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Carnegie Mellonの40億ドルエンダウメントを紐解く:ベンチャーキャピタル投資の真実、DPI、TVPI、流動性の深層

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最新技術の未来を形作るベンチャーキャピタル(VC)市場は、常に注目と議論の中心にあります。しかし、その輝かしい成功の裏には、多くの複雑な現実と、見過ごされがちな厳しさも存在します。Carnegie Mellon大学(CMU)の40億ドル規模のエンダウメントで投資責任者を務めるマイルズ・ディーフェンバック氏は、このVC市場の深層に鋭いメスを入れる、経験豊富なジャーナリストであり、最新技術に関するブログ記事を執筆する専門家です。

彼の洞察は、単なる投資戦略に留まらず、市場のデータ、GP(General Partner:ファンド運営者)とLP(Limited Partner:出資者)の関係性、そして人間性という、多層的な視点から構成されています。本記事では、マイルズ氏の深い分析に基づき、CMUエンダウメントの投資モデル、VC投資の厳しすぎる現実、GPに求められる真の能力、大規模ファンドの未来、流動性のダイナミクス、そしてAI時代のM&Aとリスクについて、詳細かつ説得力のある形で紐解いていきます。彼の言葉は、VCエコシステムに携わる全ての人にとって、貴重な羅針盤となるでしょう。

1. イントロダクション:逆境を乗り越えた投資家の視点

マイルズ・ディーフェンバック氏の投資哲学は、彼の個人的な経験と深く結びついています。26歳という若さで癌を経験し、それを乗り越えた彼は、自らの人生観と向き合い、困難を乗り越える力を培いました。彼の大学フットボールコーチの言葉「人生の成功は、何が起こるか10%と、それに対してどう反応するか90%」は、彼自身のマインドセットの根幹を成し、投資家としての意思決定にも影響を与えています。

「試練の中には美しさがあり、それが人をより強くする」と語るマイルズ氏は、この経験を通して、精神的に揺らぐことのない強靭な視点を得ました。この類稀なレジリエンスと、人生の深い洞察は、彼がCarnegie Mellon大学の40億ドルエンダウメントという巨大な資金を運用する上で、短期的な市場の喧騒に惑わされず、本質を見抜く力となっているのです。

本記事では、このマイルズ氏の視点を通じて、VC投資の世界が持つ光と影、そしてその未来を深く掘り下げていきます。

2. 40億ドルエンダウメントの戦略的アロケーション – Carnegie Mellonモデルの解剖学

Carnegie Mellon大学(CMU)のエンダウメントは、大学の教育・研究活動を支える上で極めて重要な役割を果たしています。マイルズ氏が運用する40億ドルもの資金は、単なる積み立てではなく、緻密な戦略に基づいて配分されています。

基本的なポートフォリオ構成:株式と固定収入 最上位のレベルでは、エンダウメントの85%が株式に、15%が固定収入に配分されています。この配分比率は四半期ごとに管理され、市場環境や戦略的な判断に応じて調整されます。

プライベートアセットへの積極的な傾斜:「ベストアスリートポートフォリオ」の思想 さらにその下のレベルでは、ポートフォリオの50%がプライベートアセットに割り当てられています。これにはベンチャーキャピタル(VC)、プライベートエクイティ(PE)、不動産、天然資源、プライベートクレジットといった多岐にわたる資産クラスが含まれます。残りの50%はヘッジファンドと公開株式・固定収入といった流動性資産です。

このプライベートアセットの内部配分において、CMUは「ベストアスリートポートフォリオ」というユニークな戦略を採用しています。これは、特定のサブアセットクラスに厳格な比率を設けるのではなく、グローバル全体で最も優れたリスク調整後リターンをもたらす機会を柔軟に追求するという考え方です。マイルズ氏は、「世界中で最高のリスクトレードオフを持つ投資先を見つけること」が目標だと語ります。

VC投資への重点:同規模エンダウメントを上回るアロケーション 特にVC投資に関して、CMUは総エンダウメントの25%弱を配分しており、これはプライベートアセット全体のほぼ半分を占めます。マイルズ氏によると、これは同規模の多くのエンダウメントと比較して5%から10%ポイントほど「オーバーウェイト」なアロケーションです。一方で、ヘッジファンドやリアルアセット(不動産、天然資源)への配分はアンダーウェイトとなっています。

過去3年間、CMUのプライベートエクイティ部門は「自己資金化」されており、VCファンドを含むこの部門からの分配金が、新たなキャピタルコール(資金拠出要請)を賄うのに十分であったことは注目に値します。ただし、サブアセットクラスごとのパフォーマンスには大きな差があり、バイアウトポートフォリオが分配に最も貢献した一方で、ベンチャーキャピタルは最大の減損要因であったことも率直に認められています。それでも、ベンチャーへの傾斜を維持しているのは、その長期的なリターンポテンシャルと、CMUの投資哲学が根底にあるからでしょう。

3. ベンチャーキャピタル投資の厳しすぎる現実 – データが語るLPの苦悩

マイルズ氏のVC市場に対する見方は、データに基づいた厳格な現実主義に貫かれています。彼の最も挑発的で、かつ本質を突く発言の一つが、「90%のLPはベンチャーに投資すべきではない」というものです。

歴史的データが示す真実:リスクに見合わないリターン なぜ彼はこのような衝撃的な発言をするのでしょうか?その根拠は、彼が詳細に分析する歴史的データにあります。マイルズ氏が参照するデータ(約1998年から現在まで)によると、成熟したVCファンドの中央値IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)は、ネットで約8%に過ぎません。さらに、トップクォータイル(上位25%)のファンドであっても、IRRは約15%です。MOIC(Multiple on Invested Capital:投資倍率)は約2.5倍。そして、DPI(Distributed to Paid-in Capital:出資総額に対する現金分配総額の倍率)は、トップクォータイルの15年物ファンドでさえ1.8倍に留まります。

これらの数字を、公開市場(Public Market Equivalent、PME)と比較すると、問題が浮き彫りになります。CMUはVCのPMEとしてNASDAQ 100(QQQ)を設定していますが、過去25年間でNASDAQ 100は世界で最もパフォーマンスの良いPMEの一つでした。マイルズ氏は、「リスクに見合う報酬を得ているか?」という問いに対し、「全く得ていない」と断言します。VCは最もリスクの高いアセットクラスの一つであり、当然、そのリスクに見合う高いリターンが期待されるべきですが、多くの場合、それが実現されていないのです。

「トップデサイル」マネージャーへのアクセスが必須条件 マイルズ氏が「90%のLPはVCに投資すべきではない」と語るのは、このパフォーマンスの二極化が原因です。トップデサイル(上位10%)のマネージャーにアクセスできるLPのみが、PMEを上回るリターンを一貫して達成できると彼は指摘します。それ以下の、例えばトップクォータイルのマネージャーですら、PMEを上回ることは稀です。新規のLPやファミリーオフィスが、最初からトップデサイルのマネージャーにアクセスできることは極めて困難であり、これが多くの投資家がベンチャー投資で失敗する根本的な理由だとされます。

シードファンドの「算数」の課題とマルチステージファームの台頭 特定のファンドサイズ、特に5000万ドルから1億ドル規模のシードファンドが直面する具体的な課題も指摘されています。マイルズ氏によれば、平均的なシードラウンドのチェックサイズは400万ドルから500万ドルです。十分な所有権(3〜3.5%)と分散(30社程度)を確保するには、約30社の企業にそれぞれ300万ドル以上の投資をする必要があり、そのためには9000万ドルもの資金が必要になります。5000万ドルから1億ドルのファンドでは、この算数が成り立たず、結果として所有権の低下や分散不足、あるいは「ツウィーナーチェック」(小規模なチェック)を多数切ることになり、トップティアのディールを獲得することが困難になります。

さらに、近年はマルチステージファームがシード段階にも積極的に進出しており、彼らはより安価な資本コストで500万〜1000万ドルのチェックを切ることができます。これにより、従来のシードファンドモデルは競争の激化に直面しています。

非コンセンサスなアイデアへの投資の重要性 このような競争環境で勝ち抜くには、マイルズ氏は「非コンセンサスな創業者、非コンセンサスなアイデア」への投資の重要性を説きます。AirBnBやUber、SpaceXといった今日の巨大企業も、初期には資金調達に苦労した「非コンセンサスなアイデア」だったことを例に挙げ、こうしたディールでは競争が少なく、より良い価格と所有権を確保できる可能性が高まると指摘します。ただし、今日の市場では「非コンセンサス」を見つけること自体が非常に困難になっているという問題も認識しています。

LPが陥る「ブランド信仰」の危険性 さらに、多くのLPがパフォーマンスよりも「ブランド」を追いかける傾向があることも問題視しています。「IBMを買ってクビになる人はいない」という古典的な格言のように、一部のLPは、著名なファンドに投資すればリスクヘッジになり、たとえリターンが悪くても責任を問われにくいと考える傾向があるようです。しかしCMUでは、ガバナンス委員会を教育し、データとリスク調整後リターン、そしてフィー構造に基づいて厳格な意思決定を行うことで、この「ブランド信仰」に囚われない戦略を維持しています。

4. ベンチャーの5つの柱 – GPに求められる真の能力

マイルズ氏は、優れたVCファンドを支える要素として「ソーシング、ピッキング、ウィニング、ヘルピング、セリング」という5つの柱を挙げ、それぞれの重要性を深く掘り下げています。

1. ソーシング (Sourcing): どこからディールを見つけるか トップティアのファーム、例えばSand Hill Roadの主要なVCなどは、そのブランド力とパートナーの強固なネットワークにより、多くのSティア(最上位)の創業者から真っ先に声がかかるため、特別な「システマティックなソーシング戦略」は不要だとマイルズ氏は指摘します。彼らは単に「デフォルトのミーティング先」として存在します。一方、よりニッチな地域や戦略(例:オーストラリアのブートストラップ企業、ピッツバーグの企業)では、CRMなどの自動化されたツールが、従来のシリコンバレーのファームのレーダーに乗らない企業を発掘するのに役立つ可能性もあります。しかし、マイルズ氏は、ソーシングには依然として多くの「運」と「ハッスル」が関わるとも考えています。

2. ピッキング (Picking): 最高の投資機会を選ぶ目 優れたピッキング能力を持つGPとは、いかなる人物でしょうか。マイルズ氏は、マイク・メイプルズ氏の「宇宙の潮流に逆らう」という投資哲学を高く評価します。UberやAirbnbのように、最初は「最も愚かなアイデア」に見えたものが、やがて世界を変えるような企業に成長するケースを見抜く力です。彼は自身を「悪いVC」と称し、UberやAirbnbの初期のアイデアを「クレイジー」だと感じた経験を語ります。

優れたピッカーを見抜くためには、単に過去のトラックレコードを見るだけでなく、その投資がなされた際のGPの「真の思考」と「先見性」を理解することが重要です。CMUは創業者にも直接話を聞き、多くの投資家が見向きもしなかったアイデアを、なぜ特定のGPだけが信じ、支援したのかという「深層」を掘り下げます。

3. ウィニング (Winning): 競争に打ち勝ち、ディールを獲得する力 競争の激しいVC市場において、良いディールを見つけるだけでなく、それを獲得する能力は不可欠です。GPのブランド、評判、そして創業者をサポートする能力が、ディール獲得の鍵となります。

4. ヘルピング (Helping): 企業成長を支援する マイルズ氏は、「ファウンダーフレンドリー」という言葉が過剰に評価されている現状に疑問を呈します。彼のスポーツ経験から、「厳しいコーチング」こそが選手(創業者)を成長させると信じています。批判は、愛情と成長への期待から来るものであれば、建設的なものとなり得ます。創業者が弱点を持つのは当然であり、VCはそこを補完し、軌道を修正する「愛ある厳しい」コーチであるべきだというのが彼の考えです。CMUはレファレンスワークにおいて、最も「ファウンダーフレンドリー」なGPを求めることはなく、むしろ建設的に貢献できるGPを重視します。

5. セリング (Selling): 出口戦略の巧拙 5つの柱の中で、マイルズ氏が特に強調するのが「セリング」(出口戦略)です。過去10年間のVCマネージャーのセリング能力はまちまちであり、特に2021-2022年の公開市場の過熱期には、「多くのGPがストックを売却しなかった」と批判します。当時はソフトウェア企業の評価額が異常に高騰しており、GPは今後も成長が続くと過信していた節があります。

ユニオンスクエアベンチャーズは、この「セリング」において最も優れているファームの一つだと評価されています。彼らはファンドの8年目から12年目にかけて、創業者と連携しながら積極的に株を売却する厳格なプロトコルを持っています。

現金分配 vs 株式分配 CMUはGPが現金で分配することを強く望んでいます。GPが株式で分配した場合、LPがその株式を売却するまでにタイムラグが生じ、その間に1〜2%の価格差が発生するリスクがあるからです。現金分配であれば、GPがまとめて売却し、全てのLPに公平かつ迅速にキャッシュが分配されます。

GPのブック評価の課題とCMUの対応 GPがポートフォリオ企業を評価(マーク)する際の正確性も大きな懸念事項です。一部のマルチステージファーム(ExcelやSequoiaなど)は、優れた企業であっても20〜30%のディスカウントを適用するなど、非常に保守的に評価する傾向にあります。しかし、すべてのGPがそうであるわけではありません。

CMUはこれに対応するため、再投資や新規マネージャーのデューデリジェンスを行う際、そのGPのポートフォリオにおける上位10社のNAV(Net Asset Value:純資産価値)を独自に分析します。彼らは、売上、粗利益、フリーキャッシュフローといった具体的なトレンドデータを要求し、独自にその企業の価値を「過大評価、過小評価、または適正評価」されているかを判断します。Circleの事例のように、GPが30%ディスカウントで評価していた企業が、後になって驚くほどの価値を持つことが判明する場合もあり、そのリスクは常に存在します。

徹底したレファレンスワーク:人間関係とパートナーシップのリスク CMUは、新規ファンドへの投資を検討する際、少なくとも20件以上のレファレンス(照会先)から情報を収集します。GP自身が提供するレファレンスは「最悪」であり、彼らは「オフシュート」(独自に開拓した)レファレンスから、より真実に近い情報を得ようとします。VC業界の密接なネットワークを利用し、積極的に他者からの意見を求めます。

特に重視するのは「人間関係のリスク」と「パートナーシップのリスク」です。GPが優れた人物であるか、悪意のある行為をしていないか、そしてファーム内部のパートナーシップが健全であるかを深く掘り下げます。GPに直接「パートナーシップにリスクはないか?」と尋ねても、「最高の関係だ」と答えるでしょう。しかし、レファレンスを通じて、パートナー間の力学や意見の対立、信頼関係の有無といった、表面には現れない情報を収集します。

パートナーシップ崩壊の根源:インセンティブと努力の差 マイルズ氏は、VCファームにおけるパートナーシップが崩壊する最大の理由は「インセンティブと、誰が最も懸命に働いているか」にあると断言します。過去2年間で、VCファームのパートナーシップにおいて多くの変化が見られ、マイルズ氏は自身のLPとしての8年間のキャリアで最も大きな変動だったと述べています。

その背景には複数の要因があります。

  1. 経済的なインセンティブの低下: 巨額の富を築いたGPは、今日のVC市場が直面する「流動性不足、破綻したキャップテーブルの整理、創業者交代」といった「泥臭い」作業にモチベーションを見出せなくなります。
  2. キャリーの蒸発: 新しいGPは、当初期待された報酬の一部である変動性のキャリー(成功報酬)が、パフォーマンスの低下により「蒸発」してしまったことで、報酬が大幅に減少し、新しいファームを立ち上げたり、別の機会を追求したりするインセンティブが高まります。

スピンアウトファンドに対するCMUの姿勢 CMUは歴史的にスピンアウトファンドへの投資には消極的です。ただし、A*のKevin Hartzのような「クリーンなスピンアウト」(創業者としての経験が長く、短い期間でファームを離れたケース)は例外として検討することもあります。

GPとの長期的な関係構築 CMUは、新規マネージャーへのコミットメントを行う際、非常に長期的な視点を持っています。彼らは、新しいベンチャーファンドのライフサイクルが少なくとも15年、おそらく18年かかると認識しており、新しいマネージャーをバックアップする際には、少なくとも3つのファンドに投資することを想定しています。これは「25年にも及ぶ非流動的な関係」であり、米国の平均的な結婚期間の2倍にも匹敵するとマイルズ氏は冗談交じりに語ります。だからこそ、パートナーシップを結ぶ相手を慎重に見極める必要があるのです。

5. エンダウメントモデルと大規模ファンドの未来 – 変革期の課題

現在のVC市場は、LPとGP双方にとって大きな変革期にあります。特にエンダウメントモデルの課題と、大型ファンドの台頭は、今後のVC投資のあり方を大きく左右する要因となります。

LPチャーンとファンドの安定性 VCファンドのLPベースの安定性は非常に重要です。LPチャーン(出資者の離脱)は現実の問題であり、これに対処するためには、LPベースの多様化が不可欠だとマイルズ氏は指摘します。エンダウメント、財団、ファミリーオフィス、創業者、さらには他のVCファンドのGPなど、様々なタイプのLPを組み合わせることで、特定のLPが流動性危機に陥ったり、投資戦略を変更したりした場合のリスクを軽減できます。

最大投資家からの集中リスクについても警鐘を鳴らします。理想的には、どのLPもファンドの10%以上を占めないのが望ましいですが、現実的には30%以内が許容範囲だと言います。それ以上の集中は、ファンドの安定性を損なう可能性があります。

米国のエンダウメントモデルが直面する逆風 米国のエンダウメントモデルは現在、いくつかの逆風に直面しています。特に、一部のエンダウメントに対する8%の課税は大きな課題です。エンダウメントは毎年、大学へのドローダウン(支出)として平均5%を拠出しています。これに高等教育のインフレ率(約3%)を加えると、元本の購買力を維持するためには年間8%のリターンが必要になります。この「8%の壁」に、さらに8%の課税が加わると、リターン目標の達成は極めて困難になります。

もしエンダウメントがドローダウン率を下げなければ、元本を侵食し、将来の購買力を損なうリスクがあります。VC市場からの流動性不足が続く中で、この税制改正はエンダウメントがVC投資を続ける上での大きな障壁となり得ます。

GPの経営会社売却がもたらす問題 GPが自らの経営会社の一部を売却することは、CMUを含む多くの機関投資家にとって「大きなレッドフラグ」です。VCファームの魔法は、GPが持つ「ケアと関心」にあります。彼らは週に何百もの電話をかけ、長時間働くことで価値を創造します。しかし、経営会社の一部が外部のサイレントパートナーに売却されると、その「ケアと関心」が希薄化し、GPが巨額のキャリーを外部パートナーと分け合うことになります。これは、GPのモチベーションとLPへのアライメントを損なう問題だとマイルズ氏は指摘します。

マルチステージプラットフォームの「数学的現実」 近年、多くのVCファームがファンドサイズを拡大し、シードからグロースまで投資するマルチステージプラットフォーム化を進めています。マイルズ氏は、このような巨大ファンドのリターン達成には非常に懐疑的です。彼は具体的な数学的分析を示してその理由を説明します。

例えば、70億ドル規模のマルチステージファンド(10億ドルのアーリーステージファンド、20〜30億ドルのグロースファンド、残りはオポチュニティファンドで構成され、LPは各ファンドに同率で投資するケース)を考えます。LPが投資した資金全体で、平均して5%の所有権が得られると仮定します。このファンドが4倍のネットリターンを目標とする場合、手数料(アーリーステージで2.5%と30%、グロースで2%と20%)を考慮すると、少なくとも6倍のグロスリターンが必要です。

単純な計算で、ファンド規模70億ドル ÷ 平均所有権5% = 1400億ドル。これは、このファンドが投資する企業の企業価値総額に相当します。そして、4倍ネットリターン(6倍グロスリターン)を達成するには、この1400億ドルに6を掛けた8000億ドルもの市場価値の出口が必要となります。

これを過去のデータと比較すると、2021年はVC業界史上最高の出口イヤーであり、その年のIPOとM&Aによる市場価値総額は約8500億ドルでした。つまり、たった一つのファンドが、史上最高の出口イヤー全体の規模に匹敵する、あるいはそれを超える市場価値を創出する必要があるのです。マイルズ氏はこれを「驚くべき数字であり、非現実的だ」と指摘します。

彼は、将来的にMicrosoftが10兆ドル企業になり、50兆ドル規模の企業が多数出現する可能性を認めつつも、その成果がVCの大型ファンドのリターンを正当化するほど現実的ではないと考えています。過去10年間で、500億ドル規模のIPOはわずか11件しかなく、最大のVCバックIPOは2012年のFacebookと2014年のAlibabaであり、2021年のバブル期ですらそれを超える出口は生まれていません。1000億ドル規模のIPOは、今後10年間でも「世代に一度」のイベントであり続けるだろうと予測します。

Index Venturesの成功要因:規模を抑制する文化 このような大規模ファンドに対する懐疑的な見方がある一方で、マイルズ氏はIndex Venturesのようなファームを高く評価しています。Figma、Dream Games、Whiz、Scale AI、Revolutといった世代を代表する企業に投資してきたIndexは、驚くべきパフォーマンスを上げています。特に、2021年の過熱期以降、ファンドサイズを縮小したことは、彼らが「パフォーマンス駆動型」の文化を持ち、いたずらに資本を拡大しないという規律を証明しているとマイルズ氏は称賛します。彼は、Indexが10億〜20億ドルというサイズで、大きなチェックも書けつつ、極端なパワーローリターンを生み出すのに十分な限定的な規模を維持している点が成功要因だと分析します。

不適切なフィー構造への提言 大規模マルチステージファンドのフィー構造についても、マイルズ氏は厳しい目を向けます。これらのファンドは、すでに成熟し、確立された企業に数億ドル規模のチェックを投資しており、実質的には公開株式のロングオンリー投資家のような振る舞いをしています。人事チーム、製品チーム、事業開発チームなどを備えた「よく油が差された機械」のような企業に対し、GPは四半期ごとの決算発表を行う必要もなく、積極的に経営管理しているわけでもありません。

それにもかかわらず、彼らは伝統的な「2%管理費と20%キャリー」といったフィーを課しています。マイルズ氏は、このような投資には「1%管理費と10%キャリー」といった、公開株式のフィーに近い構造が適切であると提唱します。なぜなら、GP自身が投資に時間を費やすべきであり、LPの資金を使って「高マージンのビジネス」を構築すべきではないからです。

ただし、GP側からすれば、市場が許容する限りフィー構造を変えるインセンティブはありません。マイルズ氏は、2008年の金融危機後にヘッジファンド業界でフィー構造の大きな変化が起こったように、VC業界もいずれ同様の調整期を迎えるだろうと予測しています。

6. 流動性と市場のダイナミクス – AI時代のM&Aとバブルのリスク

VC市場の現状と未来を語る上で、流動性の問題と、AIという新たな技術革新の波がもたらす影響は避けて通れません。

公開市場の価格是正とIPOの加速 マイルズ氏は、かつてプライベート市場の資本コストが公開市場より安かったという「信じられない」時代があったと振り返ります。当時は、四半期ごとの決算発表や厳格な規制を避けるため、多くの優れた企業が公開市場に出ることを躊躇しました。しかし、現在は状況が逆転しています。公開市場はリスクを非常に厳しく評価し始めており、Circle、Nebius、Coreweave、Palantir、Cloudflareといった企業は、健全なマルチプルで取引されています。

マイルズ氏は、VCマネージャーたちに向けて「今こそ企業を公開すべき時だ」という強いメッセージを送ります。公開市場の評価が現実的になり、成長率15%でブレークイーブンの企業には厳しい目が向けられる一方で、Microsoftのようにトップラインが14%、利益が17%成長し、強い競争優位性を持つ企業が評価されています。VCマネージャーは、自社が代替投資と比較して魅力的なのかを真剣に考える必要があります。

2026年、流動性の波が来るか? Figma、Whizなどの大型M&AやIPO案件が規制当局の承認を得て市場に流動性をもたらすのは、おそらく2026年になるだろうとマイルズ氏は予測します。特にWhizの買収は2026年第1四半期のイベントになると見られています。この流動性の波はVC業界にとって好ましいものですが、過去3年間にわたる深刻な流動性不足を解消するには、一過性のものでは不十分であり、複数年にわたる継続的な流動性が必要だと指摘します。

巨大テック企業のM&A戦略とAI市場の変動性 Google、Microsoft、Amazon、Metaといった「Magnificent 7」と呼ばれる巨大IT企業は、年間合計で6000億ドルものオペレーティングキャッシュフローを生み出しています。彼らは、自社株買いよりも戦略的なM&Aを通じて成長を加速させることを望んでいます。Whizの買収承認は、他の大型テック企業にとって「グリーンライト」となり、大型買収が活発化する可能性があります。

しかし、AI分野の急速な変化はM&Aに新たな課題をもたらしています。買収完了までに12ヶ月もの審査期間を要する場合、その間に買収対象となるAI企業の技術やビジネスモデルが陳腐化するリスクがあります。Whizの買収で10%という史上最大の違約金が設定されたのは、このリスクを反映しています。このため、多くの巨大テック企業は、トップタレントを獲得し、IPや技術のライセンス供与を受け、自社内でビルドしていく「リフトアウト」のような戦略を好む傾向にあります。

OpenAIと「AIバブル」の懸念 OpenAIのユニットエコノミクスは急速に改善していますが、マイルズ氏はその持続可能性に懸念を抱いています。彼は、OpenAIが過去12ヶ月間にVC業界史上最大の資金調達ラウンドを2回も行ったのは、年間50〜100億ドルという巨額のキャッシュバーン(現金の焼却)があるからだと指摘します。

過去の歴史を振り返ると、鉄道、自動車、電力、蒸気船、インターネットといった全ての画期的な技術革新は、必ずバブルとその崩壊を経験してきました。マイルズ氏は、AIが究極の異常値となり、バブルが弾けないということは考えにくいと語ります。もしAIバブルが弾け、資本市場が凍結し、OpenAIが数十億ドルの資金調達ができなくなった場合、自社の運命をコントロールできない企業は「ゼロ」になるリスクを抱えています。

彼は、GoogleやMetaがIPO時に30〜40%もの営業利益率を誇り、自己資金で成長できた企業であったこと、SpaceXがStarlinkのような高マージン製品を通じて自己資金化し、二次売却(テンダーオファー)を実施するまでになっていることと比較し、OpenAIがまだ現金を必要としている点を強調します。OpenAIやAnthropicが5年後に独立した巨大企業として存続しているというシナリオは、まだ多くのリスクを伴うと見ています。

AIのGDPへの影響とハイパースケーラーの投資 AIが今後10年で世界のGDPに大きな影響を与える可能性については肯定的ですが、3〜5年という短期的な視点では懐疑的です。過去の技術革命がGDPに大きな影響を及ぼすまでには長い時間がかかっており、現在のAIの活用例(例:絵文字生成)が直ちにGDPを押し上げるわけではないと考えています。

一方で、Google、Microsoft、Amazonといったハイパースケーラーが2024年から2027年にかけて合計1兆ドルもの設備投資をAIに投じる計画であることにも言及します。もしAIの成果が予想よりも遅れた場合、この巨額の投資は「多大な痛み」をもたらす可能性があると警鐘を鳴らします。

Nvidiaの評価とサイクリカルリスク Nvidiaの株価についても、マイルズ氏は慎重な見方を示します。彼はNvidiaを、本質的に「サイクリカルなハードウェア事業」であると定義します。過去20年間の財務データを見ると、約3年ごとに極端な収益の落ち込みを経験しています。

もしAIバブルが弾け、Nvidiaの最大の顧客である広告主導型のハイパースケーラーが世界的な景気後退に直面した場合、Nvidiaの収益は20〜30%減少する可能性があります。これにより、利益が40%減少する可能性も考えられます。現在の株価がフォワードPER(株価収益率)38倍程度で取引されている状況で、Nvidiaが過去に経験した24倍といったPERの底値まで下落すれば、株価は70%も暴落する可能性があります。マイルズ氏は、これが将来的に起こり得ない可能性はないと見ています。

7. 投資哲学と人材論 – 本質を見抜く視点

マイルズ氏の投資哲学は、データ分析と並行して「人」という本質的な要素を深く掘り下げることにあります。

「ファウンダーフレンドリー」の真意 前述の通り、マイルズ氏は「ファウンダーフレンドリー」という言葉が過度に美化されていると考えています。彼のスポーツ経験(フットボール)は、彼に「厳しいコーチング」の価値を教えてくれました。コーチが選手を厳しく叱咤するのは、その選手の潜在能力を最大限に引き出し、成功させたいという純粋な願いがあるからです。

創業者が弱点を持つのは当然であり、VCはそれを補完し、時には厳しい対話を通じてでも軌道を修正する役割を果たすべきだと彼は主張します。このような「愛ある厳しいコーチング」こそが、企業を成長させ、最終的にファンドのパフォーマンスを向上させる鍵となります。CMUはレファレンスチェックにおいて、「ファウンダーフレンドリー」であるかどうかを重視せず、むしろ建設的な貢献ができるGPを評価します。

GPの「嘘」とLPの「盲点」 資金調達時、GPがLPに語る「嘘」の中で、マイルズ氏が最も頻繁に耳にするのが「マイルズ、このファンドサイズは私たちにとって完璧です。これ以上大きくすることはありません」という言葉です。しかし、彼の経験上、これは99.9%が「嘘」であり、ほとんどのファンドは規模を拡大し続ける傾向にあります。

LPが見落としがちなレッドフラグの一つとして、「アライメント(利害の一致)」の欠如が挙げられます。GPコミットメント(GPが自己資金をファンドに投入する額)は、このアライメントを示す重要な指標ですが、CMUは「名目上の金額」だけでなく、「その金額がその人にとってどのような意味を持つか」を重視します。つまり、GPの個人資産に対するコミットメント比率や、そのコミットメントがGPに与える経済的・精神的な影響を考慮に入れます。GPコミットメントの質は、ファンドの将来のリターンを予測する上で、ファンドサイズや過去のリターンと並んで最も重要な定量的な指標の一つだと彼は語ります。

過小評価されるエマージングマネージャー:A*のKevin Hartz 過小評価されているエマージングマネージャーとして、マイルズ氏はA*のKevin Hartz氏を挙げます。Hartz氏自身が複数回の起業経験を持ち、会社を上場させた経験を持つなど、豊富な「傷跡」を負っています。彼のチームは、UberのCOO/CFO経験者や、CO2で素晴らしいディールを手掛けた人物で構成されており、適切なファンドサイズでプレミアなアクセスを持つ「非常に強力なチーム」だと評価します。これは、今日のVC市場において希少な存在であると彼は指摘します。

ファンド投資の失敗から学ぶこと:本質は「人」 CMUが過去のファンド投資の失敗から学んだ最大の教訓は、「誰がそのファンドで実際にリターンを牽引しているのか」という「人」の要素を深く理解することの重要性です。初期の頃はデータに過度に依存していましたが、次第に定性的なレファレンスと「人」に関する情報に重きを置くようになりました。

GPが提供するアトリビューション(どのパートナーがどのディールを主導したか)は、誤解を招くことが多いため、CMUは独自のアトリビューションテーブルを構築し、レファレンスワークを通じて真の貢献者を特定します。

25歳の初めてのマネージャーと、55歳のユニコーン創業者出身のマネージャーのどちらを選ぶかという問いに対し、マイルズ氏は後者を選ぶ傾向があると答えます。これは、複数サイクルを経験し、「傷跡」を持つ人物が、変化の激しい市場でより優れた判断を下せるという信念に基づいています。

最終的に、マイルズ氏は、データ分析は不可欠ではあるものの、ベンチャー投資は「人間主導のビジネス」であると結論付けます。創業者の時間や労力を尊重しつつも、GPと創業者の関係性、GPが何を考え、なぜ特定の投資をしたのか、といった「深層」を理解することが、成功の鍵だと強調します。

8. 結論:規律と洞察が拓くベンチャー投資の未来

マイルズ・ディーフェンバック氏のCarnegie Mellon大学エンダウメントにおけるVC投資戦略と洞察は、今日のVC市場が直面する多くの課題と機会を浮き彫りにします。彼のメッセージは、データに基づいた厳格な分析、そして「人」という本質的な要素への深い理解が、長期的な成功を収める上で不可欠であることを明確に示しています。

VC市場は、依然として巨大なリターンを生み出す可能性を秘めていますが、それはごく一部のトップティアマネージャーによって牽引される、極めて集中した市場です。安易なブランド信仰や、データが示唆する現実から目を背けることは、LPにとって致命的な結果を招きかねません。

主要な洞察の再確認:

  • 規律あるアロケーションと現実的な期待: CMUのモデルは、プライベートアセットへの傾斜を維持しつつも、流動性リスクや税制といった外部要因に常に目を向け、元本維持のためのリターン目標を現実的に設定しています。
  • データに基づく厳格な評価: 多くのVCが誇るリターンが、PMEと比較して必ずしもリスクに見合わないこと、そして大規模ファンドが数学的に達成困難な目標を掲げていることを、マイルズ氏は明確なデータで示しました。
  • 「人」への深掘り: ソーシング、ピッキング、セリングといったVCの5つの柱を支えるのは、結局のところGPの能力と人間性です。徹底したレファレンスワークで、パートナーシップのリスクや真の貢献者を見極めるCMUの姿勢は、全てのLPが学ぶべき教訓です。
  • 市場のダイナミクスへの適応: 公開市場の価格是正は、VC企業にとってIPOの好機を意味します。一方で、AIバブルのリスクや、Nvidiaのようなサイクリカルビジネスの評価には慎重な見方が必要です。巨大テック企業によるM&Aは魅力的ですが、AI分野の急速な変化は新たな課題をもたらします。
  • 「厳しいコーチング」の価値: 「ファウンダーフレンドリー」という言葉の裏にある、建設的な批判と支援の重要性を理解することは、創業者とVC双方にとって不可欠です。

Carnegie Mellonエンダウメントが示す、規律と深い洞察に満ちた投資戦略は、VCエコシステムにおけるLPとGPの双方に、自己を見つめ直し、長期的な視点と本質的な価値追求に立ち返るよう促しています。技術革新の波は止まることなく押し寄せますが、その波に賢く乗り、真の価値を創造するためには、マイルズ氏のような地に足の着いた、しかし先見性のある視点こそが不可欠となるでしょう。