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「石橋は叩かず渡れ」 河野太郎氏がスタートアップに託す日本の未来:税制、規制、そして世界市場への挑戦

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日本経済の未来図を、あなたはどのように想像するでしょうか? 長引く停滞感、少子高齢化、そして世界を覆う地政学的な不安……。そうした閉塞感の中で、新たな希望の光として注目を集めているのが、スタートアップエコシステムの活性化です。先日、Coral Capitalが主催した特別なトークセッションでは、河野太郎衆議院議員と、日本の未来を担う気鋭のスタートアップ起業家たちが一堂に会し、日本経済を再起動させるための具体的な方策について、熱い議論を交わしました。

本稿では、その白熱した議論を深く掘り下げ、河野太郎氏が描く「市場原理主義に基づく大胆な規制改革」のビジョン、そして起業家たちが現場から提起する課題と、それに対する政府への期待を詳細に分析します。このトークセッションは、単なる意見交換に留まらず、日本のスタートアップがグローバルな舞台で躍進し、国家レベルの課題を解決するための羅針盤を提示してくれました。

第一部:河野太郎氏の経済観 – 市場経済の再活性化と政府の役割

「政府が経済戦略を作るな」 – ソ連崩壊から学ぶ市場原理主義

河野太郎氏は、トークセッションの冒頭で日本の経済政策における根源的な問いを投げかけました。 「日本は自由主義経済、市場経済の国なはずなのに、最近は『政府がどう経済対策をしてくれるのか』『補正予算はいくらしてくれるのか』という声が大きすぎる。政府が経済戦略を作ったり、成長戦略を策定したりして経済が良くなるのであれば、ソ連は崩壊していないはずだ」と。これは、政府が市場に過度に介入することの危険性を、歴史的な事例を引いてまで強調するものです。政府の計画が市場のダイナミズムを奪い、結果的に経済成長を阻害してきた過去への警鐘と言えるでしょう。

氏は、日本の大企業の内部留保が600兆円に達し、そのうちキャッシュだけでも300兆円に上るという現状を指摘し、「これだけの資金が眠っているのに、政府が借金をしてお金を使うのはおかしい」と語ります。本来、この潤沢な資金こそが、新たな投資やイノベーションの源泉となるべきだという考えです。政府の役割は、市場が自律的に動き、企業がこの内部留保を積極的に投資に回せるような「環境整備」に徹すること。平時においては、そのための余力を積み上げることが肝要であると氏は主張しました。

規制緩和こそ成長のエンジン:自動運転とドローン配送の教訓

河野氏の経済哲学の根幹をなすのが「規制緩和」です。氏は、新技術の実用化を阻む日本の過剰な規制に対し、具体的な例を挙げてその非効率性を批判しました。

例えば、自動運転技術。諸外国では既に実用化に向けた取り組みが加速していますが、日本では「安全のため」という名目で、自動運転車に「人間が必ず乗車する」という規制が存在します。氏は、これを「保安員を乗せるようなもので、それではペイしない」と指摘。実証実験は繰り返されるものの、肝心の実用化には至らない現状を憂慮します。ドローン配送の分野でも同様です。荷下ろし時の安全確保を理由に「グランドパイロット」と呼ばれる資格保持者の派遣を義務付ける規制があることに対し、「そこに人が行くなら、その人が配達すればいい。ドローンを飛ばす意味がない」と皮肉交じりに語り、その本質的な矛盾を突きました。

これらの事例は、規制がイノベーションの妨げとなり、結果的に日本が世界から取り残されるリスクを示しています。しかし、氏は規制を一律に否定するわけではありません。むしろ、「社会課題解決を目的とした規制」は、技術革新を促す原動力になり得ると主張します。

かつてアメリカで導入された厳しい排ガス規制である「マスキー法」は、当時の日本の自動車メーカーにとって大きな試練でしたが、これをクリアするための技術開発が、結果的に世界市場での競争力向上に繋がった成功例として氏は挙げます。同様に、例えば「20XX年には70歳以上の運転免許は全て返納とする」という規制を導入すれば、それまでに自動運転技術を実用化しなければ、多くの高齢者が買い物や病院に行けなくなるという明確な社会課題が生まれます。このような課題設定こそが、技術開発を強力にドライブする力になると氏は語りました。

ユニコーンを育む「投資のエコシステム」:起業家とファンドの共鳴

河野氏が提唱するのは、政府が直接資金をばら撒くのではなく、起業家が自ら新しい投資先を次々と創出し、ベンチャーキャピタルやファンドがその挑戦を資金面で後押しする「健全な投資のエコシステム」です。これが日本経済成長の「一番の元」となると氏は断言します。

「日本のスタートアップの皆さんがガンガン新しい投資先を作ってもらって、ファンドがそれをどんどん後押ししてもらうのが、日本経済の成長の一番の元だ」

このサイクルが確立されれば、新たな産業が生まれ、雇用が創出され、ひいては国民所得の向上に繋がります。そして、経済が成長すればするほど、政府は法人税や所得税といった形で税収が増えるため、結果として政府も恩恵を受けるという、まさにWin-Winの関係が構築されるのです。政府の役割は、市場のダイナミズムを信じ、その動きを最大化するための環境整備と、必要な規制改革に尽きるという氏の哲学がここに凝縮されています。

第二部:起業家たちのリアルな声 – 現場が求める「追い風」と「改革」

河野氏のビジョンに対し、現場で奮闘するスタートアップ起業家たちは、それぞれが抱える課題と、政府への具体的な期待を表明しました。

スタートアップ税制:リスクに見合うリターンを保障せよ

タクシー配車サービスやライドシェア事業を手がけるニューモの青柳直樹氏は、小泉進次郎氏が提唱した「スタートアップ売却時の譲渡益課税免除」の議論に言及し、スタートアップ業界がこれに大きな注目を寄せていると語りました。自動運転、核融合、サイバーセキュリティといった社会課題解決に取り組むスタートアップが増加し、それに伴い投資額も大規模化する中で、「いかにしてスタートアップへの投資を5倍、10倍に増やしていくか」という問いを投げかけます。

河野氏は、現状のスタートアップ税制が抱える課題を認識していると回答しました。M&Aによって得た利益を再投資した場合に課税が免除される制度があるものの、その期限が「12月末まで」といった極めて短期間に限定されていることに対し、「それは無理がある。財務省も理解しているはずだ」と指摘。リスクを背負って挑戦する起業家が成功した場合、その努力に見合うリターンをきちんと得られるよう、税制面での更なる優遇措置が必要であるという考えを示しました。全員が成功するわけではないスタートアップの世界だからこそ、成功事例からのリターンを最大化し、それが次の投資へと繋がるようなインセンティブ設計が不可欠です。

行政手続きのデジタル化と「選択的夫婦別姓」:国民の時間を「無駄にしない」行政へ

行政サービスのデジタル化を推進するグラファーの石井大地氏は、自身の事業が全国270以上の自治体で導入され、4100万人以上の住民の行政手続きをオンライン化し、その時間的負担を軽減していることを紹介しました。石井氏の目標は、手続きにかかる時間を「ゼロ」にすることです。

こうした行政改革への貢献の中で、石井氏が特に問題提起したのが「選択的夫婦別姓」の議論でした。結婚による姓の変更が、運転免許証、パスポート、銀行口座、クレジットカードなど、個人の生活に紐づくあらゆる手続きの変更を発生させ、膨大な時間と労力を国民に強いている現状を指摘。「この手続きの時間は全く豊かさにつながらない無駄な時間であり、これをなくすべきだ」と主張しました。選択的夫婦別姓制度が導入されれば、姓の変更を希望しない人はこれらの手続き負担から解放され、個人の自由な選択が尊重されるだけでなく、社会全体の生産性向上にも貢献すると考えられます。

河野氏は、石井氏の提言に対し、「イデオロギー的な議論ではなく、やりたい人だけやればいい。なぜ他人がそれに対して『ダメ』と言わなければいけないのか」と、自身のシンプルな考えを表明しました。そして、この問題は「国会で一刻も早く議論し、期限を区切ってでも前進させるべきだ」と、早期の法整備への強い意欲を示しました。

「追い風は止まない」:スタートアップエコシステムを強くする制度改革

ユニコーン企業SmartHRの創業者であり、スタートアップエコシステムの発展を支援するNstockも手掛ける宮田昇始氏は、この2年間で日本のスタートアップ支援策が大きく進展し、業界全体に「追い風」が吹いていることを実感していると語りました。しかし、この「追い風」が突然止まってしまわないかという懸念も同時に表明します。

宮田氏は、SmartHRが立ち上がった2015年当時、ベンチャーキャピタルから「年末調整がデジタル化されたら、御社のビジネスはどうなるのか」と問われたエピソードを披露。皮肉にも、その後9年間、年末調整のデジタル化は国の動きとしてはほとんど進まなかったと語り、国の動きの遅さを指摘しました。しかし、河野氏がデジタル大臣時代に「年末調整の廃止」と「確定申告への一本化」を提言したことは、宮田氏にとって自身のミッションと合致する「これ以上ない追い風」であると歓迎しました。

河野氏の年末調整廃止構想の真意は、コロナ禍で困窮した人々をリアルタイムで把握できなかった経験にあります。給与、源泉徴収、社会保険料のデータを政府が連携させ、それをe-Taxと紐付ければ、国民は医療費控除などを入力するだけで自動的に確定申告が完了します。これにより、政府は国民の所得状況をリアルタイムで把握し、真に困っている人々にプッシュ型で支援を提供できるようになる、という壮大なビジョンが背景にありました。河野氏は、年末調整廃止がメディアに誤解されて「ボコボコにされた」と苦笑いしながらも、この改革の意義を改めて説明しました。

宮田氏は、ストックオプション制度の使い勝手の悪さや、未上場株式の二次流通市場の未整備といった、スタートアップが成長する上で直面する課題も提起しました。河野氏はこれらの課題解決の必要性を認識しており、「セカンダリーマーケットの整備や、ストックオプション制度の改善はしっかりと進めるべきだ」と語りました。そして、宮田氏の「追い風は止まないか」という懸念に対し、河野氏は力強く「止まないよ」と断言。政府や財政界も、スタートアップが成長すれば税収が増えるという意識に変わりつつあると述べ、過去の「石橋を叩いて壊す」ような姿勢ではなく、「行けるところはガンガン行く」というスタンスで改革を進める意向を示しました。

第三部:日本発「グローバルユニコーン」を生むための羅針盤

AKB vs BTS:日本市場に囚われるな、世界を目指せ

日本のスタートアップが世界で活躍するためには何が必要か。河野氏は、AKB48とBTS(防弾少年団)の比較を通じて、その本質を浮き彫りにしました。

「AKBとBTS、同じだけ努力したが、AKBは日本の1億2000万人を相手に、BTSは世界70億人を相手にした。やっぱり結果は違うよね」

この言葉は、スタートアップが目指すべき市場規模の重要性を端的に表しています。日本の市場だけをターゲットにするのではなく、創業時からグローバル市場を視野に入れ、世界中で通用するサービスやプロダクトを目指すこと。日本市場はあくまでその中の一つの市場として位置付け、世界を席巻するユニコーン企業へと成長してほしいという、河野氏からの強いメッセージです。このグローバル志向こそが、日本のスタートアップが圧倒的な成長を遂げるための必須条件であると氏は語りました。

国家レベルの課題解決こそが成長の鍵:デュアルユース技術への戦略的投資

河野氏は、今後の日本の成長戦略において、安全保障とイノベーションの融合が不可欠であると強調しました。エネルギー問題はその最たる例です。日本の電力需要は2007年をピークに減少傾向にありますが、2050年のカーボンニュートラル目標達成には、さらなる再生可能エネルギーの導入加速が必須です。

氏は、再生可能エネルギーの導入スピードを現在の2倍にすれば、2050年には電力需要の約80%を賄える試算があることを示し、そこに水素、アンモニア、CCS(二酸化炭素回収・貯留)といった技術を組み合わせることで、脱原発も可能であるという見解を示しました。しかし、そこで不足する電力供給をどう補うかという課題に対し、河野氏は「核融合」技術への期待を表明します。

核融合技術は、まさに国家レベルの安全保障に関わる課題解決であり、この分野でのスタートアップの役割は極めて大きいと氏は指摘します。同様に、AI、データセンター、サイバーセキュリティといった分野も、国家の安全保障を維持するために不可欠な技術であり、これらを自国で開発・保有する重要性を強調しました。

この文脈で、河野氏は海外の事例として「イスラエルのモサドファンド」を紹介しました。モサドが軍事技術開発を目的としたスタートアップに投資し、それが民生転用されて急成長を遂げている現状は、日本にとって大きな示唆を与えます。また、アメリカでも軍事技術を民生転用する「デュアルユース」の技術開発が進み、ベータントップスのパラソルテアのように米軍から注文を受け、それが事業成長に繋がるスタートアップが続々と生まれていることを例に挙げました。

日本も、防衛省の予算を積極的に活用し、こうしたデュアルユース技術を開発するスタートアップに投資すべきであると河野氏は提言します。「昔は軍事技術が民生に転用されたが、今は最初から民生用と軍事用、デュアルユースだという技術が多い。これを使えるとなれば、日本もそこは防衛省の予算を突っ込んでいくべきだ」と語る氏の言葉には、日本の安全保障と経済成長を同時に実現する、大胆な戦略が込められています。

結論:未来を切り拓く起業家たちへのエール

このトークセッションを通じて、河野太郎氏とスタートアップ起業家たちは、日本の未来に対する明確なビジョンと、それを実現するための具体的なステップを提示しました。過剰な規制を排し、市場のダイナミズムを最大限に引き出すこと。税制や制度を改革し、リスクを取る起業家が正当に報われるエコシステムを構築すること。そして何よりも、最初からグローバル市場を視野に入れ、国家レベルの課題解決に貢献する、世界を変えるユニコーン企業を日本から生み出すこと。

河野氏の「石橋は叩かず渡れ」という言葉は、まさに現状維持に甘んじることなく、未来を切り拓く起業家たちへの力強いエールです。政府、ファンド、そして起業家たちが一体となり、それぞれの役割を果たすことで、閉塞感を打ち破り、日本から世界を変えるイノベーションが次々と誕生する未来は、決して夢物語ではありません。

私たち一人ひとりが、この新たな動きに注目し、その一部となることで、日本の経済と社会は再び力強く成長していくことができるでしょう。日本のスタートアップが世界に羽ばたき、明るい未来を創造していくための、希望に満ちた展望がそこにはありました。