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AI時代におけるベンチャーキャピタルの新常識:CO2 Lucas Swisherが語る巨大市場とプラットフォーム企業への集中投資戦略

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テクノロジー業界は常に変化の波に晒されていますが、近年、その速度はかつてないほど加速しています。特にAIの台頭は、長らく磐石とされてきたSaaSモデルの価値観を揺るがし、ベンチャーキャピタル(VC)の投資戦略にも根本的な変革を迫っています。

CO2のグロースファンドを共同で率いるルーカス・スウィッシャー氏は、この激動の時代において、メガファンドがいかにして依然として5倍ものリターンを生み出し続けることができるのか、そしてなぜ「巨大な市場」が最も重要なのかについて、独自の深い洞察を披露しました。彼の視点からは、価格、マージン、データといった従来の評価軸が持つ意味の変化、そしてAI時代に求められる新たな投資原則が浮き彫りになります。

本記事では、スウィッシャー氏のインタビューから、現代のVC投資が直面する課題、AIがもたらす破壊と機会、そして未来を築くための具体的な戦略を深く掘り下げていきます。

SaaSモデルの「ターミナルバリュー」への疑問符

かつて、SaaS(Software as a Service)企業は、まるで保険会社や年金のように、永続的な収益の流れと利益プールを持つ「ターミナルバリュー」の高いビジネスモデルとして評価されてきました。サブスクリプション型の安定した収益は、投資家にとって魅力的な成長機会を提供し、高い評価額を正当化する根拠とされていました。

しかし、ルーカス・スウィッシャー氏は、このSaaSの「ターミナルバリュー」という概念が、AIの波、特に過去6ヶ月間のAnthropic、OpenAIなどがリリースした高度なコーディングモデルの登場により、初めて疑問視されていると指摘します。AIがソフトウェア開発や運用、さらにはクリエイティブなデザインプロセスまでを自動化・最適化する能力を持つにつれて、特定のSaaS製品が提供していた価値が根本から問われ始めています。

このバリューの再評価は、以下のような複数の連鎖的な影響を引き起こしています。

  1. SBC(株式報酬)とGAAP/Non-GAAP会計の乖離の終焉: 長らく、SaaS企業は成長を優先し、株式報酬(Stock-Based Compensation, SBC)を多用することで、GAAP(一般に公正妥当と認められた会計原則)上の利益は低くとも、Non-GAAP(非GAAP)上の収益性やキャッシュフローを強調してきました。しかし、AIによるターミナルバリューへの疑問符は、投資家がより厳格な会計基準(GAAP)での収益性やキャッシュフローを重視するようになることを意味します。SBCの「ごまかし」が許容されなくなり、企業の真の利益創出力が問われる時代へと移行しつつあります。

  2. SaaS市場の不確実性と投資家の撤退: AIがどのSaaS企業にどれほどの影響を与えるかについて、市場はまだ明確な答えを見出せていません。スウィッシャー氏は、「ほぼすべてのSaaS企業について、強気シナリオと弱気シナリオの両方を考えることができる」と述べ、この不確実性が投資家の間でパニックを引き起こしていると分析します。将来の収益性や成長パスが見通せない中、多くの投資家はSaaSセクターから資金を引き揚げ、「コンシューマーインターネットや半導体など、他の確実性の高い分野へと資金を振り向けている」のが現状です。

  3. 価値評価の困難さ: このような市場環境において、企業価値をどのように決定するかは極めて困難な課題です。例えば、デザインツールを例にとると、AI統合による価値向上を主張する強気シナリオと、Chat GPTのようなツールでデザインが生成可能になることで不要になるという弱気シナリオが同時に存在します。 スウィッシャー氏は、このような状況下では、短期的な指標(四半期ごとの収益成長、純新規ARR、リテンション動向など)を注意深く追うことが重要だと強調します。しかし、これらの指標は常に過去を反映するものであり、技術変化の速度が速すぎるため、市場の長期的な動向を予測することは現状では不可能に近いと結論付けています。

SaaSの「黄金時代」が終わりを告げ、AIが引き起こす新たなパラダイムシフトが、投資家、創業者、そして企業全体に、従来のビジネスモデルと価値評価に対する再考を迫っています。

AIがもたらすSaaS市場の激震

AIは単なる技術革新に留まらず、あらゆる産業の根幹を揺るがす構造的な変化を引き起こしています。特にSaaS業界においては、そのビジネスモデルの前提自体が問い直される事態となっています。スウィッシャー氏の指摘をさらに深掘りすると、この激震が単なる一時的なものではなく、投資家や企業の行動を根本的に変える「アーキテクチャシフト」の初期段階にあることが見えてきます。

テクノロジーの優位性の変遷と収益の耐久性

かつてのSaaS企業は、特定のビジネスプロセスを効率化する専門性や、データに基づいて予測可能性の高い収益ストリームを構築することで高い評価を得ていました。しかし、AIの登場により、この「技術的優位性」の持続期間が劇的に短縮されています。

スウィッシャー氏が指摘するように、「Geminiが良くなり、Claudeが良くなり、OpenAIが良くなる」といったように、基礎となるAIモデルの進化速度は驚異的です。これは、特定のAI技術に基づいたSaaS製品が、あっという間に陳腐化するリスクを意味します。このような状況下では、従来の「保険年金」のような安定した収益ストリームという概念は過去のものとなり、SaaS企業の「収益の耐久性」は大きく問われることになります。

アーキテクチャシフトがもたらす影響

スウィッシャー氏は、この現象を過去の技術的アーキテクチャシフトと比較して説明しています。

  • オンプレミス技術からSaaS技術へ
  • インターネットからモバイルインターネットへ

これらのシフトが発生するたびに、旧世代の企業は完全に消滅する可能性に直面しました。AIは、まさにこのような「完全な蒸発」の可能性をSaaS企業にも突きつけているのです。

このシフトの核心は、企業が「どれだけ迅速に、そして根本的に自身を再発明できるか」にかかっています。スウィッシャー氏は、この点でDatabricksの事例を挙げ、創業者のアリ・ゴドシ氏の並外れた能力を強調しています。Databricksは、ELT(抽出・読み込み・変換)データ変換レイヤーから、モデルの実行・トレーニング、さらには企業のデータセンターへと、複数のS字カーブを乗り越え、何度も自らを再発明してきました。

スウィッシャー氏はこの事例から、今日の投資家が追い求めるべきは、単なる「収益成長」ではなく、「新しいトレンドへの最も驚異的な適応能力と、次の章へと進み続ける能力」を持つ企業だと結論付けています。Replitのような企業も同様に、新しいテクノロジーサイクルに迅速に適応している例として挙げられます。

指数関数的成長とバリュエーションの逆説

AI時代のSaaS企業には、もう一つの特異な現象が見られます。それは、市場に受け入れられた製品を持つ企業が、かつてない速度で成長するという点です。スウィッシャー氏は、ある企業が300万ドルの収益から、契約完了時には2000万ドルに達するような事例を挙げ、わずかな期間でバリュエーション倍率が70倍から10倍に低下する可能性を示唆しています。これは、企業の成長がバリュエーションの上昇をはるかに上回る速度で進行するため、投資家が「高すぎる」と感じる初期バリュエーションであっても、時間が経てば「極めて安価」に見える可能性があるという逆説です。

このため、スウィッシャー氏らは、企業が「指数関数的に成長している」場合、バリュエーションを「最後に」考えるという投資フレームワークを採用しています。つまり、最も重要なのは、その企業がその成長カーブ上に乗っているかどうかを見極めることであり、初期のバリュエーションが高く見えても、将来的な規模を考慮すれば、それは正当化されるという考え方です。

このAIが引き起こすSaaS市場の激震は、投資家にとって、従来の思考停止した評価基準を捨て、より本質的な企業の適応能力と市場の巨大な牽引力を重視する時代への移行を迫っていると言えるでしょう。

未来はプライベート市場に宿る:プラットフォーム企業の台頭

AI時代におけるSaaS市場の変革は、投資家が「どこに、どのように投資するか」という根本的な問いにも影響を与えています。特に顕著なのは、公開市場とプライベート市場の境界線が曖昧になり、多くの優れた企業が非公開のままで巨大な価値を築き上げているというトレンドです。

公開市場における「未来」の所有の難しさ

スウィッシャー氏は、現在の公開市場においては「未来を所有すること」が非常に難しいと指摘します。公開市場には確かに流動性があり、株式の売買が容易ですが、真に破壊的で高成長の企業は、すでに成熟した企業群の中に埋もれてしまっているか、あるいはまだ公開されていないケースが多いのです。

例えば、AIの最先端を走るAnthropic、Revolution、OpenAIといった企業は、現在の公開市場では株を入手できません。10年前であれば、これらの企業は既に公開されていた可能性が高いとスウィッシャー氏は述べています。

プラットフォーム企業の台頭と非公開化のトレンド

過去5年から10年の間で、特定のタイプの企業が台頭してきました。スウィッシャー氏はこれらを「プラットフォーム企業」と呼び、プライベート市場の上位20社に分類される企業群を指します。これらの企業は、10年前であればおそらく公開されていたであろう規模と成長速度を持ちながら、非公開のままでいることを選択しています。

  • 驚異的な成長と規模: これらのプラットフォーム企業は、公開市場でアクセス可能などの企業よりも速い速度で成長し、巨大な規模に達しています。
  • 多製品展開: 複数の製品ラインを持ち、異なる市場(TAM)へと事業を拡大する能力を持っています。
  • 非公開の選択: 公開企業としての成功を既に証明しているにもかかわらず、非公開のままでいることを選択しています。
  • アクセスできない投資機会: OpenAI、Revolut、Open Evidence(CO2のポートフォリオ企業)のような企業は、一般の投資家が公開市場で株式を購入することはできません。

この非公開化のトレンドは、一般の個人投資家にとっては残念なことかもしれませんが、ベンチャーキャピタル業界にとっては「最高の贈り物」であるとスウィッシャー氏は語ります。なぜなら、これによりVCは「Fidelitys(フィデリティ)」のような大規模な従来の公開市場投資家から、CO2、GC、LightspeedのようなVCファンドへと、資本のシフトとリターン生成の中心を移すことができたからです。

柔軟なマンデートの優位性

この新しい市場構造において、CO2のような「柔軟なマンデート」を持つファンドは大きな優位性を持ちます。特定のシリーズ(例:シリーズB)に投資することに縛られないため、市場のトレンドや機会に応じて、最適なリスク調整済みリターンが見込めるセグメントに投資することが可能です。

スウィッシャー氏が強調するのは、このようなプラットフォーム企業に早期にアクセスし、「ダブルダウン」する機会を得ることの重要性です。初期投資の段階では、それが「最高のラウンド」ではないかもしれませんが、その企業が将来的に1000億ドル規模の企業になる可能性を信じるならば、その後の成長ラウンドでさらに大規模な投資を行う「機会」を得ることができます。Insight Partnersのジェフ・ホーリング氏の言葉「最高のラウンドはダブルダウンラウンドである」は、この戦略の核心を突いています。

企業がより長く非公開に留まることで、VCはこれらの「プラットフォーム企業」に対して、より長期にわたって、より大規模な資本を投入し、その成長の恩恵を享受する機会を得られるようになりました。これは、AI時代における投資戦略の根本的な転換点を示しています。

収益の耐久性再考:技術サイクルと企業の「再発明」

SaaSモデルの「ターミナルバリュー」への疑問、そしてAIによる激震は、企業の「収益の耐久性」という概念そのものにも再考を迫っています。かつてのソフトウェア企業は、一度顧客を獲得すれば、高いスイッチングコストと安定したサブスクリプションにより、長期的な収益が見込まれました。しかし、技術サイクルの加速は、この前提を覆しつつあります。

テクノロジーの「トランジェンス」と蒸発の危機

スウィッシャー氏は、「テクノロジーサイクルは非常に速く変化する」と述べ、今日の技術的優位性が明日には過去のものとなる可能性を指摘します。これは、基礎となるAIモデル(Gemini, Claude, OpenAIなど)が次々と進化し、その性能が数ヶ月単位で更新される現状を反映しています。このような状況では、特定の技術に依存した製品の収益は「一時的(transient)」なものとなり、その耐久性は大きく問われます。

この「トランジェンス」は、過去の技術アーキテクチャのシフト(オンプレミスからSaaSへ、インターネットからモバイルへ)で観察された現象と類似しています。これらのシフトの度に、旧世代の企業が完全に市場から「蒸発」する可能性がありました。AIがもたらすシフトも同様に、SaaS企業が提供する価値を根本的に変え、多くの企業がその渦に巻き込まれる可能性があります。

「再発明」できる企業が生き残る

このような環境で生き残る、あるいは成功を収める企業は、自らを「再発明」できる能力を持つ企業に限られます。スウィッシャー氏は、この能力の重要性を強調し、Databricksの事例を再び引き合いに出します。

Databricksの創業者アリ・ゴドシ氏は、同社を以下のように何度も再発明してきました。

  1. ELTデータ変換レイヤーとしての初期段階。
  2. モデルの実行・トレーニングの中核としての発展。
  3. エンタープライズのあらゆるデータの中核としての位置づけ。

これらは、それぞれ異なる「S字カーブ」であり、企業が成長の新しい段階に移行するたびに、その製品、市場、さらにはアイデンティティを根本的に見直す必要がありました。この「再発明」の能力こそが、テクノロジーの急激な変化に対応し、収益の耐久性を確保する鍵となります。

スウィッシャー氏は、投資家が追い求めるべきは、単なる収益成長率が高い企業ではなく、「新しいトレンドを最も驚異的な形で取り入れ、次の章へと進む能力を持つ企業」であると述べます。これは、Replitのような企業が、いかに新しいサイクルに迅速に適応しているかを示す例でもあります。

指数関数的成長と価値評価の新たな視点

このような環境では、企業の価値評価も従来の指標に縛られるべきではありません。スウィッシャー氏は、年率10倍、50倍といった指数関数的な成長を見せる企業(最近はAIネイティブ企業に顕著)の場合、バリュエーションを「最後の」問いとして考えるべきだと主張します。

たとえば、ARR(年間経常収益)が2000万ドルのシリーズC企業が、30億ドルの事後評価額で資金調達を行ったとします。これは一見すると法外に高く見えるかもしれません。しかし、もしそのARRが1年後に2億ドル、翌年には6億ドル、さらにその翌年には30億ドルと指数関数的に成長すれば、最初の30億ドルの評価額は極めて安価に見えるでしょう。

投資家の仕事は、このような「成長曲線」に乗っている企業を見つけ出すことです。この視点に立てば、高い成長率を伴う企業は、一時的なバリュエーションの高さを超えて、将来的に巨大なリターンを生み出す可能性を秘めていると言えます。収益の耐久性がテクノロジーの「トランジェンス」によって問われる時代だからこそ、この「再発明」と「指数関数的成長」こそが、投資家が見るべき新たな価値評価の指標となっているのです。

指数関数的成長企業の評価:価格は最後、巨大なTAMが第一

AI時代に特有の指数関数的成長を遂げる企業は、従来の価値評価の枠組みを超えたアプローチを要求します。ルーカス・スウィッシャー氏は、このような企業への投資において、バリュエーション(価格)は「最も重要ではない」と断言し、むしろ「巨大なTAM(Total Addressable Market)」と市場からの強い「牽引力」を最優先すべきだと主張します。

バリュエーションは「最後」の問い

スウィッシャー氏は、バリュエーションについて「価格は重要だが、最も重要ではない」という考えを示します。確かに、高すぎる価格で投資すればリターンは侵食されますが、世代を代表するような企業(generational companies)においては、「遅すぎる」ということはほとんどないとも述べています。これは、企業が指数関数的に成長するならば、今日の高いバリュエーションが明日には安価に見える可能性があるためです。

彼のチームが採用する考え方は、投資家が「このラウンドでこの価格で投資し、会社が実行に成功した場合、より高い価格でさらに投資したいと思うか」という「試金石」です。もし50億ドルで投資した企業が半年後に100億ドルでの資金調達を望んだとして、それが「巨大なアイデア」であり、「世代を代表する」ものであり、「変革的」であり、そして「創業者も素晴らしい」と思えるならば、喜んで再投資すべきだというのです。これは、創業者がより高額なラウンドを提案した場合に、投資家がそれに乗る意思があるかどうかを問う、深い洞察に基づいたアプローチです。

この考え方は、ヘンリー・アレン・ボーゲン氏がかつて述べた「企業がより高価になるほど、可能な限り多くのお金を投資したい」という逆説的な主張とも共鳴します。つまり、成長が加速し、成功の確度が高まるにつれて、より大規模な資本を投入することが、投資家にとって最大の利益をもたらすという見方です。

「巨大なTAM」が全てに優先する

バリュエーションよりも遥かに重要なのは、「巨大なTAM(Total Addressable Market)」、つまりその企業が参入している市場の潜在的な規模です。スウィッシャー氏は、この「巨大なアイデア」という原則を決して妥協してはならないと強調します。なぜなら、たとえ高額なバリュエーションで投資したとしても、市場規模が小さければ、その後の成長に限界があるからです。

CO2では、かつて「100億ドル以上の公開企業テスト」という内部基準を設けていました。しかし、今やその基準は変化し、「永続的な公開企業になれるか」という問いに変わっています。これは、市場規模がさらに大きくなり、目標とする企業価値が500億ドル、あるいは1000億ドルに達する可能性を考慮したものです。

「巨大なアイデア」がまず第一であり、その上で「市場がその巨大な市場にあなたを絶対的に引き込んでいる」かどうか、つまり製品やサービスに対して市場から非常に強い牽引力があるかどうかを見極めることが重要です。この市場の牽引力こそが、収益曲線を加速させ、ひいては将来的な利益経路を現実のものにする原動力となります。

例えば、ARRが5000万ドルで評価額が50億ドルの企業に投資する場合、将来的に50億ドルの収益、最低30%のマージン、そして急速な成長を実現できると信じる必要があります。そのためには、「500億ドルの収益を獲得できる市場がある」と確信できる必要があります。この壮大なビジョンと、それを裏付ける市場の牽引力が、スウィッシャー氏の投資哲学の核となっています。

「ダブルダウン」の価値と成長の非直感的な側面

スウィッシャー氏は、「最高のラウンドはダブルダウンラウンドである」というJeff Horing氏の言葉を引用し、既に成功している企業に再投資することの重要性を強調します。ブライアン・シーマン氏の「次のダブルははるかに簡単であることを私たちは過小評価している」という言葉も、この考えを裏付けます。ハーヴェイが60億ドルから120億ドルに成長する方が、ゼロから60億ドルに成長するよりもはるかに容易であるというのです。

さらに興味深いのは、CO2が内部で持っている統計です。各市場キャップ帯において、企業が10倍になる割合を示すチャートでは、企業価値が高くなるほど、その後の10倍成長のチャンスが増加するという非直感的な結果が示されています。つまり、1億ドルから10億ドルの企業よりも、10億ドルから100億ドルの企業の方が、10倍のリターンを生み出す可能性が高いのです。これは、既に成功を収め、市場での地位を確立した企業に集中して投資することの合理性を示唆しています。

結論として、指数関数的に成長するAI時代の企業への投資においては、初期のバリュエーションに一喜一憂するのではなく、その企業が「巨大な市場」で「強烈な市場の牽引力」を持ち、将来的にさらなる成長を遂げた際に「ダブルダウン」できる機会があるかどうかを見極めることが、成功への鍵となります。

メガファンドの時代:なぜ今、大規模投資が成功するのか?

ベンチャーキャピタル業界では、数年前から「メガファンド」と呼ばれる50億ドル以上の大規模なファンドが台頭しています。従来のVCの常識では、ファンド規模が大きくなるほど、高いベンチャーライクなリターンを生み出すことは難しくなると考えられてきました。しかし、ルーカス・スウィッシャー氏は、AI時代においては、メガファンドであっても、ベンチャーライクなリターンを出すことが可能であると力説します。

ベンチャーとグロースの明確な分化

スウィッシャー氏は、まず「ベンチャー」と「グロース」という2つのアセットクラスを明確に区別すべきだと指摘します。両方を手掛けるファンドも存在しますが、それぞれ異なる投資ロジックとリターン目標を持つため、同じものとして語るべきではない、という立場です。

彼が問題視するのは、30億ドル規模の「ベンチャーファンド」です。シード段階の初期投資では、少数の企業が圧倒的なリターンを生み出す傾向があるため、大規模なファンドが少数の成功企業において「不均衡な所有権」を獲得することは極めて困難です。小規模なベンチャーファンドであれば、一部の「素晴らしい成果」を逃してもやっていけますが、30億ドルのファンドでは、多くの「素晴らしい成果」を捉えなければ、目標とするリターンを達成することはできません。

グロースファンドが大規模化しても成功する理由

しかし、グロースファンドに関しては、その数学は異なります。スウィッシャー氏は、50億ドル以上のグロースファンドが成功する理由として、以下の2つの主要な市場変化を挙げます。

  1. 企業がより長く、より大きくプライベートに留まる: かつて公開されていたであろう多くの「プラットフォーム企業」が、今日ではより長く、より大規模に非公開に留まる傾向にあります。これにより、VCは企業がまだプライベートな段階で、より多くの投資機会を得られるようになりました。10年前であれば、1社に10億ドルを投資することは考えられませんでしたが、今日ではそれが可能です。 スウィッシャー氏は、「もし10億ドルを投資し、それが10倍になれば、50億ドルファンド全体で2倍のリターンになる」と計算します。これを実現するには、少数の企業に「集中投資」し、「大規模なチェック」を入れるという規律が必要です。スプレー&プレイ(多数の企業に少額投資する戦略)は、メガファンドの規模では機能しません。

  2. アウトカムサイズ(成功企業の規模)の拡大: AI時代においては、成功企業が生み出す最終的な価値(アウトカムサイズ)が、過去の世代よりもはるかに大きくなっています。SaaS時代では、独立系SaaS企業の最大手はSalesforce、Workday、ServiceNowといった数千億ドル規模でしたが、AIの世界ではこの上限が大きく引き上げられます。 スウィッシャー氏は、「もしAIが労働力を拡張し、巨大な市場に対応できると考えるならば、そして人間からのインプットがトークンからのインプットに移行すると考えるならば、はるかに大きな成果が生まれるだろう」と述べ、この新しい世界では投資の数学が機能すると説明します。

垂直SaaSの投資対象としての変化

このメガファンドの時代において、垂直SaaS企業(特定の業界に特化したSaaS)の位置づけも変化しています。インサイト・パートナーズのような企業は、垂直SaaSへの投資で数十億ドル規模の素晴らしいイグジットを達成してきましたが、スウィッシャー氏は、今日の巨大ファンドにとって、垂直SaaSはもはや「フォーカスすべき対象ではない」と断言します。

メガファンドは、「絶対的なメガアウトカム」、つまりファンド全体に不均衡なリターンをもたらすような「プラットフォーム企業」に集中する必要があります。垂直SaaSは依然として素晴らしいビジネスモデルを持つ企業を生み出すかもしれませんが、そのTAMの限界から、メガファンドが求める「メガアウトカム」にはなりにくいのです。

結論として、AI時代のメガグロースファンドは、市場の変化を読み解き、少数の「プラットフォーム企業」に大規模かつ集中して投資することで、ベンチャーライクなリターンを達成できる可能性を秘めています。この戦略は、従来のVCの常識を覆し、新たな投資の地図を描き出しています。

投資戦略の核:集中と「ダブルダウン」の威力

ルーカス・スウィッシャー氏がCO2で実践する投資戦略の核は、少数の「プラットフォーム企業」に資本を集中させ、それらの企業が成功するにつれて「ダブルダウン」していくことにあります。これは、VC業界における価値創出の現実と、AI時代における市場の構造変化に深く根ざした考え方です。

価値の集中:20社が80%の価値を創造

スウィッシャー氏は、現代のプライベート市場における驚くべき統計を共有します。

  • プライベート市場全体の企業価値の80%は、わずか20社の企業によって生み出されている。
  • さらに、その中の**4社が、プライベート市場全体の企業価値の65%**を創造している。

この事実は、ベンチャーキャピタルにとって「どこにいるか」が「何をするか」よりもはるかに重要であることを示しています。投資家が本当に成功するためには、これらのごく一部の「プラットフォーム企業」に投資しているかどうかが決定的に重要となります。

この価値の集中は、Founders Fundのようなファンドが、ごく少数の企業に超集中投資する戦略を採っていることの正当性を裏付けます。彼らは、一部の企業が圧倒的なリターンを生み出すという信念に基づいて行動し、その結果、大きな成功を収めています。

「スプレー&プレイ」戦略の限界

このような市場構造において、初期段階で多数の企業に少額を投資する「スプレー&プレイ」戦略は、もはや効果的ではないとスウィッシャー氏は指摘します。特にCO2のようなグロースファンドにとって、この戦略は「間違った馬に乗っている」リスクや、「間違った市場にいる」リスク、さらには「時間を誤って投資している」リスクを増大させます。

「ごく少数の企業しか存在せず、私たちはごく少数の投資しか必要としない」という認識が、CO2の戦略を導いています。グロース段階においては、間違った企業に投資する余裕はなく、投資家は自分たちの仕事をできるだけ簡単にし、勝てる可能性のある投資に集中すべきなのです。

「ダブルダウン」による価値創出

投資戦略の中心にあるのが、「ダブルダウン」の概念です。これは、初期投資を行った企業が成功を収め、その価値が上昇した際に、さらに大規模な追加投資を行うことを指します。

スウィッシャー氏は、Jeff Horing氏の「最高のラウンドはダブルダウンラウンドである」という言葉を再び引用し、この戦略の重要性を強調します。

  • 非直感的なリターン: CO2の内部データによると、企業価値が高くなるほど、その後の10倍のリターンを達成する確率が増加するという非直感的な事実があります。つまり、10億ドル規模の企業が10倍になる可能性は、1億ドル規模の企業が10倍になる可能性よりも高いのです。これは、既に市場での地位を確立し、成長の勢いを持つ企業に投資することの安全性を物語っています。
  • 長期的な視点: 企業がより長く非公開に留まる現代の市場構造は、このような「ダブルダウン」戦略を可能にします。投資家は、最初の「アクセスラウンド」で企業に参入し、その企業が1000億ドル規模に成長する可能性を信じるならば、長期にわたってさらに多くの資本を投入する機会を得られます。

「次に3倍」が見えるかという試金石

投資判断における具体的な試金石として、スウィッシャー氏は「次の資金調達ラウンドで、エントリー価格の3倍のリターンを達成できると考えるか?」という問いを挙げます。これは、短期的な出口戦略ではなく、企業が着実に次の成長段階に進み、その都度、投資家にとって魅力的なリターンを生み出せるかを見極めるための基準です。

さらに深掘りすると、それは「もしこのラウンドでこの価格で投資し、会社が実行に成功した場合、より高い価格でさらに投資したいと思うか」という、長期的な関係性と信念を問うものです。もし50億ドルで投資した企業が、6ヶ月後に100億ドルでの資金調達を望んだとして、それが「巨大なアイデア」であり、「世代を代表する」ものであり、「変革的」であり、そして「創業者も素晴らしい」と思えるならば、喜んで再投資すべきだというのです。

AI時代において、少数の「プラットフォーム企業」が市場の価値の大部分を創造する中で、VCファンドは、ごく少数の機会に集中し、成功する企業には惜しみなく資本を投入していく「ダブルダウン」戦略こそが、圧倒的なリターンを生み出すための核となるアプローチだと、スウィッシャー氏は明言します。

魅力的なアップサイドの追求:3倍リターンを超えて

ベンチャーキャピタル投資の目的は、明確に「投資家のための資金を稼ぐこと」にあります。ルーカス・スウィッシャー氏は、この目的を達成するために必要な「魅力的なアップサイド」とは何か、そして「3倍リターン」が単なるスタートラインに過ぎないという、より深い洞察を共有します。

ファンドリターンの現実:なぜ「5倍、6倍」が必要なのか

スウィッシャー氏は、CO2のようなファンドが投資家に対して目標とする「3倍の純リターン」は、トップクォータイル(上位25%)のファンドが目指すベースラインであると説明します。しかし、この3倍の純リターンをファンド全体で達成するためには、個々の投資において、はるかに大きなリターンが必要となります。

その理由はシンプルです。VC投資には必ず失敗が伴うからです。

  • もし一部の投資で「1倍のリターン」(元本回収)に終わった場合、他の投資では「5倍のリターン」が必要になります。
  • もし「ゼロ」(全損)に終わる投資があった場合、他の投資では「6倍のリターン」が必要になります。
  • たとえ「2倍のリターン」が得られたとしても、他の投資で「4倍のリターン」を出す必要があります。

したがって、個々の投資においては、常に「最低でも3倍、しかし本当に信じる企業では5倍、6倍、それ以上」というアップサイドの可能性を見込む必要があります。この現実が、なぜ「巨大なアイデア」と「プラットフォーム企業」への集中が重要なのかを物語っています。

「次の3倍」を想像できることの重要性

スウィッシャー氏が語る「魅力的なアップサイド」のもう一つの重要な側面は、「自分が3倍のリターンを得た後、他の誰かもその企業から3倍のリターンを得られると想像できるか」という問いです。

これは、投資家が将来的な「出口戦略」を考慮していることを意味します。もし、自分の投資が3倍になった時点で、その企業の成長が頭打ちになると市場が判断すれば、買い手を見つけることは困難になります。つまり、企業が成長し続けることで、次の投資家、あるいは公開市場の投資家も魅力的なリターンを得られると確信できる企業でなければ、最終的な出口(イグジット)を成功させることはできません。

この考え方は、「巨大なアイデア」への投資がなぜ重要なのかを明確にします。もし投資対象が巨大なTAMを持つ企業であれば、その成長は一過性のものではなく、複数の成長ステージを経て、継続的に価値を生み出す可能性を秘めています。これにより、出口の際に、公共市場のカウンターパートが「他のあらゆる機会よりも、この株式を買いたいと思うか」という問いに、自信を持って「イエス」と答えられるような企業を選ぶことができるのです。

セカンダリー市場の活用

近年、企業が長く非公開に留まる傾向が強まっているため、セカンダリー市場(非公開企業の既存株式の売買市場)の活用も、流動性確保の重要なオプションとなっています。特に、長期間投資してきたアーリーステージのファンドにとっては、IPOを待たずに一部の株式を売却することで、投資家にリターンをもたらす機会となります。

スウィッシャー氏は、セカンダリー市場は、アーリーステージのファンドにとっても「素晴らしい投資スタイル」であると述べ、この市場を通じて流動性を得られるのは「プラットフォーム企業」のような特別な企業であると指摘します。なぜなら、これらの企業は成長と耐久性において、セカンダリー市場の買い手にとっても魅力的な投資対象だからです。

最終的に、ベンチャーキャピタルは、ファンド全体で高いリターンを達成するために、個々の投資で非常に高いアップサイドを追求する必要があります。そのためには、短期的なバリュエーションに惑わされず、長期的な視点から「巨大な市場」と「再発明の能力」を持つ企業を見極め、成功する企業には惜しみなく資本を「ダブルダウン」し、そして最終的に「次の買い手も魅力を感じる」ような出口戦略を視野に入れることが不可欠なのです。

投資判断の落とし穴:データと直感のバランス

VC投資の意思決定は、多くの場合、複雑なデータと不確実な未来の予測に基づいています。ルーカス・スウィッシャー氏は、投資家が陥りやすい「落とし穴」を指摘し、データと直感、そして広い視野のバランスが重要であることを強調します。

TAMと多製品展開能力の過大評価

スウィッシャー氏が過去の投資ミスから学んだ最大の教訓の一つは、「TAM(Total Addressable Market)の過大評価」と「企業の多製品展開能力の過大評価」です。

  • TAMの過大評価: 投資家は、特定の製品が参入できる市場規模を実際よりも大きく見積もりがちです。特に、ニッチな市場からスタートした企業が、その後、容易に他の巨大市場に拡大できるという前提が崩れることがあります。
  • 多製品展開能力の過大評価: 企業が最初の成功を収めた後、次々と新しい成功製品を立ち上げ、複数のTAMへと事業を拡大できると期待しますが、これは非常に困難なことです。多くの企業は「アクト1」は得意でも、「アクト2、アクト3、アクト4」へと持続的に進化していく能力は持ち合わせていません。

スウィッシャー氏は、これらの過大評価が、投資の失敗につながることが多いと述べ、CO2が「投資の基準を引き上げた」理由の一つであると説明します。成功企業は、最初の製品だけでなく、将来的に複数の製品ラインを展開し、関連するTAMを拡張できる「プラットフォーム企業」である必要があります。

「良い企業」と「偉大な企業」の間の溝

2020年から2021年にかけて資金調達を行った多くのSaaS企業の中には、「良い企業」はたくさん存在します。ARRが1000万ドルから2500万ドルへと成長するような、堅実なビジネスを展開している企業です。しかし、スウィッシャー氏は、これらの企業が「偉大な企業」(great companies)ではないと厳しく評価します。

以前のサイクルであれば、これらの「良い企業」は十分に評価され、資金調達も容易だったでしょう。しかし、現在の市場環境では、グロースファンドが「ベッドから飛び起きる」ほど興奮する対象ではありません。プライベートエクイティや公開市場の状況も不透明な中、これらの企業の「ターミナルバリュー」や「出口経路」がどうなるかは不明確です。

「トリプル・トリプル・ダブル・ダブル・ダブル」の終焉

かつてSaaS業界では、「トリプル(成長率300%)を2年、ダブル(成長率100%)を3年」という「トリプル・トリプル・ダブル・ダブル・ダブル」が、成長企業のベンチマークとされていました。これは、SaaSビジネスの反復可能性と予測可能性の高さを示す指標でした。

しかし、AI時代においては、このモデルは「死んだ」とスウィッシャー氏は語ります。なぜなら、もし市場が本当に気に入る製品を持っていれば、それは「トリプル」どころか「叫ぶように(scream)」成長するからです。市場が製品を「絶対的に引き込む」ような、圧倒的な牽引力を持つ企業こそが、今の時代に求められています。CO2の戦略は、このような指数関数的な成長を見せる企業に集中することで、不均衡なリターンを追求することにあります。

「ビジョンはクソ」という意見

他の投資家が「総クソ(total shit)」に焦点を当てるものとして、スウィッシャー氏が挙げたのは「ビジョン」です。彼は「素晴らしいビジョンを持った創業者を私たちは愛する」という言葉を皮肉を込めて引用し、「ビジョンはクソだ」とまで言い切ります。

彼の意見は、多くの創業者が、たとえ当初のアイデアがゼロの価値だったとしても、現実的な機会があれば、そこに資本を投じるだろうというものです。Googleさえも、初期には低額で売却しようとしていました。真に重要なのは、創業者自身が「進行と継続を通じて次の章を解き放つ」能力を持つことです。単なる夢想家ではなく、現実世界で市場の牽引力を捉え、企業を再発明し続ける実務家である創業者こそが、成功を収めます。プレレベニューで高バリュエーションの企業、特に「製品がない」企業への投資は、リスクが高いとスウィッシャー氏は警鐘を鳴らしています。

データは前提条件であり、答えではない

スウィッシャー氏は、メアリー・ミーカー氏から学んだ「データからストーリーを読み解く能力」を高く評価しつつも、データそのものに対する限界も認識しています。「データは前提条件であり、答えではない」と彼は述べます。データは非常に優れている必要があるが、それが全てではないというのです。

彼自身、Databricksへの初期投資の検討中に、トーマス氏から「ルーカス、あなたは木を見て森を見逃している」と指摘された経験を語っています。純新規ARRが劇的に加速しなかったとしても、より大きなトレンドが進行している可能性を見落としてはならないという教訓です。

特にAIネイティブで「低マージン」のビジネスにおいては、「高いリテンション(顧客維持率)」が絶対的な前提条件となります。もし低マージンでリテンションが低ければ、企業は極めて脆弱であり、ちょっとした変化で立ち行かなくなります。データはこのような「ガイドポスト」として役立ちますが、Excelに没頭しすぎて全体像を見失ってはなりません。

Mimoon氏の「インフレクションポイント」を見極める能力

スウィッシャー氏は、Kleiner Perkins時代の同僚であるミムーン氏を、SaaS時代の「最高のシリーズA投資家」と称賛します。ミムーン氏の特別な能力は、「企業における明確な変曲点(inflection points)」、つまり企業が急速に成長曲線を描き始める瞬間を、ごく少ないデータから見極めることです。

Figmaへの初期投資の際、誰もがInVisionが勝者だと考えていた中で、ミムーン氏はわずか50万ドルのARRしかなかったFigmaのデータ、特にGoogle、Square、Amazonといった大企業における「利用曲線」を見て、わずか30秒で投資を決定したとスウィッシャー氏は回顧します。これは、データに裏打ちされた直感と、市場の根本的な変化を読み解く深い洞察力が融合した瞬間でした。

投資の落とし穴を避け、成功へと導くためには、データに縛られすぎず、しかしデータを前提とし、巨大なTAM、再発明の能力、そして市場の変曲点を見極める総合的な視点と直感のバランスが不可欠です。

マージンの再評価:AI時代における新たな財務構造

VC投資において、企業の収益性、特にマージンは常に重要な評価指標とされてきました。しかし、ルーカス・スウィッシャー氏は、AI時代において、この「マージン」の概念が再評価される必要があり、特に初期段階のAI企業では「誤解を招く指標になりうる」と指摘します。

「マージンは重要だが、初期段階では誤解を招く」

スウィッシャー氏は、「マージンは重要だが、それは規模が大きくなった時だ」と述べます。そして、「特にテクノロジーの波とアーキテクチャシフトが起こっている時には、初期の数年間にひどいマージンを持つ企業があった」と指摘します。

その典型的な例として、彼は「ハイパースケーラー」と「Snowflake、Databricks」を挙げます。

  • ハイパースケーラー(AWS, Azure, GCP): これらのインフラ企業は、初期段階では非常に低いマージンでした。しかし、今や世界で最高のソフトウェアプラットフォームビジネスとなっています。
  • Snowflake、Databricks: 多くの投資家は、これらの企業がSaaSの「常識」とされる80%の粗利益率に達していなかったため、初期ラウンドを見送りました。Snowflakeが20%程度の粗利益率だったことに疑問を抱いたのです。しかし、今日、これらの企業がどれほどの成功を収めているかは言うまでもありません。

これは、「マージン」という指標が、特にアーキテクチャシフトが起こっている初期段階では、企業の真の潜在能力を測る上で「誤解を招く」可能性があることを示唆しています。新しい技術が確立されるまで、高い成長を優先する企業は、一時的に低いマージンを受け入れる必要があるからです。

AI時代におけるマージン構造の変化

AI時代においては、企業のコスト構造が根本的に変化するため、マージンプロファイルもSaaS時代とは異なるものになる可能性があります。

  1. 高コストなインフラストラクチャ: AI企業は、クラウド(Hyperscalers)とLLM(大規模言語モデル)のAPI利用料という、2つの主要なコスト要因を抱えています。これにより、SaaS企業が享受していた80%といった高い粗利益率を達成することは、構造的に困難になるでしょう。

  2. 推論コストの急速な低下: しかし、この粗利益率の低下は、時間の経過とともに改善される可能性があります。スウィッシャー氏は、AIの推論コストが「非常に急速に低下している」と指摘します。

    • 半年前、1年前はマイナスだった推論マージンが、今日は10%になっているような事例。
    • 将来的には、アプリケーションAI企業が特定のワークロードに対して独自のモデルを開発したり、汎用的なフロンティアモデルと、小型で安価なモデルを使い分けたりすることで、マージンを最適化できる可能性。
  3. OPEX(営業費用)の効率化: さらに重要なのは、AIが企業内部のオペレーション効率を劇的に改善する可能性がある点です。

    • エンジニアリングチームはAIツール(コーディングモデルなど)を活用することで、より効率的に開発を進められます。
    • 営業チームもAIツールで効率化されます。
    • 法務チームもAIによって規模が縮小され、効率化されます。

この結果、AI企業は「粗利益率は低いかもしれないが、OPEXが削減されるため、最終的な営業利益率(Operating Margin)は過去の世代よりも高くなる可能性」を秘めているとスウィッシャー氏は語ります。最終的に企業価値を左右するのは営業利益率であるため、これはAI時代のビジネスモデルの大きな特徴となるでしょう。

低マージン企業における「高リテンション」の絶対性

AI企業が低い粗利益率を受け入れる場合、一つの絶対的な条件があります。それは、「顧客行動が極めてスティッキー(粘着的)であること」、つまり「高いリテンション」を確保することです。

スウィッシャー氏は、「もしあなたが低マージン企業であるならば、高リテンションを持つ必要がある。そうでなければ、エラーの余地がない」と強調します。マージンが低ければ、少しの顧客離反やコスト増加が即座に企業の存続を脅かすため、顧客基盤の安定性は生命線となります。この点で、データは低マージン企業のリテンションを正確に把握するための「ガイドポスト」として極めて重要になります。

結論として、AI時代におけるマージン評価は、SaaS時代の固定観念から脱却する必要があります。初期の低い粗利益率は、インフラコストの高さや推論コストの低下途上にあることを反映している可能性があります。より重要なのは、将来的なOPEXの効率化による高い営業利益率の可能性と、低マージンを補う「極めて高い顧客リテンション」を見極めることにあるのです。

「キングメイキング」神話の終焉と資本の役割

ベンチャーキャピタル業界には、「キングメイキング」という概念が存在します。これは、Sequoia、Andreessen Horowitz、AccelなどのトップティアVCが特定のスタートアップに初期から多額の資金を集中させることで、その企業を市場の「王者(King)」へと押し上げ、他の競争相手を寄せ付けなくするという考え方です。しかし、ルーカス・スウィッシャー氏は、この「キングメイキング」という概念が「本物ではない」と断言します。

「キングメイキング」は神話に過ぎない

スウィッシャー氏は、「キングメイキングのコンセプトは現実ではないと思う」と明確に述べます。

  • 確かに、一部の企業は初期段階でより多くの資本を引き寄せます。
  • しかし、資本が少なかった企業が、後から「スリングショット(跳躍)」して成功する例も多数存在します。

特定のトップティアVCが多数の競合企業に投資している現実や、CO2がSnowflakeとDatabricksという直接競合する(最終的に競合するようになった)両方にプライベート投資していた例を挙げ、資本の集中だけが成功を決定するわけではないことを示します。

資本は「優位性」を与えるが、「絶対」ではない

スウィッシャー氏は、多額の資本が企業に「優位性」を与えることは認めます。

  • 例えば、大規模なセールスフォースを雇用し、市場を積極的に奪い取ることができる場合、より多くの資本は大きなメリットとなります。
  • しかし、これは「もしあなたが多くの資本を持ち、狂気じみたプロダクトマーケットフィットがあるならば、それは大きなメリットだ」という条件付きです。

逆に、多額の資本があっても、プロダクトマーケットフィットが不足していれば、それはむしろ「不利な点」となりえます。スウィッシャー氏は、キングメイキングという概念が「行き過ぎている」のは、特定のVCが投資したからといって、それが全てを決定するわけではないという点だと指摘します。資本は一つの要素に過ぎず、プロダクト、チーム、市場の牽引力といった本質的な要素がなければ、多額の資本も無意味に終わる可能性があります。

資本注入の「過剰」問題

スウィッシャー氏は、市場の一部において、企業への資本注入が「過剰」であると感じるセグメントも存在すると指摘します。特に、グロースファンドが、まだ成長が十分に確立されていない「ベンチャー企業」を追いかける際に、この問題が顕著になります。

過剰な資本注入は、企業に以下のような悪影響を与える可能性があります。

  • 自己満足: 多額の資金があることで、企業が目標達成に向けてのハングリー精神や危機感を失い、自己満足に陥る可能性があります。
  • 不適切な支出: 必要以上に多くの資金があるため、企業が「素晴らしいものではない」ことにも支出してしまう可能性があります。
  • 創造性の阻害: 初期段階の企業にとって、「資本の希少性」は、しばしば「素晴らしいもの」を生み出す原動力となります。限られたリソースの中で、アイデアを絞り、効率的に実行する力が養われるからです。

しかし、スウィッシャー氏は、CO2が投資するような「成長段階で爆発的に成長し、真のプロダクトマーケットフィットと牽引力を持つ企業」については、資本の過剰注入は問題ではないと考えています。なぜなら、これらの企業に投資される資本は、「真のROIC(投下資本利益率)」を生み出し、成長を加速させるための正当な投資だからです。

「助けたい人」と「傷つけたい人」

VC投資において、スウィッシャー氏は、フィリップ氏が常に問うという「誰があなたを助けたがり、誰があなたを傷つけたがるか」という問いの重要性を強調します。多くの人々があなたの成長を助け、あなたの成功から利益を得たいと願う状況は、企業にとって「非常に良いポジション」となります。

これは、直接的なキングメイキングではないかもしれませんが、強力なVCや戦略的パートナーから支援を得られることは、企業にとって大きな優位性となります。しかし、それが成功を保証するものではなく、最終的には企業自身のプロダクト、市場、そして実行能力が重要であるという点で、スウィッシャー氏の「キングメイキングは神話」という主張と矛盾しないでしょう。

公開市場への新たな意味合い:流動性、フィードバック、安定性

CanvaやStripeのような「プラットフォーム企業」が長く非公開に留まる傾向は、公開市場の意義を問い直すことになります。「なぜわざわざ公開するのか?」という疑問に対し、ルーカス・スウィッシャー氏は、公開市場が依然として企業に提供する本質的な価値について深く語ります。

企業が非公開に留まる理由

企業が非公開に留まる理由として、スウィッシャー氏は、彼らが「素晴らしいビジネス」であり、プライベート市場でも「豊富な流動性」が得られることを挙げます。また、Stripeの共同創業者ジョン・コリソン氏の「30歳のウォール街のアナリストに営業増強を指示されたくない」という発言のように、公開市場の短期的な圧力や外部からの干渉を避けたいという創業者の意向もあります。

特に、セカンダリー市場の活発化は、非公開企業にとっても従業員や初期投資家に流動性を提供しやすくなっています。しかし、スウィッシャー氏は、これらの「プラットフォーム企業」のほとんどが「永遠に非公開のままでいることはないだろう」と予測します。

公開することの3つの本質的なメリット

スウィッシャー氏は、企業が公開市場に進出することの、根本的かつ長期的なメリットとして以下の3点を挙げます。

  1. 大規模な資本と真の流動性: プライベート市場では、SPV(特別目的会社)の複雑なレイヤーや、株主管理の難しさから、真の「規模の資本」と「真の流動性」を得ることは困難です。スウィッシャー氏は、「誰が投資家なのか、そして成長するにつれて、あなたはそれに値する投資家を得る」と述べ、公開市場が提供する、よりクリーンで大規模な資本調達の機会を強調します。兆ドル規模の企業であっても、公開市場には資金が用意されています。

  2. フィードバックメカニズム: 公開市場は、企業にとって「信じられないほどのフィードバックメカニズム」として機能します。スウィッシャー氏は、NetflixがDVDレンタルからストリーミングへと移行する際、公開市場のアナリストたちがその変化について最初に声を上げたことを例に挙げます。特にAI時代においては、公開市場のプロフェッショナルな投資家やアナリストが、企業のビジネスモデルや戦略に対して、非常に貴重な洞察や批判的なフィードバックを提供することができます。

  3. 安定性と外部からの干渉の抑制: 公開企業になることで、企業は「ある意味で触れにくくなる」とスウィッシャー氏は表現します。非公開企業の場合、競合他社や外部の勢力による「干渉」を受けやすい側面があります。しかし、公開企業、特に巨大で重要な公開企業となれば、401k(米国の確定拠出年金制度)やインデックスファンドの投資対象となり、社会的にも重要な存在と見なされるため、より強固な「厳格さ(rigor)」と「安定性」を得られます。これは、外部からの理不尽な圧力や攻撃から企業を守る盾となりえます。

Canvaの「プラットフォーム企業」としての強さ

スウィッシャー氏は、Canvaを「プラットフォーム企業」の素晴らしい例として挙げ、その公開市場への移行の可能性と潜在的な価値について言及します。Canvaの強さは、Databricksと同様に「複数のS字カーブを乗り越え、複数の製品を開発する能力」にあります。

創業者のメルとクリフは、当初「年鑑ビジネス」からスタートし、それをオンライン化、SaaS化し、今では十数個の製品スイートを持つ巨大企業へと変貌させました。さらに、CanvaはAIの波に「非常に早くから」飛び込んだ企業の1つでもあります。スウィッシャー氏は、Chat GPT以前のAIの波の早い段階で、CanvaのクリフがAI統合について彼に相談してきたことを回顧します。この「複数のTAMに飛び移り、AIのような新しいトレンドの先を行くメンタリティ」こそが、Canvaの将来性を支えるものです。

公開市場への移行は、単なる資金調達の手段に留まらず、企業がより大きなスケールで成長し、市場からの信頼と安定性を獲得し、長期的な価値を創造するための、依然として重要なステップであるとスウィッシャー氏は考えています。非公開期間の延長は一時的なトレンドに過ぎず、最終的には多くの「プラットフォーム企業」が公開市場へと向かうだろうと予測しています。

未来への期待:AIが変える労働と製品の風景

AIは単なる技術的な進歩ではなく、私たちの働き方、生活、そして社会の構造そのものを変革する可能性を秘めています。ルーカス・スウィッシャー氏は、この未来への深い洞察を共有し、特に「労働力代替」と「新たな製品」への期待を語ります。

労働力代替の速度:過大評価と過小評価の狭間

AIによる労働力代替の速度については、常に議論が絶えません。スウィッシャー氏は、この問題が「最も難しい問い」であると認めつつ、過去の技術革新の歴史を振り返ります。人々は消費者の変化の速度を過大評価し、それをエンタープライズに適用しがちですが、企業における変化は常に時間がかかります。

  • エンタープライズの粘着性: 「明日起きて、すべてのSaaS企業が蒸発しているということはありえない」とスウィッシャー氏は述べます。企業は「遅く、粘着的」であり、変化は困難であり、統合や展開には時間と複雑な作業が伴います。
  • SaaSよりは速い変化: しかし、AIによる変化はSaaSが普及した時よりも「はるかに速い」とも指摘します。Anthropicの公開されている数字を例に挙げると、ARR9億ドルの時点で800%の成長を遂げており、同じ規模のハイパースケーラーが平均60%の成長だったことを考えると、その速度は圧倒的です。
  • 農業革命の教訓: 彼は農業革命の例を引き合いに出し、農家がトラクターを購入し、75人の従業員を訓練し、安全文書を作成するといった、物理的な導入とトレーニングの複雑さを指摘します。これに対し、今日のAIは「GeminiがNano Banana Proに組み込まれれば、明日から使える」という、導入の容易さにおいて比較になりません。

したがって、AIによる労働力代替は「長い時間」を要するものの、その速度は過去の技術シフトよりも格段に速い、というのがスウィッシャー氏の複合的な見解です。

最も記憶に残る創業者との出会い:ハーヴェイのWinston

スウィッシャー氏がキャリアで最も記憶に残る創業者との最初の出会いとして挙げたのは、リーガルAI企業Harveyの創業者Winston氏です。

  • 市場と創業者フィットの明確さ: スウィッシャー氏は、Winston氏との出会いの時点で既にAIの可能性を信じていたと述べます。そして、Winston氏のストーリーには「創業者と市場のフィット」が非常に明確に表れていました。
    • 言語モデルが得意なのは「言語」。
    • 最もテキストが多い専門職の一つは「法律」。
    • 言語モデルの初期の成功例は「文書生成、文書分析」。
  • 完璧な適合: Winston氏のこの論文とストーリーの明確な説明は、「これだ!」とスウィッシャー氏に確信を抱かせました。彼はPat Grady氏がシリーズAをリードする前にWinston氏と出会い、「これはまさにその企業だ」と感じたそうです。

これは、データだけでなく、市場と創業者自身の間にどれだけ自然で強いフィットがあるか、そしてそのビジョンがどれほど明確であるかが、投資判断において極めて重要であることを示しています。

最大のミス:Andurilを見逃した反省

スウィッシャー氏がキャリアで最も反省する「見逃し」として挙げたのは、防衛テクノロジー企業Andurilへの投資機会です。

  • 視野の狭さ: 当時、彼はSaaS投資家に過ぎず、P&L(損益計算書)重視の視点を持っていました。AndurilのP&Lは「醜い」もので、従来のSaaSの指標では投資する理由が見当たりませんでした。
  • 「木を見て森を見ず」: しかし、これは彼が「木を見て森を見失った」典型的なケースでした。彼は、創業者チームの「並外れた能力」や、「世界がどこに向かっているか」という「重要なトレンド」を見逃していました。Founders Fundのように、P&Lの数字だけにとらわれず、チームとトレンドの重要性を見抜いた投資家は、この投資で成功を収めました。

この反省は、「データは前提条件であり、答えではない」という彼の哲学を補強するものです。数字は重要ですが、それだけにとらわれず、より大きなビジョン、市場の方向性、そして創業者の資質という定性的な要素を評価する目も同時に必要とされます。

未来の製品への期待

スウィッシャー氏が今後10年で最も興奮しているのは、「製品」そのものです。CO2のチームは「テクノロジーが大好き」であり、それが生活をどう変えるかを楽しみにしています。

彼は特にOpenAIの「新しいデバイス」に期待を寄せています。彼は、「しばらくぶりに、初めてワクワクする新しいデバイスになるだろう」と述べます。かつてのiPod NanoやiPhoneの初期のように、人々が熱狂し、列に並んで購入するようなデバイスの再来を予感しているのです。Claude CodeのようなAIツールが、既に彼の生活に信じられないほどの変化をもたらしているように、新しいAI製品が私たちの生活をどのように変革していくのか、その可能性に大きな興奮を覚えています。

AIがもたらす未来は、単なる労働の自動化に留まらず、私たちの日常を豊かにし、想像もできなかったような新しい製品やサービスを生み出す可能性を秘めています。この変化の波を読み解き、適切な投資を行うことが、AI時代のベンチャーキャピタルの真髄と言えるでしょう。

結論:AI時代におけるVC投資の進化と新たな基準

ルーカス・スウィッシャー氏の洞察は、AIがもたらすテクノロジー業界の地殻変動が、ベンチャーキャピタル投資の常識をいかに根本から覆しているかを鮮明に示しています。SaaSモデルの「ターミナルバリュー」が疑問視され、収益の耐久性が技術の「トランジェンス」によって問われる今、投資家は新たなパラダイムシフトに適応しなければなりません。

この新しい時代において、成功への道筋は以下のような原則によって描かれます。

  1. 「巨大なTAM」と市場の牽引力: バリュエーションの高低は二の次であり、投資対象が潜在的に巨大な市場を持ち、その市場から強力な「牽引力」を得ていることが最優先されます。かつての「$100億企業テスト」は、「永続的な公開企業」という、より野心的な目標へと進化しています。

  2. 企業の「再発明」能力: 技術サイクルの加速に適応し、自らを何度も再発明できる「プラットフォーム企業」こそが、長期的な成功を収めます。DatabricksやCanvaのように、複数のS字カーブを乗り越える創業者とチームを見極めることが重要です。

  3. 集中と「ダブルダウン」: プライベート市場の価値の大部分が少数の「プラットフォーム企業」によって創造される現実を踏まえ、多数の企業に分散投資する「スプレー&プレイ」戦略は機能しません。成功の見込みのある少数の企業に資本を集中させ、成長に応じて「ダブルダウン」していく戦略が、高いリターンを生み出す鍵となります。

  4. マージンの新たな解釈: AI時代における企業の財務構造は、SaaS時代とは異なります。初期の低い粗利益率を単なるネガティブ要素と捉えるのではなく、推論コストの低下とOPEXの効率化による将来的な高い営業利益率の可能性、そして「極めて高い顧客リテンション」を見極める視点が必要です。

  5. データと直感のバランス: データは意思決定の「前提条件」であり、不可欠なガイドポストですが、それが「答え」ではありません。Excelの数字に囚われすぎず、創業者の資質、市場の大きなトレンド、そして「インフレクションポイント」を見抜く直感と広い視野が求められます。

  6. 公開市場の再評価: 企業が長く非公開に留まるトレンドは一時的なものであり、最終的には大規模な資本、真の流動性、市場からの建設的なフィードバック、そして企業としての安定性を求めて、多くの「プラットフォーム企業」が公開市場へと向かうでしょう。

スウィッシャー氏の言葉からは、AIがもたらす破壊的な変化を恐れるのではなく、それを新たな機会として捉え、従来の投資原則を批判的に再評価するVCの姿が見えてきます。未来の富は、この新しいルールセットを理解し、巨大な市場で「再発明」を続け、指数関数的に成長するプラットフォーム企業に大胆に、そして戦略的に投資できる者によって創造されるでしょう。これは、単なる投資戦略の進化に留まらず、テクノロジーが私たちの社会に与える影響の深遠さを物語るものでもあります。