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プロダクト成長の秘訣:Iremboが語る、プロジェクトから複数プロダクトへの変革と「ノー」の力

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最新のテクノロジーとプロダクト開発の世界では、単に技術的に優れた製品を作るだけでは成功できません。市場のニーズを深く理解し、顧客に真の価値を提供し、そして時には顧客の要望に「ノー」と言う勇気を持つこと。これらが、持続的な成長を遂げるための鍵となります。

今回は、Mind the Productのポッドキャスト、エピソード331から、IremboのChief Product and Engineering OfficerであるPatrick Ndjientcheu氏の貴重な洞察をお届けします。Patrick氏は、彼のチームがどのようにして、単一のサービス提供から複数の製品ポートフォリオへとビジネスを転換させ、その過程で直面した課題と、それらを乗り越えるための戦略について語っています。彼の経験は、特にスタートアップや、既存のサービスモデルからプロダクト志向への移行を目指す企業にとって、示唆に富むものです。

1. Iremboの挑戦:プロジェクトからプロダクトへの転換点

Patrick Ndjientcheu氏のキャリアは、ソフトウェアエンジニアとして始まりました。しかし、彼はすぐに技術的な機能を提供すること自体が必ずしも価値に直結しないことに気づきます。初期のスタートアップでの経験を通じて、彼はプロダクト開発において「何が本当に重要なのか」という問いに向き合うようになります。

ソフトウェアエンジニアからプロダクトマネジメントへの覚醒

Patrick氏は、自身のキャリアのスタートをソフトウェアエンジニアとして振り返り、大手の通信事業者Orangeで働いていた経験を共有しています。しかし、彼のプロダクト開発への情熱は、友人と立ち上げたスタートアップでの経験を通じて開花しました。スタートアップという環境では、限られたリソースの中で、あらゆる側面に関与する必要があります。彼はソフトウェアエンジニアの枠を超え、プロダクトデザイン、ユーザーインタビュー、さらにはビジネス戦略に至るまで、幅広い領域で経験を積みました。

この過程で、彼は単に技術的な要件を実装するだけでなく、「価値を届ける」ことの重要性を痛感します。そして、Marty Caganの著書「Inspired」との出会いが、彼のキャリアの方向性を決定づける転換点となりました。この本は、プロダクトマネジメントの真髄を示し、Patrick氏に「これこそが自分がやりたいことだ」という確信を与えました。彼は、いかにして「価値あるものを定義し、それに近づくか」という問いへの答えをプロダクトマネジメントの中に見出したのです。

Irembo設立と政府サービスデジタル化の初期ミッション

Iremboは、ルワンダ政府のデジタル化を支援するテクノロジー企業としてスタートしました。彼らの最初の大きな契約は、政府サービスをオンライン化することでした。このプロジェクトは、当初「政府の要望を実装するプロジェクト」として捉えられていました。政府が「これをオンラインにしてほしい」と要求すれば、Iremboがそれに対応するという形です。

しかし、IremboのCEOは、単なるプロジェクトの遂行を超えて、持続可能な「テクノロジー組織」を構築する必要があるという洞察を持っていました。これが、Iremboがプロジェクトベースの思考からプロダクトベースの思考へと移行する最初の重要なステップとなりました。最初のプロダクトである政府向けマーケットプレイス「IremboGov」は、現在240以上の政府サービスを提供しており、ルワンダ国民の生活に不可欠な存在となっています。

2. 支払いプラットフォーム誕生秘話:サービス内部機能から独立プロダクトへ

IremboGovの開発を進める中で、チームは多くの課題に直面しました。その中でも特に重要だったのが、支払いシステムの構築でした。ルワンダ国内には、IremboGovが求める要件を満たす強力な既存の支払いプラットフォームが存在しませんでした。この課題が、Iremboの次の大きな転換点へと繋がります。

市場のギャップと自社開発の決断

既存の支払いソリューションが期待に応えられない中、Iremboは自社で支払いプラットフォームを構築するという大胆な決断を下します。政府のサービスは膨大な数のユーザーを抱えており、すべての政府の支払いがこの新しいプラットフォームを経由することになるため、市場規模は十分に大きく、この投資は正当化されました。

しかし、ここでPatrick氏のチームはさらなる洞察を得ます。「この支払いプラットフォームは、政府サービスだけでなく、他のビジネスにも価値を提供できるのではないか?」この問いが、Iremboのプロダクト戦略を大きく広げるきっかけとなりました。

支払いプロダクトを政府プロダクトの「クライアント」と位置づける戦略的転換

Iremboは、支払いシステムを単なるIremboGovの「機能」としてではなく、独立した「プロダクト」として位置づけることを決定しました。これは、IremboGov自体が、新しい支払いプロダクトの「クライアント」となることを意味します。この戦略的な転換により、支払いプロダクトはより汎用性の高いものとして開発され、後に他の政府機関や民間企業にも提供される道が開かれました。

この段階的な移行は、単一のサービス提供者から、複数のプロダクトを管理する企業へとIremboを成長させる上で極めて重要でした。プロダクトマネジメントの観点から見ると、これはコンポーネントを識別し、それを独立したビジネスユニットとして成長させるという、極めて洗練されたアプローチです。

3. スケーラビリティへの道:リクエストベースからプロダクト原則の確立

Iremboが最初の政府向けプロダクトを開発していた当初、彼らのアプローチは「リクエストベース」でした。つまり、政府から要望があれば、それに対応して機能を追加するというものです。しかし、この方法は、Iremboが成長し、より多くのサービスを提供するにつれて、スケーラビリティの限界に直面しました。

リクエストベース開発の限界とスケーラビリティの課題

Patrick氏は、「リクエストベース」の業務では、常に新しい要望に応え続けることになる、と指摘します。顧客が「これが欲しい」と言えば「はい、できます」と答え、開発するというサイクルです。しかし、このアプローチは持続可能ではありません。新たな要求が際限なく発生する中で、製品全体の一貫性や長期的なビジョンが失われかねません。Iremboは、このままでは成長を続けられないことに気づきました。

「プロダクト原則」の策定と継続的進化のフレームワーク

持続的な成長を実現するため、Iremboは「プロダクト原則」を策定しました。これは、製品開発の指針となる一連のルールや価値観です。この原則に基づき、チームは何を構築するのか、どのような価値を提供するのか、そして何をしないのか(つまり「ノー」と言うのか)を明確に定義できるようになりました。

このプロセスは、Iremboが「サービスマネジメントプラットフォーム」という、より包括的な視点で自社のプロダクトを捉え直すきっかけとなりました。政府サービスも、結局は市民に提供される「サービス」であり、そのためのフォーム、ワークフロー、支払い機能といった「ケイパビリティ」が必要であるという認識です。彼らは、これらのケイパビリティを個別の製品として開発し、再利用可能な形で提供することを目指しました。

顧客への「ノー」の哲学:ソリューションではなく問題解決に焦点を当てる

プロダクト原則の導入は、顧客との対話方法にも大きな変化をもたらしました。以前は顧客の具体的な要求(ソリューション)にそのまま応えていましたが、今はまず「その問題で何を解決したいのか?」と問い直すようになりました。

「顧客は常に新しい要求を持っています。市民も常に新しい要求を持っています。だからこそ、製品を進化させ続けるための原則を開発する必要がありました。」とPatrick氏は語ります。

例えば、顧客が特定のレポート機能が必要だと要求した場合、プロダクトチームはまずそのレポートで「どのようなビジネス上の課題を解決したいのか」を深掘りします。その結果、既存のケイパビリティを組み合わせることで、顧客の根本的な問題をより効果的に解決できる場合があります。あるいは、その問題は新しいケイパビリティとして製品に追加されるべきか、あるいは既存の機能の改善で対応可能か、といった判断が可能になります。この「ノー」の哲学は、製品の焦点を明確にし、真に価値のある機能にリソースを集中させる上で不可欠です。

4. ブランディングと価格戦略:プロダクトアイデンティティの確立

プロダクトからプロジェクトへの移行を成功させるためには、組織内の意識改革だけでなく、市場での製品のポジショニングも重要です。Iremboは、自社の支払いプロダクトを明確に差別化し、その価値を最大化するためのブランディングと価格戦略を実行しました。

支払いプロダクトのブランド再構築と視覚的差別化

Iremboの標準的なブランドカラーは青でしたが、支払いプロダクトには明確な視覚的差別化を図るため「緑」を採用しました。これは単なる色の変更ではなく、支払いプロダクトがIremboGovの機能の一部ではなく、独立した製品であるというメッセージを社内外に発信する重要な手段でした。Patrick氏は、「視覚的な違いがなければ、人々はそれが同じものだと考えがちだ」と述べています。

製品が独自のアイデンティティを持つことで、顧客もその製品の価値をより明確に認識できるようになります。また、これは社内のチームにとっても、自分たちが担当しているのが単なる「プロジェクト」ではなく、独自のビジョンと戦略を持つ「プロダクト」であるという意識を高める効果がありました。

レベニューシェアモデルと価値ベースの価格設定

Iremboの価格戦略は、レベニューシェアモデルに基づいています。これは、政府がプラットフォームを通じて行うトランザクションごとに、Iremboが一定の割合の収益を得るというものです。このモデルは、IremboGovの初期の段階で確立されました。

しかし、支払いプロダクトが独立した製品として提供されるようになったことで、Iremboは価格設定の考え方をさらに深化させました。単にサービスを提供するための費用を回収するだけでなく、製品が顧客にもたらす「価値」に基づいて価格を正当化できるよう、明確な議論を構築する必要がありました。

「価格設定は常に難しいテーマですが、私たちは提供する価値に基づいて価格を正当化するための十分な議論を持つことができました。」とPatrick氏は語ります。

これは、製品の機能や品質だけでなく、それが顧客のビジネスや生活にどのような利益をもたらすかを具体的に示すことの重要性を意味します。Iremboは、このアプローチを通じて、自社製品の価格が高すぎると感じる顧客に対して、提供している包括的な価値を理解してもらうことに成功しました。

5. モバイルファーストの未来:スーパーアプリ戦略とユーザー獲得

現代社会において、モバイルデバイスは人々の生活に深く浸透しています。Iremboは、このトレンドを認識し、モバイルアプリの開発に早期から注力してきました。彼らのモバイル戦略は、単なる既存サービスのモバイル版ではなく、「スーパーアプリ」という野心的なビジョンを掲げています。

IremboGo(モバイルアプリ)の構想と立ち上げ

IremboGovの成功に続き、Iremboはモバイルアプリ「IremboGo」の開発に着手しました。当初は、ウェブベースのIremboGovのモバイルインターフェースとして構想されましたが、Patrick氏のチームはこれをさらに発展させました。彼らは、モバイルアプリがユーザーにとって、より便利でアクセスしやすい手段となり得ることを理解していました。

しかし、政府サービスは一般的に利用頻度が高くありません。市民が月に何度も利用するようなサービスではないため、「なぜわざわざアプリをダウンロードするのか?」という問いが浮上しました。この疑問に対する答えを見つけることが、アプリの成功には不可欠でした。

ユーザー獲得のためのニッチ市場戦略(例: 車の所有者)

IremboGoの初期ユーザーとして、彼らは特に「車の所有者」に注目しました。車の所有者は、交通違反の罰金支払いなど、比較的高い頻度で政府サービスを利用する可能性が高い層です。このニッチなターゲット層に焦点を当てることで、IremboGoは初期の利用者を獲得し、アプリの価値提案を検証することができました。

さらに、Iremboはモバイルアプリを単なる政府サービスの入り口としてではなく、将来的には様々なユースケースを提供する「スーパーアプリ」として発展させるビジョンを持っています。これにより、利用頻度を高め、ユーザーの日常生活に深く根差したプラットフォームとなることを目指しています。

データに基づいた製品開発と投資判断の重要性

Patrick氏は、製品開発における仮説検証とデータ分析の重要性を繰り返し強調しています。製品に対する信念を持つことは重要ですが、最終的にはデータがその信念を裏付ける必要があります。Iremboは、製品の機能改善や新機能への投資を決定する際に、ユーザー行動データに基づいて判断を下します。

「もしデータが長期間にわたって仮説を検証しないのであれば、私たちはそのプロダクトへの投資をやめ、可能であればマーケットから削除するでしょう。」

この厳格なアプローチにより、Iremboはリソースを最も有望な製品や機能に集中させ、無駄な投資を避けることができます。モバイルアプリの成功指標は、最終的にウェブサイトよりもアプリ経由のトラフィックが多くなることであり、これはユーザーがモバイルでの体験をより好むという明確なシグナルとなります。

6. チームと文化の変革:内なるバイアスを乗り越える

プロダクト志向への移行は、単なる技術や戦略の変更にとどまらず、組織全体の文化とチームのマインドセットの変革を伴います。Iremboは、この困難なプロセスを乗り越えるために、明確な戦略と継続的な努力を払いしました。

プロジェクトチームからプロダクトチームへのマインドセットの移行

「プロジェクトが完了すれば、プロジェクトは終わりです。しかし、私たちが持っていたものに対して、政府は常に新しい要求を持ち続けました。市民も常に新しい要求を持ち続けました。そこで、プロダクトを進化させ続けるための原則を開発する必要があったのです。」

Patrick氏の言葉は、プロダクトとプロジェクトの根本的な違いを明確に示しています。プロジェクトには明確な終わりがありますが、プロダクトは常に進化し続ける生きた存在です。Iremboのチームは、このマインドセットの転換を内部で推進しました。彼らは、自分たちが構築しているものが一時的なプロジェクトではなく、継続的に価値を提供し、成長していくプロダクトであるという意識を浸透させました。

この変化は、チームの構造と役割の再定義を必要としました。彼らは、プロダクトマネジメント、プロダクトデザイン、ソフトウェアエンジニアリング、DevOps、セキュリティ、データチームなど、各機能を専門のチームとして組織し、それぞれの役割がプロダクトの成功にどのように貢献するかを明確にしました。特に、プロダクトマネージャーは、顧客の要求を単に実装するだけでなく、その背後にある問題を理解し、製品の方向性をリードする役割を担うようになりました。

外部の視点を取り入れることの重要性

組織が既存のやり方に慣れてしまうと、内なるバイアスが生じやすくなります。Iremboは、この問題を認識し、外部の視点を取り入れることを積極的に行いました。特に、プロダクトデザインの初期段階では、あえて自社製品の知識が少ないデザイナーを起用しました。

「あえてIremboGovのために作っているわけではないかのように、全体をデザインしてください」と指示することで、デザイナーは既存の制約にとらわれず、より革新的な解決策を生み出すことができました。彼らはGoogleアカウントのような一般的なデジタルサービスからインスピレーションを得て、ユーザーにとって直感的で使いやすい体験を追求しました。このアプローチにより、IremboGoアプリのユーザーインターフェースは、ウェブ版とは一線を画す、モバイルデバイスに最適化されたデザインを実現しました。

組織内の協力体制とコミュニケーションの改善

プロダクト中心の組織では、各チーム間の密接な連携が不可欠です。Iremboでは、特にプロダクトチームとセールスチーム間の協力を強化する必要がありました。以前は、セールスチームが顧客の要望をそのままプロダクトチームに伝え、実装を求めることが多かったため、プロダクトチームは受動的な立場になりがちでした。

この状況を改善するため、Iremboはセールスチームとの対話方法を変更しました。プロダクトチームは、セールスチームに対して、単に機能の説明をするのではなく、自社製品の「ケイパビリティ」が顧客のどのような問題を解決できるかを教え、その価値を伝えるトレーニングを実施しました。さらに、顧客に「ノー」と言う際のコミュニケーション方法も改善し、「このソリューションは提供できないが、その背景にある問題を解決するために別の方法がある」といった建設的な対話ができるようにしました。

このプロセスを通じて、セールスチームは顧客の要望の背後にある根本的なニーズを理解し、既存のプロダクト機能で解決できる代替案を提案できるようになりました。また、プロダクトチームも、顧客のフィードバックをより直接的に収集し、製品改善に活かすための毎週の顧客インタビューを導入しました。このような組織全体の協力体制とコミュニケーションの改善が、Iremboの製品成長を強力に後押ししています。

7. まとめと将来への展望

Iremboの旅路は、プロダクト開発における多くの普遍的な教訓を提供しています。サービス提供型のビジネスからプロダクト中心の組織へと変革する過程で、彼らが学んだことは、現代のテクノロジー企業にとって不可欠な要素です。

Iremboの成功から得られる主要な教訓の要約

Patrick氏の経験から得られる最も重要な教訓は、以下の点に集約されます。

  1. 価値提供へのフォーカス: 単なる技術的な機能の提供ではなく、顧客の具体的な問題を解決し、真の価値を提供すること。
  2. プロダクト志向への転換: プロジェクトベースの一時的な思考から脱却し、製品を継続的に進化させる「生きた存在」として捉えること。
  3. 「ノー」の力: 顧客の要求を盲目的に受け入れるのではなく、その背景にある問題を深く理解し、戦略的な判断に基づいて「ノー」と言う勇気を持つこと。
  4. ブランドアイデンティティの確立: 製品が市場で明確な地位を築くために、独自のブランドとビジョンを持つこと。
  5. データ駆動型のアプローチ: 仮説をデータで検証し、顧客の行動に基づいて製品戦略を調整すること。
  6. 組織と文化の変革: チームの役割を再定義し、社内外の協力体制を構築することで、変化に適応できる組織を築くこと。

未来のテクノロジーとプロダクト開発への示唆

Iremboの「スーパーアプリ」戦略は、今後のプロダクト開発の方向性を示すものです。単一の用途に特化したアプリではなく、多様なサービスを統合し、ユーザーの日常生活に深く根差すプラットフォームが求められるでしょう。

このビジョンを実現するためには、継続的なイノベーション、ユーザー体験の向上、そして何よりも、プロダクトを愛し、その成長に情熱を注ぐチームが不可欠です。Patrick氏の言葉は、プロダクトマネジメントの道のりが決して終わりなき旅であることを示唆しています。常に新しい問題に直面し、それを技術で解決しようとする限り、プロダクト開発は続いていくのです。

読者へのメッセージ

Iremboの物語は、大きなビジョンを持ち、困難に立ち向かい、学び続けることの重要性を私たちに教えてくれます。もしあなたがプロダクト開発のキャリアを歩んでいる、あるいはこれから歩もうとしているなら、この教訓はあなたの旅を豊かにするでしょう。顧客に耳を傾け、データを信じ、そして最も重要なこととして、情熱を持って価値を創造し続けてください。それが、真に影響力のあるプロダクトを生み出す道だからです。