に1,000万ドルと急成長している一方で、顧客は『1年間しかコミットしない』と言っているからです。」 顧客は、AI製品が急速に進化すること、そして市場に新たな競合が次々と現れることを認識しています。そのため、「8ヶ月から10ヶ月後には、もう一度ベンダーを検討する」という姿勢で契約を結んでいます。これは、ベンダーが常に顧客に価値を提供し続け、イノベーションを止めないことを求められる厳しい環境です。

しかし、前述の「慣性の獲得」のように、顧客が一度信頼し、投資したベンペーから完全に離れることは容易ではありません。Jason氏は、B2Bソフトウェアにおいて常に真実だったことが、AI時代ではさらに重要になっていると語ります。それは、顧客が「今日のソフトウェア」だけでなく、「今後2年間でどこに向かうか」という「ジャーニー」を購入しているということです。 「ほとんどの場合、あなたの顧客は今日のソフトウェアを買うだけでなく、今後2年間でそれがどうなるかというジャーニーを買います。彼らはあなたのロードマップを買うのです。」

スタートアップと仕事をするリスクを理解しつつも、顧客は「停滞したソフトウェアとは異なり、製品が時間とともに凍結しない」という期待を持って投資します。だからこそ、CEOが初期段階で顧客と会い、信頼関係を築き、将来のロードマップを共有することが極めて重要となります。AI時代は、私たちがどこに向かっているのかさえ不確かなため、この「ジャーニーへの信頼」はさらに価値を増しています。

「スイッチングコストは下がりましたが、多くの顧客が信頼するエージェントベンダーと留まりたいという願望もそこにあります。」 市場に積極的に参加し、この瞬間を見逃さないこと。信頼を築き、顧客を巻き込む「ジャーニー」を共有することが、AI時代の競争において重要な戦略となるでしょう。

第5章: AIが変える投資と人材の未来

AIの波は、ベンチャーキャピタルの投資基準や、企業が求める人材像にも根本的な変化をもたらしています。Jason Lemkin氏は、現在の投資環境を「私たちの生涯で最も極端な状況」と表現し、エンジニアリング人材の未来についても独自の洞察を語っています。

5.1 ベンチャーキャピタルの唯一の指標「成長」:極端な投資判断

現在のベンチャーキャピタル業界では、「成長(Growth)」が唯一と言っていいほどの投資基準になっているとJason氏は指摘します。 「今日の世界では、成長以外何も重要ではありません。利益率は関係ありませんか?いいえ。収益が継続的であるかは?いいえ。複数年契約があるか?いいえ。Cerebrasは今日、約40億ドルの時価総額で上場しようとしていますが、興味深い顧客はいくつかありますが、基本的に中東に顧客が2社いるだけです。誰も気にしません。私たちは成長に中毒になっているのです。」

Anthropicが9500億ドルの評価額で資金調達をしているような状況では、投資家は詳細なデューデリジェンスを行う時間さえありません。Jason氏はこれを「貪欲さの時代」と呼びつつも、論理的であると認めています。なぜなら、SpaceX、Anthropic、OpenAIといった企業が、今後数ヶ月で「3兆ドル以上のIPO」を達成する可能性があり、その価値はこれまでのすべてのテクノロジーIPOを合わせたよりも大きくなる可能性があるからです。このような途方もない「ハイエンド」の可能性を前にしては、他のあらゆる指標がかすんでしまうのです。

かつては「トリプル・トリプル・ダブル・ダブル(毎年300%、300%、200%、200%成長)」のような高い成長率に加え、優れたCEOとチームが投資の決め手でした。また、年100%成長で1億ドルに到達するような「堅実な」スタートアップも資金を得られました。しかし、現在の極端な市場では、これまでの「良い成長」では不十分になっています。 Jason氏は、Rory氏(SaaStrの共同創設者の一人)の驚異的な記憶力に触れ、かつてRory氏が、あらゆるスタートアップの調達ラウンドの詳細を記憶し、その企業の将来の成長を正確に予測できたと語ります。しかし、AI時代における「SaaSの黙示録」とも呼ばれる不確実性の中では、かつて確実だったはずの「堅実な成長」でさえ、ベンチャー投資家にとっては「非常に不確実なもの」に見えるようになっています。 結果として、多くのスタートアップが資金調達に苦労しており、Jason氏は「あなたの成長がまだ本当に本当に本当に素晴らしいとしても、あなたは100回のミーティングをしなければならないかもしれません」と現在の厳しい現実を語っています。

5.2 エンジニアリング人材の二極化:ハイスキル人材への集中

エンジニアリング人材の需要も、AIによって大きく変化しています。2020年から2021年にかけては、無限の予算と利益度外視の成長戦略により、エンジニアの需要はピークに達しました。しかし、AIの登場により、基本的なソフトウェアの構築に必要なエンジニアの数は減少しています。 「ひどいソフトウェアを構築するのに、もうそんなに多くのエンジニアは必要ありません。」 Jason氏とAmelia氏が、開発者なしで「かなりイケてる」AIエージェントを構築できたことを考えれば、それは明らかです。

しかし、これはエンジニアが不要になったという意味ではありません。むしろ逆です。 「バーは非常に高くなっています。そのため、誰もが10xエンジニア、100xエンジニア、Sクラスの人材を雇い続けます。彼らの生産性は驚異的だからです。」 AI技術の進歩は、同時に「アームズレース」を引き起こしています。企業は競合他社に先駆けて最高のAI製品を開発するために、これまで以上に優れたエンジニアを求めています。基本的なコード生成はAIが担えますが、複雑なシステム設計、革新的なアルゴリズム開発、高度な問題解決能力を持つトップクラスのエンジニアの価値は飛躍的に高まっているのです。

一方で、エントリーレベルや「Bティア」のCSエンジニアは厳しい状況に置かれています。Jason氏の息子は大学で数学とストリング理論を専攻し、研究室から仕事のオファーを受けていますが、彼のCS専攻のクラスメートには「誰も仕事がない」と言います。 「ほとんどの場合、BティアのCSエンジニアに需要はありません。壊滅的な状況です。」 企業は、基本的な管理ページの構築に3ヶ月かかるような「平凡な人材」を雇う必要がなくなりました。これは、大学のCS教育と産業界のニーズとの間に大きなギャップが生まれていることを示唆しています。AI時代においては、単にコードを書けるだけでなく、高度な問題解決能力と革新的な思考力を持つエンジンスキルが求められる、人材の二極化が進むでしょう。

5.3 2020-2021年の「異常」とAI時代の「構造変化」の対比

最後に、Jason氏は2020年から2021年のパンデミックによるテクノロジーブームと、現在のAIブームとの決定的な違いを指摘しました。2020-2021年のブームは、COVID-19という「異常なウイルス」によって引き起こされた一時的な需要の増加に過ぎなかったと彼は語ります。 「それは2020年、2021年とは全く違います。あのプレイブックは何も機能しません。なぜなら、それはウイルスの異常現象にすぎなかったからです。」

Shopifyのデータや、デジタルイベントソフトウェア企業Hopinの例を挙げ、パンデミックによる需要の急増はわずか数ヶ月で終わり、その後は2020年以前のトレンドに戻ったと説明します。多くの企業が1〜3年契約を結んだため、ARR(年間経常収益)の数字上はしばらく好調に見えましたが、ネット新規顧客の獲得は数ヶ月でゼロになったと言います。 この時期は、ソフトウェア自体に根本的な変化があったわけではありません。人々が20年前のソフトウェアを「流行遅れになるかのように」購入したという、一時的な「ゆがみ」でした。

これに対し、AIがもたらしているのは「異常」ではなく、「構造的な変化」です。AIは、ビジネスのあり方、製品の開発、顧客との関係性、組織の機能、そして市場全体のルールを根本から書き換えています。これは、一過性のトレンドではなく、私たちのビジネスと社会の基盤を長期的に変革する力を持っています。 「私はあの時代から何も学んでいないと思います。なぜなら、それは上がって、下がって、元に戻っただけだからです。私たちはもはや在宅勤務さえしていません。変わったことはありますが、それほど多くはありません。」

Jason氏の言葉は、AIがもたらす変革の深さと持続性を理解し、一時的なブームに惑わされずに本質的な変化に対応することの重要性を強調しています。

まとめ:AIがもたらすビジネスの根本的な変革

Jason Lemkin氏のSaaStr AI Annualでの洞察は、AIエージェントが単なる自動化ツールを超え、ビジネスの可能性を根本から拡張する存在であることを鮮やかに示しています。彼の言葉は、企業が直面する課題と機会、そして未来への明確な方向性を提示しています。

AIエージェントは、営業のあり方を根本から変革します。 顧客の課題に即座に、パーソナライズされた価値を提供できるAIエージェントは、従来の「人間BDR」を凌駕し、ソーシャルセリングやインバウンド対応に「インスタントな、とんでもない価値」をもたらします。これにより、セールスパーソンには、製品の深い専門知識と顧客との真に価値ある関係を構築する能力が、これまで以上に強く求められるようになります。

ビジネス戦略と組織は、よりアジャイルに、プロダクト駆動型へと進化する必要があります。 世界が毎週のように変化する中で、長期計画は意味をなさず、「より良い製品をより速く構築する」ことが唯一の戦略となります。「GTMエンジニア」のような新しい役割を担うのは、外部の人材ではなく、社内の「ツールオタク」を育成し、AIの「魔法の瞬間」をリーダーシップ層に体験させることが、組織全体をAIネイティブにする鍵となります。

AI技術はまだ完璧ではありませんが、その「価値対slopの比率」は急速に改善しています。 特に、特定の業界に特化した「垂直SaaS」は、ドメイン特化型AIエージェントの深い専門知識を活用することで、水平型エージェントにはない強力な優位性を確立できるでしょう。

AIエコシステムにおけるベンダー選定では、「慣性の獲得」が重要です。 顧客は短期的な契約を結び、ベンダーを常に評価しますが、一度信頼し、熟練したベンダーから移行するには「2倍良い」製品が必要となります。ベンダーは、顧客の「ジャーニー」に投資してもらい、長期的な信頼関係を築くことで、この「慣性」を獲得することができます。AIエージェントが持つ「個性」すらも、今後の戦略において考慮すべき要素となるかもしれません。

投資と人材の未来は、極端な「成長」と「ハイスキル人材への集中」によって特徴づけられます。 ベンチャーキャピタルは、途方もないリターンを追求し、成長以外のあらゆる指標を軽視します。エンジニアリング分野では、AIによるコード生成が普及する一方で、10x、100xといったトップクラスのエンジニアへの需要はかつてなく高まり、エントリーレベルの人材は厳しい競争に直面することになります。

Jason Lemkin氏は、「もしあなたが今日興奮していないなら、仕事を辞めて別のことをすべきだ」と語りました。この言葉は、AIがもたらす変革が、私たち自身のキャリアとビジネスのあり方を再考させるほどに、深く、そして広範であることを示唆しています。 AIは単なるツールではありません。それは、ビジネスのあらゆる側面に浸透し、新たな価値を創造し、これまで想像もしなかった可能性を解き放つ力です。この激動の時代において、企業はアジャイルに戦略を適応させ、人材を育成し、顧客に真の価値を提供することで、未来を切り開いていくことができるでしょう。