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ベンチャーキャピタル界の「新常識」:10億ドルファンドなしで勝つ術はあるか?

20VC with Harry Stebbings

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現代のベンチャーキャピタル(VC)業界は、かつてないほどの変動期に突入しています。AI革命の波は未曾有のスピードで企業価値を押し上げ、資金調達ラウンドの規模は文字通り「億単位」が常識となりつつあります。この「狂気」とも形容される時代において、果たして従来のVC投資のルールは通用するのでしょうか? 10億ドル規模のファンドを持たないVCは、この新たな戦場で勝利を収めることができるのでしょうか?

本記事では、Menlo VenturesのベテランパートナーであるVenky Ganesan氏との対談を通じて、この疑問に深く迫ります。彼の長年にわたる経験と鋭い洞察は、価格設定、市場規模の捉え方、売却時期の判断、そしてVC業界における協調のあり方といった多岐にわたるテーマに光を当てます。これは、まさにベンチャー投資の核心に迫る、プロフェッショナルな議論の記録です。

Venky氏は、現在の市場を「非常に方向感覚を失わせる、混乱した時代」と認識しつつも、歴史のサイクルから学び、常にゲームに参画し続けることの重要性を説きます。しかし、その「戦い方」は大きく変わっていると指摘します。彼は、MAG7(Google, Apple, Meta, Amazon, Microsoft, Nvidia, Teslaの巨大テック7社)を抜きにしてベンチャーで成功することは不可能だと断言し、今日のVCが直面する独自の課題と機会について、その深淵を語ります。

本記事を通じて、読者の皆様には、ベンチャーキャピタル業界の現状を深く理解し、その重要性、具体的な機能、ビジネスへの影響、そして将来性を洞察するための道筋を提示します。

歴史から学ぶ:成功の代償と投資の原則

すべての投資家が成功の物語を語りたがりますが、Venky Ganesan氏は自身の「最大の失敗」から話を始めます。それは、彼がまだアソシエイトだった頃、Globespan Capital Partnersに在籍していた時代に遡ります。彼が投資したAvanex(ティッカーシンボル:AVNX)という光部品企業はIPOを果たし、Venky氏も5,000ドルという当時の彼にとっての大金を投じて株式を購入しました。その投資は一時20万ドルにまで膨れ上がります。当時の婚約者(現在の妻)からの「少し売って家の頭金にしたらどうか」という賢明なアドバイスに対し、彼は「Avanexはこれから上がる。光部品はインターネットバブルの重要な一部だ。100万ドル稼げるはずだ」と豪語し、売却を拒みました。しかし、その結末は90%の暴落。最終的に8,000ドルか9,000ドルで売却することになり、この経験は彼に「どこかの時点で利益を確定させるべきだ」という痛烈な教訓を与えました。

この話は、投資における古典的なジレンマを浮き彫りにします。一方で、Emergence CapitalのJake Saperstein氏がVeevaやSalesforceのような「90倍から90倍」といった驚異的なリターンを叩き出したケースのように、長く保有し続けることで莫大な富を築いた事例も存在します。早期の売却は、しばしば「早すぎる売却の危険性」として語られます。では、この二つの教訓から何を学ぶべきなのでしょうか?

Venky氏の答えは、「多くの助言は、その人がどんな人間か、そして資産状況がどうであるかという文脈に依存する」というものです。24歳の彼にとって、Avanexの20万ドルは人生を変えるような大金でした。その状況で利益を確定させることは、経済的に見て理にかなっていました。しかし、現在のMenloのような大規模ファンドは「全財産を賭けている」と表現し、さらに大きなホームランを狙うべく、リスクを張る歴史を受け継いでいます。これは、個人の経済状況やファンドの戦略によって、リスク許容度とリターンへの期待が大きく異なることを示唆しています。

Menloの現在の「総力戦」という考え方は、内部的な意思決定に影響を与えています。より攻撃的な投資姿勢、より高い対価を支払う覚悟、そして保有比率が下がっても構わないという柔軟性です。彼らはAI時代を定義する企業になることを目指し、「すべてを見届けたい。すべてに勝ちたい」と宣言します。この姿勢は、単なる資金提供者ではなく、市場の牽引者としての野心を示しています。

この歴史から学ぶべきは、投資には「万能な正解」は存在せず、常に文脈と自己認識が重要であるという点です。個人のリスク許容度、ファンドの目的、そして市場の状況に応じて、柔軟かつ戦略的に判断を下す必要があります。そして、時にエゴを抑え、目の前の利益を確定させる勇気も、長期的な成功のためには不可欠な要素となります。

現代ベンチャー投資の「狂気」とその背景

Venky氏が語る「狂気」とは、現在のベンチャー投資が直面する、これまでとは大きく異なる現実を指します。チームメンバーが「1億ドル以下で投資できる案件が見つからない」と報告する現状は、シードやプレシードといった初期段階のラウンド規模が、かつての基準では考えられないほど高騰していることを示しています。彼はこれを「ベンチャー投資ではない。おかしい」と断じますが、同時に「これは一時点を切り取って判断するべきではない。物事はすぐに変わる」とも付け加えます。

現在のAIブームは、この高騰を牽引する最大の要因です。どのAI企業も数億ドル規模の資金調達を望み、中には数十億ドルを調達しようとする新しいラボさえ存在します。これらの企業は、莫大な計算資源への投資や、急速な技術開発、人材獲得のために膨大な資本を必要としています。

この「混乱した時代」において、VCはどのような戦略をとるべきなのでしょうか? Bill Gurley氏の提唱する「フィールドで試合を続ける」べきなのか、それとも2021年の教訓から「もっと投資を控えるべきだった」とタイムアウトを宣言すべきなのでしょうか?

Venky氏の答えは、チャック・プリンスの言葉を引用して「音楽が鳴っている間は踊り続けなければならない」というものです。プロの投資家にとって、市場から降りることの危険性は、いつ踊るべきかを見極められなくなることにあると彼は指摘します。ドットコムバブルの際、多くの優秀なVCが90年代半ばに市場から降りた結果、97年から99年の大きなチャンスを逃し、結局バブルのピークである2000年に市場に戻ってしまったという教訓を挙げます。これは、市場のタイミングを計ることの困難さを物語っています。

したがって、Venky氏は「ゲームには参加し続けなければならないが、その戦い方は変えられる」と主張します。より選択的になること、そしてサイクルの転換に備えてポートフォリオの構成やポジションサイズを考えることが重要だというのです。現在の高騰市場は一時的なものかもしれませんが、市場に居続けることでしか、次の大きな機会を掴むことはできません。

ポートフォリオ戦略の再考:オプションとしてのシード投資

現在の市場環境において、Venky氏はベンチャーポートフォリオを「一連のオプション」として捉えるべきだと提言します。特にシード投資は、「それがアウトライヤー(傑出した企業)になるかどうかのオプションを買う」行為であると説明します。この考え方に基づけば、アウトライヤーを確実に掴むためには、十分な数のシード投資を行うことが必要になります。そして、収益や定量的な指標に基づき、実際にアウトライヤーになると判断できる明確な根拠が出た時点で、そのポジションを拡大する、つまり「倍賭けする」のが賢明な戦略となります。

しかし、この「オプション」としてのシード投資の定義も変化しています。かつての300万ドルから500万ドルのシードラウンドは終わりを告げ、AIアプリケーション企業ですら1,000万ドルから2,000万ドルを調達するのが一般的です。AIの核心領域に進もうとする新しい研究機関に至っては、シードラウンドが難しいどころか、何億ドルもの調達が当たり前となっています。

この状況は、大規模ファンドの投資行動によっても影響を受けています。Venky氏自身も認めるように、Menloのような大規模ファンドは、シードステージにおいてバリュエーションに無頓着な傾向があります。彼らにとって、シード投資は「テーブルに着くための権利」を購入するようなものであり、本当の目的は、もしその企業がアウトライヤーになった時に追加投資することにあるからです。彼らはシード投資の時点で高いリターンを期待するのではなく、その後の成長に賭けるための足がかりとして初期投資を行います。

この戦略は、新興の小規模ファンドや、バリュエーションに敏感な投資家にとっては大きな課題となります。大規模ファンドが無頓着に高値でシード投資を行うことで、市場全体のバリュエーションが押し上げられ、後から参入する投資家はより厳しい状況に置かれることになります。しかし、Venky氏は「私の仕事を難しくしてくれて、ありがとうございます」という皮肉混じりのコメントに対し、「私たちのファンドに投資すれば全てうまくいきます」と返すなど、自身のファンドの優位性を強調する場面も見られます。

結論として、現代のベンチャー投資家は、シード投資を潜在的な傑出企業への「オプション」と捉え、ポートフォリオ全体でそのオプションを戦略的に管理する必要があります。初期段階では広範に投資し、具体的なトラクションが見えた段階で集中的に資本を投下する、これが新しい時代のVCポートフォリオ戦略の核心と言えるでしょう。

指標の操作と「キング・メイキング」の真実

現在のベンチャー投資市場では、企業が提示する収益指標の不透明さが大きな懸念材料となっています。Venky氏は、例えば「契約上の年間収益(ARR)」と称しながら、実際には年間収益ではなく、過去最高の1日収益を単純に365倍してランレートとして外挿しているような状況を指摘し、「非常に嫌な気分にさせられる」と述べています。

この問題の根源について、Venky氏は「投資家が特定の指標を重視して測定すれば、必ずそれは操作される」という人間の性(さが)に言及します。これは、好況期には横領が横行するという「ベゼル(bezel)」の概念にも通じると言います。人々は都合の良い指標を選ぶだけでなく、興味深い会計手法を用いるようになるのです。これはどの市場サイクルでも起こることであり、今後数年で創業者たちの会計上の創造性が明らかになるだろうと予測します。

具体的な例として、SaaS業界で多くの投資家が重視する「純収益維持率(NRR)」が挙げられます。例えば100ドルの発注を一度に受けるよりも、10ドルの発注を受けてから1週間後に50ドルの追加発注を受ける方が、NRRは100%から500%へと見かけ上劇的に改善します。このように、一度指標として測定されると、それは操作可能となり、現に操作が行われているのです。

Venky氏にとって、最終的に重要なのは「創業者が真剣にビジネスの構築に注力しているかどうか」です。彼らは最終的な価値創造に注目しているのか、それとも評価額の引き上げ(マークアップ)に集中しているのか。彼は、最終的な価値を重視する創業者や投資家を見つけるべきだと説きます。

次に、「キング・メイキング」という現象についても議論されます。これは、有力な投資家が主導して短期間に連続して資金調達を行うことが、企業の成功確率を確実に高めるという理論です。Venky氏はこれを、ジョージ・ソロスが言う「再帰性」の素晴らしい例だと解釈します。

再帰性のメカニズムは以下の通りです。まず、業績が良く収益が急成長している企業があると、短期間で評価額(マークアップ)が急上昇します。この急激な評価上昇がさらなる資金を集め、知名度を高め、金融資本だけでなく優秀な人的資本の獲得にもつながります。これにより成長はさらに加速し、それがまた評価上昇の一部となるという好循環が生まれます。

しかし、Venky氏は、収益が伴い、中核事業が構築されている限りは良いことだが、模倣する者が出てきて「秘訣は評価を上げることだ」と考え始めると問題が生じると指摘します。模倣する投資家は「一度上がったなら、また上がるはずだ」と考え、誰もが同じように行動し始めることで、再帰性が市場サイクルを形成します。ソロスが説くように、再帰性はいずれ必ず終わります。その時期や方法は誰にも分かりませんが、終わるまでの間は多くの人が賢く立ち回っているように見えるものです。

では、この再帰性サイクルが崩壊する最初の兆候は何でしょうか? Venky氏は、通常、それは大規模な「債務不履行(デフォルト)」で現れると予測します。株式は減損処理すれば損失を受け入れるだけで済みますが、負債には返済されるという期待があります。彼の知るほとんどのサイクルは、過剰なレバレッジが原因で崩壊しています。Carvanaの投資家であるLeopold氏の事例のように、予測が正しくてもタイミングが正確でなければ、4倍のレバレッジは破滅的な結果を招きます。

資金調達手法の進化:トランシェ・ファイナンスの光と影

近年、ベンチャー投資の世界で頻繁に耳にするようになったのが、「トランシェ・ファイナンス(Tranche Finance)」、つまり分割資金調達の動きです。創業者が「今週は100で調達するが、需要が高いので来週には200で第二弾を開放する」といった発言をするケースが増えています。Venky氏は、これに対して「背筋が凍る思いがする」と表現し、「何でもいいから金や車を買え」と言われているような気分だと述べます。

Venky氏の観察では、どの市場サイクルでも、最初は「イノベーター」が現れ、次に「模倣者」が現れ、最終的には「バカ」が現れると言います。トランシェ・ファイナンスという手法も、最初は革新的な意図を持っていたはずだと彼は考えます。それは「共に築き上げる資金(Built-together Capital)」を得るという発想でした。つまり、会社を共に築いてくれる投資家たちを、最初は低い評価額で招き入れる。次に、高い評価額で単なる「資金」を調達し、最終的には「非常に低コストの資本」へと移行していく、というのが本来のロジックだったはずです。この考え方では、すべての資金が同じではないという前提があり、価値を生む資本と生まない資本を区別したいという創業者の意図が背景にありました。

しかし、他のすべてと同じように、今では誰もがトランシェ・ファイナンスを行っています。もはや会社の質とは結びついておらず、単なる手法の一つとなってしまったのです。本来は「資金調達はしたいが、価値を生む資本と生まない資本を区別したい」という良いアイデアだったものが、市場の熱狂の中でその本質が失われつつあります。

このような状況で、Menlo Venturesはどのように対応するのでしょうか? 後段のトランシェ(より高額な評価額での調達)にも参加するのかという質問に対し、Venky氏は「もちろん、状況によります。我々はどちらの立場も経験していますが、会社が魅力的で創業者が特別なら、間違いなく応じます」と明言します。彼は他人がどこに投資しようが、何をしようが全く気にしないと述べ、唯一のエゴは「投資家に利益をもたらすこと」だと断言します。エゴが邪魔をして投資機会を逃した経験も認めており、ベンチャー業界には極めて高い謙虚さが必要だと強調します。

彼は、VCが機関投資家から資金を集める目的はただ一つ、より多くの利益を還元することだと主張します。投資で利益を上げる機会があるのなら、それ以外のことはすべて雑音に過ぎないというのです。ベンチャーキャピタルは個性が前面に出やすい業界ですが、Venky氏は、ゴールドマン・サックスのような大企業が莫大な利益を上げ、社員が自分の仕事に徹している姿を例に挙げ、VCも「誰であるか」やエゴよりも仕事そのものに集中すべきだと説きます。

ただし、VC業界には「限られた供給」という特殊な競争環境があります。リード投資家は一つしか選ばれないため、VCは自分自身を売り込み、個性を打ち出す必要が生じます。Venky氏は、この二面性を両立させ、うまく管理しなければならないと述べます。個性が不可欠である一方で、それが本質的な目的、つまり投資家のために利益を上げることを見失わせてはならないというのです。正しい行いのためならば、エゴを抑えるべきであるという信念を彼は持ち続けています。

市場規模(TAM)の再定義と不作為の罪

ベンチャー投資において、企業や市場の評価は常に中心的な課題です。Venky氏は、初期段階では価格をあまり気にしないと述べつつも、それが重要になる時が来ることを認めます。そして、Menlo Venturesは「間違いなく高値で投資する」と公言し、実際にその価格が正しかったと証明されることが多いと、対談相手も指摘しています。

この現象は、従来の「価格規律」という概念を再考させるものです。Venky氏が語るのは、単に案件を勝ち取るために高値を出すだけでなく、他の投資家よりも「大きなTAM(Total Addressable Market:市場規模)」が見えているからこそ、高い価格を支払う場合があるということです。このような場合、実際には市場価格より高く買っているわけではなく、チャンスがより大きいと見えているからこそ、その可能性に賭けているのだと説明します。もちろん、それが正しい時もあれば間違っている時もある、と彼は付け加えます。

ベンチャー投資の最も重要な特性の一つは「非対称なゲーム」であることです。投資額を失うことはあっても、うまくいけば10倍、あるいはそれ以上のリターンが得られる可能性があります。この非対称性ゆえに、Venky氏は「不作為の罪(罪を犯さないこと)」が「作為の罪(罪を犯すこと)」よりもはるかに大きいと主張します。つまり、投資を実行して失敗するよりも、見送った案件が大成功することの方が、VCにとって「最も高くつく失敗」だというのです。

Venky氏にとって、今でも頭から離れない「見送った案件」は、Plaxoという会社での経験です。彼はPlaxoの若い取締役でしたが、そこに素晴らしい理事(マイク・モリッツ、ラム・シュリラム、ヤフーのティム・クーグルなど)がいました。その中に、当時まだ無名だったショーン・パーカーがいました。ショーンは取締役会で問題を抱え退任を求められます。彼が去ろうとしていた時、ショーンはVenky氏に「ボストンに行って、大学中退者と仕事をすると話していました。君も関わるべきだ」と語りかけました。しかし、Venky氏は「ショーン、君はこの取締役会を追い出されたばかりだし、自分自身何をしているのか全くわからない」と答え、そのミーティングには参加しませんでした。もし参加していれば、当時のシードラウンド(100万ドル規模)で5万ドルの小切手を書くチャンスがあったかもしれません。そして、その「大学中退者」こそがマーク・ザッカーバーグであり、そのプロジェクトがFacebookだったのです。

当時のショーン・パーカーについて、Venky氏は「Plaxoについて語ったビジョンは、実際にその通りになった。彼はバイラリティ(拡散性)やネットワーク効果を独自の方法で理解していた」と振り返ります。彼の経験則として、非常に複雑な概念をシンプルに伝える能力に長けた人、そして人間行動に対する深い洞察力を持つ人を常に探していると言います。ショーンにはまさにその資質があり、非常に優れたコミュニケーターだったと評価します。

この経験は、VCが単に現在の状況や過去の実績だけでなく、創業者の潜在能力、彼らのビジョン、そして市場におけるユニークな洞察力を見極めることの重要性を示しています。「不作為の罪」を避けるためには、リスクを恐れず、未来の可能性に賭ける勇気が求められるのです。

創業者の資質とチーム構築の重要性

ベンチャー投資において、企業の成功は創業者の資質とチームの構築に深く依存します。Venky氏は、Menloのパートナーであるエイミー・マコンの言葉を引用しつつ、創業者が「なぜ結びついたのか」を理解することを非常に重視していると語ります。彼にとって、会社を築くということは、チームを築くことに他なりません。企業のDNAの多くは、創業チームによって決まるからです。

そのため、Venky氏は以下の点を深く掘り下げて質問します。

  • なぜ、60億人もの人々がいる世界で、彼ら自身がこの事業をやるべきだと考えたのか?
  • 彼らはお互いの強みと弱みをどう考えているのか?

これらの問いは、Venky氏にとって『マイノリティ・リポート』のプリコグ(予知能力者)のようなもので、創業者がどのように決断を下し、どのようにチームを構築していくのかを教えてくれる手がかりとなると言います。彼は、会社の文化やDNAは最終的に創業者によって形作られると考えているため、創業者の人間性や相性を深く理解することが不可欠なのです。

創業者の資質を最もよく表す質問として、彼は「あなたの親友5人が、もし私が彼らにあなたを3つの言葉で表現してほしいと頼んだら、何と答えるでしょうか?」という問いを挙げます。この質問の理由は、自分自身について聞かれるよりも、友人のことを考える方が客観視できるためです。これにより、周囲からどう思われているかの手がかりが得られ、本人の自己認識度も測ることができます。

Venky氏は、その後に必ず照会(リファレンスチェック)を行うため、その人の自己認識と照会結果が一致しているかどうかを確認したいと述べます。自分の弱みを知っていれば、それをうまく管理できる可能性が高まるため、弱みがあること自体は問題ありません。問題があるのは、たいてい自分の弱みに気づいていない人たちだと彼は指摘します。

他の著名な投資家の質問も興味深いものです。ダグ・レオーネは「あなたの評価者の中で最悪なのは誰か?」と尋ね、マイク・モリッツは「人生に戻って一つだけ変えられるとしたら、何を変えますか?」と問いかけます。これらの質問は、創業者の自己認識、反省能力、そして人間としての深掘りを促すものです。

結局のところ、Venky氏が重視するのは、創業者が自分自身の強みと弱みを認識し、それを踏まえてどのようにチームを構築し、会社の文化を形成していくかという点です。これは、単なるビジネスモデルや市場の魅力だけでなく、そのビジネスを牽引する人間そのものを深く理解しようとする、VC投資の本質的なアプローチと言えるでしょう。

所有比率(Ownership)の変遷と資本集中のゲーム

VC業界では、投資家が企業に対してどれくらいの株式を保有するか、つまり「所有比率(Ownership)」が常に重要なテーマでした。Venky氏は、業界全体で持ち株比率が低下していることを認め、かつては20%程度がベンチマークだったものが、今や10%未満になっていると指摘します。

しかし、Venky氏は所有比率を「常に重要だが、機会との相対関係で考えるべきだ」と語ります。具体例として、1億ドルの会社の20%を持つよりも、1兆ドルの会社の2%を持つ方が良いのは明らかだと述べます。Menlo VenturesもAnthropicの株式を2%未満しか保有していませんが、このような巨大な潜在力を持つ企業への投資であれば、低い所有比率でも大きなリターンを期待できるという考え方です。

彼は、所有権に関するゲームを「選択肢を賭ける段階(不明瞭な段階)では所有権を持ちたい。それが傑出した企業だとわかっている段階では、資本投下のゲームになる」と表現します。つまり、企業がまだアウトライヤーになるかどうかわからない初期段階では、十分な所有比率を確保することで、その後の成長の恩恵を享受できる可能性を高めます。しかし、一旦それが傑出した企業であることが明らかになると、誰もが投資しようとするため、もはや所有比率を高めることは困難になり、いかに多くの資本を投下できるかという「資金集中」のゲームに移行するというのです。

この考え方の背景には、現代の企業成長のスピードがあります。OpenRouterのような企業は、非常に速く効率的にスケールするため、実際にはそれほど希薄化が進まず、比較的低い資本投下で大きな所有比率を確保できる可能性があります。そして、その企業が傑出した存在になった段階で、追加で資本を投下し、スケールに見合ったポジションを確立する、というのがVenky氏の考える理想的な戦略です。

「出口の規模がかつてないほど巨大になっているから、所有比率はそれほど重要ではない」という主張に対して、Venky氏は疑問を呈します。確かに、AnthropicやSpaceXのような超巨大企業は出現していますが、すべての企業がそうなるわけではありません。もしこうした巨大なアウトライヤー企業に投資していなければ、低い所有比率ではファンドの成績を大きく左右してしまいます。彼はこれを野球の例に例え、「グランドスラムのホームランか三振しかないゲームをしているようなものだ」と述べます。単打や二塁打がない状況では、ホームランを打てなければ厳しい結果になります。

だからこそ、所有権を得ることは、もしアウトライヤー企業を逃しても、中規模の成果が依然として状況を好転させてくれる「保険」になるとVenky氏は強調します。目標は常にホームランですが、時には三振もあります。三振ばかりでは厳しいファンドになるため、「ホームランを狙って三塁打だった」と少なくとも言えるようなポートフォリオ構成が重要だというのです。

起業家たちは、現在のVCの期待値が大きく変化していることに気づいていないかもしれないとVenky氏は懸念します。かつてのように、数年かけて着実に成長し、数千万ドルの収益に到達するようなビジネスは、今日のベンチャーキャピタルを興奮させるには不十分だというのです。AI時代における急成長企業(例えば18ヶ月で0から10億ドル規模に成長する企業)を目の当たりにしてきたVCは、当然そちらに投資したくなるでしょう。この超高速成長こそが、所有比率の考え方と資本投下戦略を大きく変えつつあるのです。

ベンチャー投資の速度と「税金」経済

今日のベンチャー投資の世界は、企業成長の速度と資金調達のペースがかつてないほど加速しています。Venky氏は、この現象を「現時点でのスナップショットに過ぎない」としながらも、企業が0から10億ドル規模へと18ヶ月で成長するような例を挙げ、VCの期待値が劇的に高まっていることを認めます。Instacartが10週間で2億5000万ドルから100億ドルへと跳ね上がった事例は、まさにこの高速成長を象徴するものです。

このような状況下で、多くの投資家が「下値保護(downside protection)がある」という考え方で投資に臨むようになっています。彼らは、投資先の企業が大手企業にとって戦略的な領域にあり、最悪の場合でもMicrosoftやAppleのような巨大テック企業が買収してくれるだろうと期待します。例えば、「15億ドル相当の優先株式として、誰かが拾ってくれるはずだ」といった発言は、今日の市場における価格感覚の麻痺を示しています。

しかし、Venky氏はこの考え方を「妥当でしょうか、それともかなり危険な思考でしょうか?」と問いかけ、「多くのことを簡単に正当化できてしまう」危険性を指摘します。彼は、AMDが85億ドルでMore RealWorldモデルを買収し、NvidiaがHuggingFaceを140億ドルで買収するといった巨額M&Aが常態化している現状が、15億ドルという数字を軽く感じさせていると分析します。StripeがOpenRouterを80億ドルで買収したという噂話も、この感覚を助長しています。

Venky氏は、ドットコム時代を振り返り、Nortelが35億ドルでKyrosを買い、Lucentが45億ドルでChromatisを買った事例を挙げます。これらは製品も収益もなく、チームだけがある会社で、彼らは自社の株式で買収を行いました。この状況は現在のAIバブルと酷似しており、Venky氏は懸念を抱いています。大手企業は投資家のことなど気にかけず、創業者を雇い入れるだけで済むなら、わざわざ高値で企業全体を買収する必要はないと彼は警告します。実際、多くのケースで大手企業は構造的な取引を行い、投資家を出し抜く場面を目撃してきたと述べます。

そして、Venky氏は現代のVC投資家が直面する最も本質的な課題の一つとして、「MAG7(巨大テック7社)への『税金』」を挙げます。どのベンチャー企業も、何らかの形でNvidiaに「税金」を払い、ハイパースケーラー(AWS, Azure, GCPなど)に「税金」を払い、おそらく基盤モデルにも「税金」を払っているのです。これは、AIエコシステムの中核を占めるこれらの巨大企業が、事実上すべてのベンチャー企業から収益の一部を徴収している状況を示しています。

この「税金」経済の中で成功しようとすれば、VCはこれらの巨大企業が公開市場で提供する、手数料や成功報酬のかからないインデックスファンドを上回るIRR(内部収益率)を提供できなければ、LP(リミテッド・パートナー:出資者)から資金を得ることはできません。プライベート市場で資金を提供してもらうには、公開市場のリターンを1,000ベーシスポイント(10%)上回る必要がある、というのがVenky氏の計算です。この視点は、VCが単なる資金提供者ではなく、公開市場の代替投資としての価値をLPに示さなければならないという、現代のVCの厳しさを浮き彫りにします。

希薄化の課題とビジネスのスピード

現代のベンチャー投資家にとって、もう一つの喫緊の課題が「希薄化(Dilution)」です。Venky氏は、投資家層として過去に例を見ないほど希薄化に苦しんでいると述べます。シードラウンドで投資する際、会社が売却されるまでに、もし10%所有していたとしても、最終的には3.5%から4%程度になると想定しています。これは、最初の出資時点から60%もの希薄化を見込んでいることを意味します。この希薄化は、資金調達によるものだけでなく、ストックオプション枠の拡大によるものでもあります。

一方で、株式報酬(SBC)のレベルを考えると、今は従業員にとってかつてないほど良い時代であり、この点が投資家の希薄化を加速させている側面もあります。Venky氏は、最初の出資で得た持ち分が最終的には半分以下になることを覚悟しておく必要があると強調します。

しかし、全ての企業が同じように希薄化するわけではありません。OpenRouterのように非常に速く成長する企業は、効率的にスケールするため、実際にはそれほど希薄化が進まないケースもあります。これは、希薄化には二つの異なる世界があることを示唆しています。

希薄化は「時間の関数」であるとVenky氏は指摘します。彼は、ベンチャーキャピタル業界では、企業をどれくらいの期間保有するつもりなのか、という「時間軸」を明確にする必要があると提言します。なぜなら、その時間軸が希薄化の程度を決定づけるからです。迅速に価値を高め、迅速にイグジットできる企業は、希薄化を抑えつつIRR(内部収益率)も高めることができます。しかし、期間が長くなれば、IRRと希薄化の両方に打撃を受け、大幅な希薄化を招くことになります。

このため、投資判断においてビジネスのスピードは非常に重要です。Venky氏は、ERP分野のような堅実だが成長の遅いビジネスに対して「収益の質は非常に高いんだ」と言われても、「ああ、そうだな。確かに。クソッ、遅すぎるよ」と答えてしまう自身の考えを明かします。ベンチャーキャピタリストにとって、ビジネスのスピードは多くのことを決定づける要因であり、高速な成長は希薄化を抑えるだけでなく、評価額の急上昇を通じて、次世代の人材を採用するために渡すべき持ち分を大幅に減らす効果もあります。例えば、2億ドルの企業が20億ドルに急成長すれば、同じ金額のRSU(制限付き株式ユニット)を渡すのに必要な持ち分は劇的に減少します。

DPI(投資資本分配率)とIRR(内部収益率)のどちらを重視するかという問いに対して、Venky氏は「両方」と答えますが、実際には「DPIなしにIRRは成立しない」と語ります。彼がベンチャーの世界に入った28年前は誰もIRRに注目せず、現金対現金の利益に集中していましたが、今日のベンチャー界ではIRRに集中しなければならないと主張します。前述のMAG7への「税金」という現実があるため、プライベート市場のVCは、手数料のかからない公開市場の代替投資を凌駕するリターンをLPに提示する必要があるからです。

この希薄化とビジネスのスピードのダイナミクスは、現代のVCが投資戦略を構築する上で、最も複雑で重要な考慮事項の一つとなっています。

競争と共存:VC業界のダイナミズム

現代のVC業界では、投資家間の競争の性質も大きく変化しています。Andreessen Horowitzのような大手VCが同じような企業を複数ポートフォリオに抱えていたり、同じ分野に多くのプレイヤーが存在したりする光景は珍しくありません。もはや、一つの企業を独占的に支援することが、VCにとっての絶対的なルールではなくなりつつあります。

Venky氏にとって、この状況は個人の好みとファームの文化に大きく依存すると語ります。Menlo Venturesでは、Venky氏とマット・ショーンは起業家に深くコミットしたいと考えています。彼らは単なる少額の小切手を持つ受動的な投資家ではなく、取締役の席を取り、大きな小切手を切ることで、双方向のコミットメントを築こうとします。起業家には株主の利益を第一に考えてほしいですし、VCも起業家にコミットする必要があると感じています。

この哲学が、彼らがOpenAIに投資せず、Anthropicのみに残った理由です。彼らは共有された投資を好まず、創業者との深く、信頼に基づいた関係性を重視します。Venky氏は、ベンチャー業界は複数の人が様々なことを行うように変化しており、VCは自分たちにとって何が本物で、自分たちの価値観は何なのかを見極め、それに従って生きるしかないと強調します。

もう一つの顕著なトレンドは、資金投入までの期間の短縮化とファンドの巨大化です。LP(リミテッド・パートナー)たちは、VCがこれまでよりずっと早く市場に戻ってきており、ファンドが巨大化していることに懸念を抱いています。Venky氏は、LPが「小規模なファンドを望む一方で、市場に戻ってくるペースは遅くあってほしい」という矛盾した要望を抱えていると指摘します。

しかし、もし目の前の機会が本物で、AIが一生に一度の最大の経済基盤となるのであれば、この矛盾は両立し得ないものです。小規模なファンドを望めば、必然的に市場へ戻るペースは速くなります。AI企業は莫大な計算資源を必要とし、急速に規模を拡大しているため、多額の資本が不可欠です。かつてのGoogleのように、プライベート市場での調達額が5,000万ドル未満で成長できた時代は、今日のAI業界では不可能です。

したがって、企業がこれほど急速に成長している以上、資本ニーズも増大しており、ベンチャーキャピタルがそれを提供しなければ、競合他社が提供することになります。Venky氏は、もしマネージャーが18ヶ月でファンドを使い切ったとしても、LPはそれを許容すべきだと主張します。LPはむしろ、「どのように検討したのか」「どのように管理しているのか」「うまくいかなくなった場合、どうするのか」といった点を問いかけるべきだというのです。

同時に、ヴィンテージ(投資開始時期)の分散も極めて重要です。Menloの歴史を振り返ると、50年の歴史の中で唯一成功しなかったファンド、つまり元本を返還できなかったのは、2000年から2001年の10ヶ月間で投資を行った「メンロー8号」だけでした。この経験は、時期の分散の重要性を痛感させるものです。しかし、同じくドットコムバブルの時期に運用成績が振るわなかったAccelの2005年ファンド(Facebookへの投資以前)が、その後Facebookファンドで大成功を収めた例も存在します。

Venky氏は、GP(ゼネラル・パートナー)としてLPに対する受託者責任を非常に真剣に受け止める必要があると強調します。独断的なルールを持つのではなく、現場でゲームをしながら、LPに透明性を持って状況を伝え、説明責任を果たすことが重要です。彼らには、LPが「分かった、同意する」と言う場合もあれば、そうでない場合もあることを尊重しなければならないと述べます。

Menlo Venturesは、ベンチャーキャピタルとして初めて10億ドル規模のファンド(Menlo9、Menlo10)を調達した経験があります。これらのファンドの運用成績が期待通りとはいかなかったため、多くのLPが離れていきましたが、現在のファンドは妥当な規模であり、LP基盤を大きく変える必要はなかったと述べています。彼らのアンカーテナントは、1981年以来ワシントン州の公的年金基金であり、公務員のために働くという創業者の控えめな出自に根差した文化的な側面も、長期的なLP関係を支える要因となっています。

現在のLPとの対話において、Venky氏は主に2つの不満を耳にすると言います。1つは、「TVPI(評価額ベースの倍率)はもう十分だ。DPI(実質的な分配倍率)を確保したい」というもの。もう1つは、AI経済に関わらないという選択肢は彼らにはないという点です。多くのLPは、ベンチャーポートフォリオよりもはるかに大きなプライベート・エクイティ(PE)ポートフォリオを抱えており、そのPE投資の多くはソフトウェア関連です。これらのポジションはAIから直接的な影響を受けるため、PEポートフォリオのリスクをヘッジするためにも、AI経済に参入しておく必要があると彼らは考えています。

したがって、DPIを提供した実績があり、かつAI経済のプレイヤーになれると納得感のある説明ができれば、LPから資金を集めることは可能だとVenky氏は結論付けます。

M&Aの加速と資本配分の重要性

現代のベンチャー投資におけるもう一つの顕著なトレンドは、M&Aの加速です。Faithが82億ドルで売却されたり、OpenRoadのような巨額買収がニュースになったりする中で、今後さらに多くの買収が見られるようになるだろうとVenky氏は予測します。

このM&A加速の背景には、いくつかの要因が複合的に作用しています。まず、「競争圧力」が挙げられます。AMDがMore RealWorldモデルを買収すれば、Nvidiaも何か手を打つ必要が生じるように、主要プレイヤーが特定の技術や企業を獲得すれば、競合他社も反応せざるを得ないというダイナミズムが生まれます。

次に、「規制環境」の変化も影響しています。これまで規制が厳しく、実現できなかったM&Aが溜まっていた部分があり、それが一時的に許容される状況にあるという見方もあります。この状況が永遠に続くとは限らず、今は期間限定のチャンスと捉えられている側面もあります。

さらに、大手企業の株価も重要な要素です。例えば、AMDは今や時価総額1兆ドルの企業であり、85億ドルの買収は会社全体の0.1%にも満たない金額となります。こうした潤沢な資金力を持つ企業は、大胆な動きをすることが可能です。

そして最も重要なのは、「AI分野での遅れを取り戻せるなら何でもする」という強い意志が企業に存在することです。Metaが規模拡大のために高い対価を払ってInstagramを買収した例は、その成功を物語っています。当時の10億ドルの買収は高く思えましたが、今のMetaの時価総額を見れば、あの投資がいかに安かったか、そしてザッカーバーグがいかに資本配分の天才であったかが分かります。彼はInstagramを10億ドルで買収し、Onavoを4億ドルで買収して何が機能するのかを把握するなど、非常に賢明な資本配分を行ってきました。Venky氏の目から見ると、歴史を振り返っても、優れた技術者であり同時に優れた資本配分者でもある人はごくわずかであり、ザッカーバーグはその筆頭に位置すると評価します。

ここで、Venky氏は興味深い問いを投げかけます。規模が拡大した段階で、創業者が持つべきスキルとして「資本配分」と「プロダクトのビジョン」のどちらか一つを選ぶとしたら、どちらを選ぶか? Venky氏の答えは「資本配分」です。その理由は、資本配分には「どのプロダクトの方向へ進むかを決める」という力学の一部が含まれているからです。重要なものに資金を投じるという行為自体が、プロダクトの戦略的な方向性を決定づける側面を持っています。一方で、素晴らしいプロダクトのビジョンを持っていても、それによってどのようなリターンが得られるかを考えない人もいると指摘します。

SnapのEvan Spiegelの例がその対照として挙げられます。Venky氏はEvanを「プロダクトの天才」と認め、Snapchatに対する彼のビジョンやストーリーズのような革新は素晴らしいと評価します。しかし、「過去7、8年のSnapの株主は報われていない」と率直に述べます。これは、優れたプロダクトビジョンだけでは、必ずしも株主に価値をもたらすとは限らないという現実を突きつけます。株式報酬(SBC)がとんでもないことになっている企業は、創業者がプロダクトに集中しすぎるあまり、資本配分や株主還元への意識が希薄になっている可能性を示唆しています。

M&Aの加速と資本配分の重要性は、現代のVC投資家が企業評価や投資判断を行う上で、技術や市場の魅力だけでなく、戦略的な競争環境、企業の財務規律、そして創業者の資本配分能力といった多角的な視点を持つことの必要性を強く訴えかけています。

富と謙虚さ:VCの人間的側面

現代のVC業界では、テクノロジー企業の急成長に伴い、驚くほどの富が生まれています。営業担当者がたった1回の取引で数千万ドルもの報酬を得るケースも珍しくありません。このような状況において、Venky氏は「お金は人を変えるのではなく、その人の本性を暴くのです」という自身の信念を語ります。お金や権力が人を変えると思われがちですが、実際には元々嫌な奴だったなら、金と権力を手にした時にそれが露わになるだけだというのです。本当に意欲的な人は、大金を手にしたとしても意欲を持ち続け、お金は単なる「スコアボード」に過ぎないと考えるからです。彼らが愛しているのは、ゲームそのものです。

しかし、この富の集中は、ベイエリアのような地域に社会的な影響をもたらします。SpaceX、Anthropic、OpenAIといった巨大企業のIPOは、当然ながら住宅価格のインフレを引き起こします。Venky氏はこれを懸念し、「その地域の性格を変えてしまう」と述べます。しかし、彼の診断は、この問題の根源は「供給の問題」であり、需要の問題ではないというものです。カリフォルニア州特有の「NIMBY(Not In My Backyard:自分の庭には建てるな)」意識が住宅建設の妨げとなり、需要の増加に供給が全く追いついていないため、価格が高騰しているのです。彼は、革新的な州と言われながらも、住宅ストックを増やすための集団としての意志が欠けていることを批判します。

次に、ブライアン・アームストロング(Coinbase CEO)のリーダーシップについての話題に移ります。Venky氏は、ブライアンが自身の信条を明確にし、従業員に「政治活動に関わりたいのなら、コインベースは向いていない。ここでは政治的な対話は求めていないから」と伝えた勇気を高く評価します。彼は、それが自分自身に正直であろうとする姿勢であり、代償を払ってでも自分に正直でいたことは評価されるべきだと述べます。メディアやTwitterで批判され、去っていった従業員もいましたが、ブライアンは「創業者である私が明確に示したCoinbaseの価値観に忠実な人を求めている」というメッセージを貫いたのです。

このブライアン・アームストロングの姿勢は、Venky氏自身の反省にもつながります。彼は、キャリアの初期には「起業家に気に入られたい、あるいは取引を勝ち取りたいという理由で、必ずしも本心とは言えないことを言ってしまう時」があったと率直に認めます。自分自身の不安や、偽物ではないかという気持ちと向き合ってきた結果、今では自分らしくいることに慣れ、そうしたことはしなくなったと言います。「もし何かを勝ち取るために、自分に偽ってまで何かを言わなければならないのなら、勝たないほうがましです」と彼は断言します。

ただし、彼はこの境地に達したのが、今の人生の段階では勝ち負けが人生を変えるほど重要ではないからかもしれない、とも付け加えます。25歳でキャリアを築こうとしている時は全く状況が異なり、当時は勝つために何でもしたはずだというのです。彼はこれを「道徳とは成功した人々の特権のようなものだ」と表現し、すでに手にしているものがある今、道徳的でいることは簡単だと述べます。真の試練は、20年前に戻って一からやり直したとして、それでも道徳的な人間でいられるかという点であり、彼はその試練に望むほど耐えられたとは思っていないと謙虚に語ります。

興味深いことに、Venky氏は「今、以前より裕福になったことで、より優れた投資家になりましたか?」という問いに対して「はい」と答えます。その理由は、「恐れが少なくなったから」です。失敗を恐れなくなり、全力を注ぎ込み、限界まで挑戦しようという気持ちになれるため、より大胆に勝負に出やすくなったというのです。彼はこれをポーカーテーブルの例に例え、多くのチップを持っている人の方が勝つためのレバレッジが非常に大きく、より多くのカードを見ることができると説明します。皮肉にも、これこそが資本主義の仕組みであり、富める者がさらに富む理由だというのです。

この「富める者がさらに富む」という資本主義の仕組みは、新興マネージャーがVCゲームに参加する術がないという意味なのでしょうか? Venky氏は、3,000万ドルから1億ドルのファンドが「最も立ち位置が悪い」と指摘します。彼らが大量のチップを積んだ相手と戦うポーカーテーブルのようなもので、非常に厳しい状況にあると述べます。5年前なら話は別だったかもしれませんが、現在のAI時代の競争環境では特に厳しいという認識です。

しかし、例外も存在します。サラ・グオの2億ドル規模のファンドは、最も興味深い企業に初期段階で参画する方法を見つけました。Dave TischのBoxGroupも同様です。彼らは選ばれし者たちであり、一般化して考えるべきではないとしつつも、常にこうした不利なオッズを攻略する方法を見出す人間は存在すると言います。サラ・グオがLPたちに「私の戦略は、とにかく一生懸命働くこと」だと言った話は、魔法のような戦略は存在せず、生き残るにはハッスルして粘り強くやるしかないという現実を物語っています。

PE業界の課題と「ゾンビSaaS企業」

PE(プライベート・エクイティ)業界もまた、AI企業の影響を様々な面で受けています。Medalliaのような企業で経営権を返上するような動きが見られる中、多くのPE業者の帳簿には、苦戦している企業が山積みになっているはずです。果たして、PEの構造はかなり破綻しているのでしょうか?

Venky氏の意見は、「いや、彼らは頭がいいですし、企業を立て直して運営する方法を心得ていますよ」というものです。PEは過半数の支配権を持っているため、ある程度の困難な状況でも、会社をコントロールし、実際に手を打つことができるという強みがあります。

むしろ、彼がより厳しい状況にあると指摘するのは、ベンチャー支援を受けたSaaS企業の方です。これらの企業は高い倍率で投資され、期待を裏切ってしまい、いわゆる「スプーンで救われる」ような状況にあります。ベンチャー支援企業の方が厳しいと言うのは、PEには会社を支配し、実際に手を打てる過半数のオーナーがいるのに対し、ベンチャー支援企業には誰も十分な権限を持たず、誰も気にかけない「ゾンビSaaS企業」がたくさん存在するからです。PEであれば、何かしらの手を打って船を着陸させることができますが、ベンチャー支援企業ではそれが困難なケースが多いのです。

Venky氏は、2021年のSaaS企業の世代にとって、最良の結末は「スプーンで救われる」、つまり資本を回収することであり、最悪の結末はゼロになることだと述べます。スプーン一杯分の小銭でも回収できればいい方だ、という皮肉めいた表現は、過熱した市場で高値投資されたSaaS企業が直面する厳しい現実を物語っています。

Venky Ganesan氏からの教訓:個人的な洞察と未来への視点

対談の終盤では、Venky Ganesan氏の個人的な哲学や、VC業界への具体的なアドバイスが語られます。

ポケットチーフを身につける理由 彼は若い頃は服装に無頓着でしたが、父親から「服装というのは自分のためにするんじゃない、他人のためにするものなんだ」という言葉を受けます。彼にとってポケットチーフを身につけることは、重要な会議であることを相手に示し、自分たちが取り組んでいることの重要性を伝えるためのメッセージなのです。それは自分自身へのメッセージでもあり、会う相手がとても重要であり、自分がやろうとしていることも重要だという自覚、つまり「真摯に取り組まなければならない」という決意の表れです。

投資ファンドの選択 もしMenlo以外で、シードファンドとグロースファンドにそれぞれ1つずつ投資できるとしたら、どのファンドを選ぶかという質問に対し、Venky氏は以下のように答えます。

  • グロースファンド:Bessemer Ventures。ロンによって共同設立され、デビッド・カウワンとも知り合いであることに加え、非常に規律がある点を高く評価しています。
  • シードファンド:MIT出身のE14。面白いAI企業に関わっていると感じており、MITのエコシステムを本当に理解していると考えているからです。

最も手強い競合 「誰と競合すると聞いた時に『うわ、最悪だ』と思うか?」という問いには、企業というより人を見るとしつつも、「Benchmarkは打ち負かすのが非常に難しい」と即答します。Sequoiaよりも手強いか、という問いにも「そう思う」と答え、Benchmarkのやり方、エリック・チェトン、エヴェレット、ジャックの組み合わせを「まさに怪物」と称賛しています。

LPへの最大のアドバイス この時代にベンチャーへ投資配分を行うLPへの最大のアドバイスは、「バックミラーではなく、フロントガラスを見ること」です。結果や財務パフォーマンスはバックミラーのような計算であり、過去に何をしたかを教えてくれる分には良いが、ファームがこれからどうなるかは教えてくれない、と指摘します。結果やパフォーマンスは遅行指標であり、実際には5年から7年の遅行指標なのだ、と。 したがって、LPは多くの起業家や成功したAI企業に電話をかけ、彼らが尊敬するパートナーは誰か、そして資金を受け取らなかったとしても誰を尊重しているかを聞くべきだと述べます。もし話をしている相手の会社に、そういったパートナーが数名もいないなら、それがLPの進むべき道、つまり将来性を見極める視点となるでしょう。

チームが傲慢にならないようにするには Menlo Venturesのような勝ち札を手にしているチームが傲慢にならないようにするにはどうすればよいかという問いに対し、Venky氏は「投資家は最後の投資で評価される」という心構えで臨まなければならないと語ります。彼はサバンナのライオンとアンテロープの例えを挙げ、「ライオンなら朝起きて走らなければ、食事にありつけません。アンテロープなら走らなければ、生き残れません。だから、ただ走るしかないのです」と述べます。そして最も重要なのは「次の会議」であり、「最も重要な投資は、次の投資です。最も重要な取締役会は、次の取締役会です。今この瞬間にそれについて考えなければ、この勝負には負けると思います」と強調します。

結婚生活をうまくいく秘訣 VC投資とは異なる個人的な質問である「共に時間をかけて資産を築く中で、結婚生活をうまくいく秘訣は何でしょうか?」という問いには、「自分より優れた相手と結婚することです。私はそうしました」と答えます。そして、相手を自分と一緒にい続けさせる努力をすること、最高の自分になるよう刺激し、支えてくれる人生のパートナーを見つけることの重要性を説きます。長期的な結婚生活の核となるのは「本当の尊敬」であり、お互いに最高の自分を目指すよう高め合うことからそれが生まれると言います。

これまでに受けた中で最高の教訓 彼がこれまで受けた中で最高の教訓は、ロナルド・レーガンの言葉で、Truliaの元CEOトム・ライリーが教えてくれた「誰が手柄を立てるかを気にしなければ、人が成し遂げられることに限界はない」というものです。キャリアの初期の頃は手柄を立てることに必死だったと告白するVenky氏ですが、そのこだわりを手放し、正しいと思うことだけに集中し、自分が評価されるかどうかを気にしなくなった時、心が軽くなり、チームにとってもより良い存在になれたと感じています。

これらの個人的な洞察は、Venky Ganesan氏が単なるビジネスマンではなく、深い人間性と哲学を持った人物であることを示しています。彼の謙虚さ、自己認識、そして揺るぎないプロフェッショナリズムは、現代のVC業界において、成功を収める上で不可欠な資質であることを示唆しています。

まとめ:新時代のVC投資家像

Menlo VenturesのVenky Ganesan氏との対談は、現代のベンチャーキャピタル業界が直面する複雑さと、その中で勝利を掴むための「新常識」を鮮やかに浮き彫りにしました。AI革命が牽引する未曾有のスピードと規模の資金調達は、VC投資の基本的なルール、すなわち価格設定、市場規模の評価、ポートフォリオ戦略、そしてリスク管理の方法論を根本から問い直しています。

Venky氏の言葉からは、以下の重要な洞察が読み取れます。

  1. 文脈依存の投資哲学:投資アドバイスに「万能な正解」はなく、個人の資産状況やファンドの戦略によって、リスク許容度とリターンへの期待値は大きく異なります。Menloのような大規模ファンドは「総力戦」を挑み、大きなリスクを張ってでもAI時代を定義する企業に投資する姿勢を示しています。
  2. 市場への継続的な参画:「音楽が鳴っている間は踊り続けなければならない」という原則の下、市場のタイミングを計る困難さを認識しつつも、常にゲームに居続けることの重要性が強調されました。ただし、その「戦い方」はより選択的で戦略的なものへと進化しています。
  3. オプションとしてのシード投資:ポートフォリオを「オプション」と捉え、初期段階では十分な数のシード投資を行い、トラクションが見えた段階で集中的に資本を投下する戦略が推奨されます。大規模ファンドによるシードバリュエーションの高騰は、この戦略の実行を複雑にしています。
  4. 本質的な価値創造への注力:指標の操作や「キング・メイキング」といった市場の歪みに対し、Venky氏は創業者が「最終的な価値創造に注力しているか」という本質的な問いかけを重視します。ジョージ・ソロスが説く「再帰性」が市場サイクルを形成しますが、その終焉は大規模な債務不履行から訪れる可能性を指摘します。
  5. エゴの排除とLPへの責任:VCは投資家に利益をもたらすことを唯一のエゴとすべきであり、取引を勝ち取るために本心に反する言動をすべきではないという、プロフェッショナルとしての倫理が強調されました。LPに対しては、透明性を持って状況を説明し、DPI(実質的な分配倍率)を提供することの重要性を説きます。
  6. 「不作為の罪」の重みと創業者の洞察力:見送った案件こそが最大の失敗であり、Facebookへの投資機会を逃した自身の経験から、創業者のビジョン、人間行動への洞察力、そして複雑な概念をシンプルに伝える能力を見極める重要性が語られました。
  7. 所有比率の変化と資本集中のゲーム:所有比率の低下は避けられないトレンドですが、1兆ドルの2%の方が1億ドルの20%よりも価値があるという考え方を示し、企業がアウトライヤーとなった段階では「資本集中」のゲームへと移行します。
  8. 「MAG7への税金」とIRRの重視:AI企業が巨大テック企業へ「税金」を払う経済圏において、VCは公開市場のインデックスファンドを上回るIRRを提供しなければ、LPから資金を得ることはできません。
  9. 希薄化とビジネススピードの相関:投資家の希薄化は深刻ですが、OpenRouterのような高速成長企業は希薄化を抑えることができます。ビジネスのスピードは、評価額の急上昇を通じて、人材確保に必要な持ち分を減らす効果も持ちます。
  10. M&Aの加速と資本配分の才:競争圧力、規制環境、そして大手企業の資金力がM&Aを加速させています。規模が拡大した創業者は、プロダクトビジョンだけでなく、ザッカーバーグのように優れた「資本配分」のスキルを持つことが不可欠です。
  11. 富と謙虚さ、そして持続的な努力:お金は本性を暴くだけであり、真に意欲的な人は金銭で変わらないとVenky氏は言います。成功したVCであっても「傲慢にならない」ためには、「次の投資」が最も重要であるという心構えと、サラ・グオのように「一生懸命働くこと」が不可欠です。
  12. 長期的な視点と人間性:LPには「バックミラーではなく、フロントガラスを見ること」をアドバイスし、過去の結果だけでなく、ファームの将来性とパートナーの質を見極めるよう促します。そして、自分より優れた相手と結婚し、お互いを尊敬し合うこと、またロナルド・レーガンの言葉「誰が手柄を立てるかを気にしなければ、人が成し遂げられることに限界はない」を最高の教訓として、常に自分らしく、正しいことを追求する姿勢が、持続的な成功へとつながることを示しています。

Venky Ganesan氏の深い洞察と謙虚な姿勢は、変化の激しい現代のVC業界において、真の成功とは何か、そしてそのためにどのような資質と戦略が必要かを示唆しています。10億ドル規模のファンドの有無に関わらず、本質を見極め、変化に適応し、常に全力で走り続けることこそが、新時代のVCに求められる「新常識」と言えるでしょう。