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2度のEXITから学ぶ、シリアルアントレプレナー堀井翔太が語る「次の時代を創る」起業と経営の哲学

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スタートアップの世界では、成功への道筋は常に不確定要素に満ちています。しかし、その道のりを何度か経験し、成功を収めてきたシリアルアントレプレナーの言葉には、類まれなる深みと説得力があります。今回、私たちはスマートバンク代表取締役社長である堀井翔太氏の講演から、2度のEXITを経験した彼が、起業と経営の本質について語る貴重な洞察を深く掘り下げます。

堀井氏は、VOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)での経験を経て、2012年に日本初のフリマアプリ「FRIL(現楽天ラクマ)」を開発・創業。2016年には同社を楽天に数十億円で売却し、代表取締役CEOを退任するという、一度目の大きな成功を収めました。そして2019年には、再度「スマートバンク」を創業。2023年には大型資金調達を成功させ、日本のFinTech市場で存在感を高めています。

このブログ記事では、堀井氏が自身の起業経験を通して得た、会社カルチャーの形成、採用戦略、経営における盲点、資金調達の意義、そしてプロダクト開発への哲学を詳細に分析します。彼の言葉一つ一つに込められた、起業家としての覚悟と、事業を成功に導くための具体的なヒントを、皆さんと共に探っていきましょう。


第1章:企業カルチャーは創業初期に決まる - 揺るぎない基盤を築く重要性

堀井氏の経営哲学の根幹をなすものの一つに、**「会社のカルチャーは創業初期に決まる」**という強い信念があります。彼は、「初期に作られたカルチャーが後から大きく変わることはほとんどない」と断言します。これは単なる経験則ではなく、組織のDNAがいかにして形成され、時間と共に凝固していくかを深く理解しているからこその洞察です。

創業者の気質がコアとなるカルチャー

企業のカルチャーは、創業者の考え方や気質が核となり形成されます。堀井氏は、創業者がどのような価値観を持ち、どのような行動規範を重んじるかが、そのまま初期の組織文化に反映されると指摘します。そして、この初期の文化を「信仰」し、共感して集まってくる最初の数人、あるいは最初の10人といったコアメンバーが、その文化をさらに強固なものとして形作っていくのです。

「後から、こういう理想のカルチャーを築きたい、と作ったとしても、それは嘘のカルチャーになる」という堀井氏の言葉は、建前や外部からの影響で安易に文化を形成しようとすることへの警鐘です。真に強く、持続可能な文化は、創業者の内なる情熱とビジョンから自然発生的に生まれ、初期メンバーによって育まれるものだということを示唆しています。

スマートバンクにおけるカルチャー定義の実践

この教訓は、スマートバンクの経営にも色濃く反映されています。堀井氏は、前回の起業経験から、カルチャーの早期定義の重要性を痛感しており、スマートバンクでもかなり早い段階から自社のバリューを明確に定義しました。

彼らは、採用プロセスにおいて、特にバリューへの適合性を重視しています。具体的には、Googleが提唱する「構造化面接」の手法を取り入れ、最終面接だけでなく二次面接においても、自社が大切にするバリューを体現できる人材であるかどうかのチェックを徹底しています。この徹底したプロセスは、単にスキルや経験だけでなく、個人の価値観が組織のそれと合致するかどうかを深く見極めることで、長期的にチームの結束力と生産性を高めることを目的としています。

創業初期からこのような明確なバリュー定義と採用基準を持つことは、組織が拡大するにつれて発生しがちな文化の希薄化を防ぎ、創業者の思いが浸透した強固な組織を築き上げる上で不可欠な戦略と言えるでしょう。


第2章:採用の「質」を高める戦略 - 2度の起業で進化した採用観

企業の成長には、優秀な人材の獲得が不可欠です。しかし、その「優秀さ」の定義は、起業のフェーズや事業内容によって大きく変わることを、堀井氏は自身の経験から学びました。

1回目の起業:採用の数と質の間で得た教訓

Fablicを創業した際、堀井氏は採用に関していくつかの反省点があったと語ります。特に、事業拡大のスピードに追いつくために、人数を増やすことに重きを置きすぎた結果、必ずしもカルチャーフィットしない人材を採用してしまった経験です。彼はこれを「後からボディブローのように効いてくる」と表現し、短期的な人手不足の解消が、長期的な組織のひずみを生み出す可能性を示唆しました。

また、急成長期には、採用チャネルやターゲットの選定、さらには選考基準そのものが曖昧になりがちです。当時は、とにかく「猫の手も借りたい」状況であり、カルチャーに対する慎重な見極めが不十分だったと振り返ります。

スマートバンクでの採用戦略の転換

この経験を踏まえ、スマートバンクでの採用戦略は大きく転換されました。現在、スマートバンクは70人規模の組織に成長していますが、堀井氏は「2週目の起業だからこそ、採用においてはより慎重になっている」と述べます。

  1. バリューへの適合性の重視: 前述の通り、創業初期から明確に定義されたバリューに共感し、それを体現できる人材であるかを最重視しています。構造化面接を通じて、候補者の過去の行動や思考プロセスを深く掘り下げ、カルチャーフィットを見極めます。
  2. 明確なターゲット設定とチャネル活用: どのようなスキルセットとマインドセットを持つ人材が必要か、より詳細にターゲットを定義し、それに合致する人材にアプローチできる採用チャネルを選定しています。
  3. 創業者の視点とフレームワークの活用: 堀井氏を含む創業メンバーが、これまでの経験で培った採用に関する知見とフレームワークを最大限に活用し、属人的な判断に頼らず、客観的かつ効率的な選考プロセスを構築しています。

この戦略は、単に採用のスピードを上げるだけでなく、採用した人材が組織に定着し、カルチャーを共に育み、長期的な視点で事業の成功に貢献できることを目指しています。採用は企業の未来を左右する投資であり、その「質」を追求することこそが、持続的な成長の鍵を握ると堀井氏は考えています。


第3章:創業メンバーだけでは気づけない経営の盲点 - 外部の視点を取り入れる価値

スタートアップの黎明期は、創業メンバーの情熱と阿吽の呼吸が、事業推進の原動力となることが多いものです。しかし、組織が成長し、複雑になるにつれて、この「阿吽の呼吸」が思わぬ経営の盲点を生み出すことがあります。

「阿吽の呼吸」がもたらす規律の欠如

堀井氏は、創業メンバーだけで経営を行っていた時期の反省として、「自分たちが経営しているやり方が本当に正しいのかどうか、自分たちでは認識しづらかった」と語ります。例えば、経営会議での遅刻やタスクの確認漏れといった小さな規律違反も、創業メンバー間では「まあ、忙しいから仕方ないか」という阿吽の呼吸で許容されてしまいがちです。しかし、こうした些細な甘えが積み重なることで、組織全体の規律が緩み、外部からは見えにくい形で非効率やリスクが蓄積していく可能性があります。

「自分たちの当たり前」が、客観的に見て非効率であったり、改善の余地があるにもかかわらず、内側からはその問題点に気づきにくいのです。これは、創業メンバーが持つ共通の前提や価値観が、思考の幅を狭めてしまう「集団思考」の罠とも言えるでしょう。

外部CFOがもたらした「健全な破壊」

スマートバンクでは、この盲点を克服するために、思い切った手を打ちました。外部からCFOを招き入れたのです。堀井氏は、そのCFOが「今までのやり方はクソだ」「ここをこう直すべきだ」と、創業メンバーにとっては耳の痛い、しかし本質的なフィードバックをズバズバと与えてくれたと語ります。

具体的な改善点としては、経営会議の規律の徹底が挙げられます。遅刻は許されない、前週のタスクは必ず確認するといった基本的なルールを徹底することで、情報の共有漏れや実行の遅れを防ぎ、経営判断のスピードと精度を向上させました。これは、外部の客観的な視点と、組織の規律を強化する専門知識が融合した結果です。

コーポレートガバナンスと説明責任

スタートアップが上場を目指す上で、コーポレートガバナンスの強化は避けて通れない道です。透明性の高い経営体制、ステークホルダーへの説明責任(アカウンタビリティ)の徹底は、投資家からの信頼を得る上で極めて重要となります。創業メンバーだけの閉鎖的な経営から脱却し、外部の専門家や独立した取締役を招き入れることは、ガバナンス強化の第一歩となります。

堀井氏の経験は、スタートアップの経営者にとって、時にプライドを傷つけられるような厳しい意見も、組織の健全な成長のためには不可欠であるという示唆を与えます。外部からの「健全な破壊」を受け入れ、組織文化と経営体制を絶えず改善していく姿勢こそが、企業の持続的成長を支える要となるでしょう。


第4章:M&Aで得た資金がもたらす生活とマインドの変化 - 堀井氏の「お金」観

2度のM&A、特にFablicの楽天への数十億円規模の売却は、堀井氏の人生に大きな経済的変化をもたらしました。しかし、彼が語るその後の生活とマインドの変化は、世間の一般的なイメージとは異なる、意外なものでした。

生活スタイルの変化なき富

堀井氏は、楽天への売却後、数億円の大きな資産を手に入れたにもかかわらず、自身の生活スタイルや習慣は「ほぼこの10年間変わっていない」と語ります。彼の日常は、電車通勤や週に2〜3回の松屋通いといった、ごく一般的なものでした。大きな家を買ったり、高級車に乗ったり、贅沢な趣味に興じたりすることも一切ありませんでした。

この「変化のなさ」の背景には、彼自身の根源的な価値観があります。「趣味は仕事」という徹底したマインドセットが、彼を物欲から解放し、日々の生活において仕事への集中を最優先させる原動力となっています。お金を稼ぐこと自体が目的ではなく、プロダクトを通じて社会に価値を提供することこそが、彼にとっての最大の喜びであり、やりがいなのです。

2億円の借金とVCの言葉

しかし、この現在の「悟り」に至るまでには、壮絶な精神的プレッシャーを経験した時期もありました。Fablicの買収交渉が進む中、別の株主から「株式を買い戻さないと他の会社に売却する」という話が持ち上がった際、堀井氏は個人で2億円の借金を背負い、自身の株式を買い戻す決断をしました。もし買収交渉が破談になれば、会社は潰れ、自分も無一文になり、借金だけが残るという極限状態に追い込まれました。

この時期、彼は眠れない夜を過ごしたと語ります。そんな時、彼のリードVCの方が、毎晩2時頃に電話をかけてきては「堀井さん、寝てますか? 明日は今日より絶対に良くなるから、今日は寝てください。明日は僕が起こします」と励ましてくれたそうです。このVCの言葉は、堀井氏にとって計り知れない救いとなり、彼が困難を乗り越える上での精神的な支えとなりました。このエピソードは、起業家が直面する孤独と重圧、そしてそれを支える人々の存在の重要性を浮き彫りにします。

エンジェル投資家としての新たな貢献

M&Aで得た資金は、堀井氏の生活を変えることはありませんでしたが、その使い道には大きな変化が見られました。彼は、自身の経験と知見を活かし、他のスタートアップへのエンジェル投資を開始しました。これは、単なる資産運用ではなく、次世代の起業家を支援し、エコシステム全体を活性化させるという、より大きなビジョンに基づいた行動です。

「お金の課題がない人はいない」という彼の認識は、スマートバンクがFinTech領域を選んだ理由の一つでもあります。お金に関する課題は普遍的であり、それを解決するプロダクトは、多くの人々の生活に深い影響を与えることができるという信念が、彼の新たな挑戦の原動力となっているのです。


第5章:自己資金でスタートする強み - FinTech領域への挑戦

堀井氏の2度目の起業「スマートバンク」は、FinTechという、一見するとスタートアップには敷居が高いとされる領域への挑戦でした。しかし、彼のこれまでの経験と、M&Aで得た自己資金が、この「ハードモード」な分野での事業を可能にする強みとなりました。

FinTech領域の厳しい要件

FinTech事業は、金融という信頼性が極めて重視される分野であるため、免許・許認可が必要となるケースが多く、高い参入障壁が存在します。堀井氏は、「免許を取るまでにランウェイ(資金が尽きるまでの期間)が長くかかり、免許によっては多額の自己資本要件がある」と指摘します。プロダクトがまだ存在しない段階で、これらの厳しい要件を満たすための資金を外部から調達することは、一般的なスタートアップにとっては非常に困難です。

しかし、堀井氏はM&Aで得た自己資金があったため、この初期段階の資金的なハードルを乗り越えることができました。これにより、外部からの資金調達圧力に縛られることなく、事業計画に沿って着実に免許取得とプロダクト開発を進めることが可能になりました。自己資金でスタートできたことは、FinTechという特殊な領域において、スピードとコントロールの両面で大きなアドバンテージとなったのです。

さらに、トラクション(顧客獲得や収益性などの実績)が出た状態で初めて外部からの資金調達を行うことで、高いバリュエーション(企業価値評価)で資金を調達できるという戦略的なメリットも生まれます。

プロダクトはチーム全体で作る

FinTech領域におけるプロダクト開発は、単に優れた技術やデザインがあれば良いというものではありません。堀井氏は、「プロダクトはチーム全体で作る」という哲学を掲げ、ユーザー体験を総合的に捉えることの重要性を強調します。

  1. ユーザーサポートの重要性: お金を扱うプロダクトにおいて、ユーザーサポートは生命線です。トラブル発生時の迅速かつ丁寧な対応は、ユーザーの信頼を大きく左右します。堀井氏は、目に見えるアプリのインターフェースだけでなく、サポートの質こそがユーザー体験の重要な一部であると考えています。
  2. コンプライアンスとユーザーフレンドリーの両立: FinTech事業では、金融当局(日本においては金融庁)が定める厳格な規律や要件(コンプライアンス)を遵守する必要があります。しかし、単にルールを守るだけでなく、その中でいかにユーザーにとって使いやすく、親しみやすい(ユーザーフレンドリーな)プロダクトを設計できるかが、成功の鍵を握ります。コンプライアンス担当者と開発チームが密に連携し、両者を高いレベルで両立させるための知恵と工夫が求められるのです。
  3. C向けFinTechの難しさと醍醐味: C向け(消費者向け)のプロダクトは、B向け(法人向け)とは異なる難しさがあります。B向けでは、顧客が売上向上や業務効率化といった合理的な理由でプロダクトを導入しますが、C向けではユーザーの感情や潜在的なニーズを捉える必要があります。堀井氏は、「お金に関する課題がない人はいない」という普遍的なテーマに挑み、ユーザー自身が認識していなかった「お金の課題」を解決するプロダクトを提供することに、大きなやりがいを感じています。

まとめ:シリアルアントレプレナーが示す、次世代の起業と経営の形

堀井翔太氏の2度の起業とEXITの経験、そして現在のスマートバンクでの挑戦は、現代の起業家、特にスタートアップの経営を目指す人々にとって、多大な示唆を与えてくれます。彼の言葉から浮かび上がるのは、単なる事業の成功戦略だけでなく、起業家としての深い洞察と、社会に対する真摯な向き合い方です。

堀井氏の経営哲学の核心は、以下の点に集約されるでしょう。

  • 「本物」であることの追求: 創業者の哲学が初期に文化を形作り、後付けの理想は「嘘」になるという言葉は、事業のあらゆる側面において「本物」であることの重要性を訴えかけます。カルチャーも、採用も、プロダクトも、表面的な体裁ではなく、本質的な価値と信念に基づいているべきだという思想が貫かれています。
  • 変化と学習の絶え間ないサイクル: 一度目の成功体験に安住せず、そこから得た学びを次なる挑戦に活かす堀井氏の姿勢は、起業家にとって「学習し続ける」ことの重要性を物語っています。特に、経営の盲点を外部の視点によって指摘され、それを謙虚に受け入れて改善していくプロセスは、組織が健全に成長するためのモデルケースと言えるでしょう。
  • 普遍的な課題への挑戦: 「お金の課題がない人はいない」という言葉に代表されるように、堀井氏は多くの人々が直面する普遍的な課題解決に情熱を傾けています。彼にとって、事業は単なる収益追求の手段ではなく、プロダクトを通じて社会をより良く変革するための強力なツールなのです。
  • 覚悟と情熱: 2億円の借金を抱え、眠れない夜を過ごしながらも諦めなかった彼の覚悟、そして「趣味は仕事」と言い切るほどのプロダクト開発への情熱は、起業家が困難を乗り越え、目標を達成するための不可欠な要素です。

堀井氏の経験は、起業が決して楽な道ではないことを明確に示しています。しかし、確固たる経営哲学、戦略的な思考、そして何よりも社会に価値を提供したいという燃えるような情熱があれば、どのような困難も乗り越え、新たな時代を創り出すことができるという希望を与えてくれます。

スマートバンクが日本のFinTech市場でどのような未来を切り開いていくのか、そして堀井氏が次にどんな「10年に1つのプロダクト」を生み出すのか、彼の今後の活躍から目が離せません。


参考文献:

  • 今回のブログ記事は、CORAL SCHOOLの「堀井 翔太(スマートバンク代表取締役社長)|Take 2」動画を元に構成されています。