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AI時代を生き抜くための「エージェンシー」の力:NotionのMax Schoeningが語る未来の働き方とプロダクトの核心

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現代のテクノロジーの世界は、AIの台頭によってかつてない変革期を迎えています。日進月歩で進化するAI技術は、私たちの働き方、ものづくりのプロセス、そして社会のあり方そのものを根本から問い直しています。このような激動の時代において、私たちに真に求められるスキルとは一体何でしょうか。そして、プロダクトを成功に導くための核心的な要素とは何でしょうか。

この深遠な問いに対し、Notionのプロダクトヘッドであるマックス・シューニング(Max Schoening)氏は、自身の豊富な経験と鋭い洞察をもって、私たちに新たな視点を提供します。Googleのプロダクトマネージャーから始まり、Herokuのデザインチーム責任者、GitHubのデザインリーダー兼エンジニア、二度の創業経験を経て、現在はNotionのプロダクトを牽引するマックス氏は、まさに「役割の融合」を体現する人物です。デザイナーがプロダクトマネージャーになり、エンジニアもまた別の役割を果たすようになる――そんな未来の兆候を、彼は長年にわたって自身のキャリアで示してきました。

本記事では、マックス氏が語るAI時代の働き方、プロダクト開発の変革、そして未来への適応方法について、彼の言葉の奥深くまで掘り下げていきます。彼の洞察は、単なる技術トレンドの解説にとどまらず、私たち自身の内なる力、すなわち「エージェンシー(主体性)」をいかに育み、変化の時代を力強く生き抜くかについての示唆に満ちています。

役職を超えた「エージェンシー」の重要性

AIが急速に進化し、かつては専門家でなければ不可能だったタスクも容易に実行できるようになった今、従来の「スキル」の定義は大きく揺らいでいます。マックス氏は、この新しい時代において、特定のスキルを持つことよりも、「エージェンシー」、すなわち「世界は変えられる」という主体的な意識を持つことの方がはるかに重要だと力説します。

彼はこう語ります。「かつては『これはスキルがないからできない』と言い訳するのが簡単でした。しかし、今や指先にスキルがあるとしても、本当に重要なのはエージェンシーです。エージェンシーは世界中で均等に分配されているとは思いません。」

このエージェンシーとは、具体的に何を意味するのでしょうか。マックス氏は、スティーブ・ジョブズの有名な言葉を引用して説明します。「ある日目覚めたら、世界はあなたよりも賢くない人々によって作られていることに気づくでしょう」。この気づきは、私たちを取り巻く環境やシステムが、決して絶対的なものではなく、人間が作り上げたものであり、したがって「変えることができる」という意識を呼び覚ますと言います。

Notionにおけるエージェンシーの具体例

マックス氏がNotionに参画した当初、チャットインターフェースのデザインはFigmaで行われていました。しかし、彼はこれを「死んだ魚を描くようなものだ」と表現します。ブレット・ビクターの「Stop drawing dead fish(死んだ魚を描くのをやめろ)」という思想に通じるこの言葉は、静的なデザインツールでは、AIの持つ「感覚」や「動き」を表現しきれないという問題意識を表しています。

そこでマックス氏らは、少数のデザイナーと共に、LLM(大規模言語モデル)に最適化された最小限のコードベースで動く「プレイグラウンド」を構築しました。これは、デザイナーがFigmaではなく、直接コードでプロトタイプを作成できる環境です。これにより、デザイナーはAIの挙動を直接「感じ」、その素材の特性を深く理解しながらデザインを進めることができるようになりました。最初はターミナルへの恐怖があったものの、やがてはチャットのように気軽なものへと変化していったと言います。

この取り組みは、単にデザイナーにコードを書かせるのが目的ではありませんでした。マックス氏は「デザイナーがプロダクションにコードをデプロイすることには全く関心がありません」と断言します。彼の真意は、「コードという媒体で考えること」をデザイナーに強制することで、彼らが「エージェントループがどのように機能するか」を深く理解することにありました。従来のソフトウェアのUIを調整する能力よりも、エージェントループの本質を理解し、それをデザインできる能力の方がはるかに価値があるというのです。この「素材のマスターになる」という考え方が、エージェンシーを育む上での核心を突いています。

高エージェンシーを持つNotionの従業員の例として、マックス氏はブライアン・レヴィン氏とエリック・リュー氏を挙げます。ブライアン氏はエンジニアリングとデザインの境界線を曖昧にするだけでなく、トップリクルーターとしても活躍し、組織が必要とする人材を自ら見つけてくるなど、与えられた役割を超えて会社に貢献しています。エリック氏は、かつて戦略ドキュメントを書いていた立場から、「スタートアップを始めたら、最初の5人に雇ってもらえるようなスキルを身につけたい」と自ら志願し、Figmaでのデザインを経て、今ではプロトタイプを直接構築するようになりました。彼らは皆、自分の役割を「あるべき姿」に変え、自ら行動を起こすことで、大きな変化を生み出しています。

エージェンシーを育む実践的な方法:「作ること」の力

では、私たちはどのようにしてこのエージェンシーを自分の中に育むことができるのでしょうか。マックス氏は、「作ること(Making)」が最も重要な要素であるとアドバイスします。

「もしあなたが何かをいじったり、作ったりするなら、あなたは創造の道を歩んでいるのです。そして、『ああ、あの椅子の作り方を学ぶのはそんなに難しくないな』とか、『ちょっといじってみようかな』と思うようになります。皮肉なことに、手料理も一種のいじりです。」

多くの人がエージェンシーと聞くと、組織の大きな歯車の中で、上司やシステムを出し抜いて自分の目標を達成するようなイメージを持つかもしれません。しかし、マックス氏が強調するのは、もっと根源的な「物事を形にする」という行為です。何かを作り、それを改善する過程で、「自分にもできる」「世界は変えられる」という内なる力が目覚めるのです。そして、その能力が高まれば、自然と周囲の人々が注目し、変化のきっかけとなるでしょう。

AIが変革するプロダクト開発の現場

AIの台頭は、プロダクト開発のあらゆる側面に深い影響を与えています。マックス氏の言葉からは、その変革がすでに現実のものとなっている様子が鮮明に浮かび上がってきます。

「最初の10%は無料」の衝撃

プロダクト開発において最も劇的な変化の一つは、アイデアの具現化にかかる初期コストの劇的な低下です。マックス氏は、「どのプロジェクトの最初の10%も今や無料だ」と表現します。

かつては、アイデアを形にするために、長大なプロダクト要件定義書(PRD)を書き、何週間もかけてプロトタイプを構築する必要がありました。しかし今や、AIの力を借りれば、アイデアの「ジャンキーなバージョン」をすぐに作り出し、デモとして提示することができます。「スタートアップの最初のバージョンを作るのに、ほとんど労力はかかりません」と彼は言います。

これにより、開発チームはより多くのパスを探索し、より早く試行錯誤できるようになりました。「10人のエージェントを送り出し、10種類の異なるものを探索させ、それが正しかったかどうかを確認する余裕ができた」という表現は、この変化を的確に捉えています。かつてGitHubで「メモではなくデモを、反応できるものを示せ」と言われていたことが、AIによってはるかに容易に実現できるようになったのです。これにより、プロダクトの初期段階から反復的な開発が組み込まれ、ウォーターフォール型開発の必要性が薄れていきます。

「味(Taste)」の復権:AI時代の新たな評価軸

AIが効率的に多くのものを生成できるようになるにつれて、何が「良いもの」なのかを見極める能力、「味(Taste)」の重要性がかつてなく高まっています。マックス氏は、この「味」について、非常にユニークな定義を与えています。

「もし味を説明しなければならないとしたら、それはあなたの頭の中に仮想マシンを走らせ、あるアイデアを与えられたときに、特定のイングループがそれを気に入るかどうかを予測できる能力です。」

これはまるで、AIモデルを訓練するかのように、自身の中に特定のターゲットユーザー(イングループ)の嗜好を学習させ、それに基づいてアイデアの良し悪しを予測する能力だというのです。この能力は、一朝一夕に身につくものではなく、反復練習(reps)とフィードバックの繰り返しによって徐々に磨かれていきます。「モデルを訓練するようなもの」という表現は、AI時代における人間の学習プロセスとAIの学習プロセスが、本質的に類似していることを示唆しています。日本刀の職人が何十年もかけて腕を磨くように、特定の領域で大量の試行錯誤を重ねることで、洗練された「味」が培われるのです。

専門性の維持と品質への挑戦

役割の融合が進む一方で、マックス氏は「専門家」が失われる可能性について警鐘を鳴らします。彼はソフトウェア開発を物理的な比喩で説明します。3Dプリンターで作られたプロトタイプと、工場で1億人、10億人のために最適化された製造プロセスを経た製品では、その品質と信頼性が全く異なります。ソフトウェアの世界でも、AIが容易にプロトタイプを生成できるようになったとしても、1億人、10億人のユーザーに安定して高品質なサービスを提供するための「エンジニアリング」は、専門的な知見と努力が不可欠です。

同様に、デザインの領域でも、AIが簡単に使えるUIを生成できるようになったとしても、「デライトとクラフト(Delight and Craft)」、すなわちユーザーを感動させ、心に響くような洗練された体験を生み出すための専門性は失われるべきではありません。役割の融合のメリットを享受しつつも、各分野の専門家が持つ深い洞察と技術を失わないよう、意識的に努力する必要があるのです。

また、マックス氏はAIによって生成されるソフトウェアの「品質」についても懸念を示します。「この12ヶ月でソフトウェアの品質がそれほど向上したとは思えません。量は増えたかもしれませんが、信頼できるソフトウェアを見つけるのは非常に困難です。」AIが大量のコードや機能を生成する一方で、その信頼性や安定性が追いついていない現状を指摘し、産業全体として「Appleのような、機械加工されたユニボディアルミニウムのようなエンジニアリング」に戻る必要があると語ります。

オートメーションとオーグメンテーションの未来

AIの活用は「オートメーション(自動化)」と「オーグメンテーション(拡張)」の二つの道筋に分岐するとマックス氏は考えます。特に、推論速度の向上は、この分岐点において重要な役割を果たすと指摘します。

現在のAIモデルは、推論に時間がかかる場合が多く、ユーザーは複数のタスクを並行して行いながら、AIの応答を待つという「狂乱的なマルチタスク」状態に陥りがちです。しかし、もし推論速度が瞬時に近くなれば、話は変わります。「もし推論が瞬時になるなら、私たちは直接操作に戻るでしょうか?コードという粘土を瞬時に形作れるようになるでしょうか?」

マックス氏は、この状況を「網膜ディスプレイ」の比喩で説明します。ピクセルが見えなくなったら、それ以上小さくする必要はありません。同様に、AIの知能もある一定のレベルに達すれば、それ以上の「絶対的な知能」は多くの認知タスクにおいて不要になるかもしれません。その代わりに求められるのは、「十分な知能」と「速さ」、そして「異なるモダリティ(操作様式)」の最適化です。

彼は、ラボが「常に最も賢いモデルを人々が欲しがる」という前提で動いていることに疑問を呈します。癌研究のような特定のドメインでは最高の知能が必要かもしれませんが、多くの知識労働タスクにおいては「十分なレベル」で事足りるのです。マックス氏が関心を抱くのは、「ゴッド・イン・ア・ボックス」としてのAIではなく、人間の能力を拡張する「エキソスケルトン(外骨格)」としてのAIの可能性です。

ユーザー中心の「マリアブルなソフトウェア」へ

マックス氏が長年提唱してきた概念に、「マリアブルなソフトウェア(Malleable Software)」があります。これは、ソフトウェアがそれを作る企業側の利益よりも、それを使う人々の利益に密接に寄り添うべきだという思想です。

彼は問いかけます。「想像してみてください、もしあなたが自分のリビングルームを自由に模様替えできず、キッチンも誰かが決めた通りの配置でなければならない環境に住んでいたら、それを許容しますか?」。しかし、これが現在のソフトウェアの世界だと彼は指摘します。私たちはスマートフォン上の小さな四角いアプリの世界に閉じ込められ、UI、データ所有権など、全てのレイヤーが固定化されています。特定のアプリが素晴らしいと感じても、「ほんの少しだけ」挙動を変えたいと思っても、通常それは不可能です。

その一方で、自分でLinuxディストリビューションを構築するような極端な選択肢もあります。しかし、これはこれで手間がかかりすぎます。ユーザーが本当に求めているのは、自分のコンピューティングライフに対する「所有権」であり、ゼロから全てを構築するのではなく、既存のツールを自分のニーズに合わせて「変形」させられる柔軟性です。

AIの登場は、このマリアブルなソフトウェアへの意識を急速に高めています。多くの人々が、AIツールを使って自分だけのカスタムツールを簡単に作れるようになり、「自分にもツールが作れる」という気づきを得ています。これはまさにマリアブルなソフトウェアの一形態であり、マックス氏は、これが「プラットフォームやオペレーティングシステムがマリアビリティを促進する」ことによって、さらに加速すると見ています。Notionが「接続されたワークスペース」として、エージェントが自由にデータを行き来できる環境を提供しているのは、このマリアブルなソフトウェアの理念に通じるものがあります。

このマリアビリティの思想は、有名なデザイナーであるディーター・ラムズの哲学とも深く結びついています。マックス氏が自身のTwitterプロフィールにピン留めしているラムズ氏の動画では、彼は有名デザイナーが作ったとされる椅子を次々と批評し、「これは座るためのものではない」「有用ではない」と一蹴します。マックス氏は、デザインはまず「有用であること」が第一であり、その有用性を測る良い方法は、「それを変更したり、調整したりできるかどうか」だと語ります。ユーザーが自分のニーズに合わせてソフトウェアを「いじれる」ことこそが、真の有用性につながるというわけです。

「SASの黙示録」は本当に来るのか?

AI時代の到来とともに、「SASの黙示録」、すなわち従来のSaaS(Software as a Service)ツールは不要になり、人々は自分たちでツールを構築するようになるという議論が活発になっています。マックス氏は、この見方に対し、冷静かつ現実的な反論を唱えます。

彼は、2010年代に構築された多くのSaaSが「スプレッドシートの豪華なフォーム版」であったことは認めつつも、「as a Service」という部分の本質的な価値は変わらないと強調します。「ほとんどの人は、ソフトウェアのフルスタックを維持したいわけではありません」。ユーザーがSaaSに支払っているのは、単なる機能ではなく、「メンテナンス」と、特定の課題に特化した「専門家の知見」に対してなのです。

マックス氏は、この点を庭の手入れに例えます。「ソフトウェアは庭のようなものです。手入れが必要です」。SaaSプロバイダーは、その手入れを代行し、常に最新の状態を保ち、セキュリティやスケーラビリティの問題に対応する専門家集団を提供しています。Anthropicのような最先端のAI研究企業でさえ、社内コミュニケーションにSlackを使い、自社で代替ツールを構築しようとはしません。彼らの時間は、Slackの代替を構築するよりも、AGI(汎用人工知能)の構築に費やされるべきだからです。Workdayのような複雑な人事管理システムも同様です。誰もが自社でそのようなツールを再構築したいとは思いません。

マックス氏の予測では、AIの進化により、ツールは「より汎用的に」なる可能性があります。Word Processor、Spreadsheet、FileMaker Proのような、90年代の汎用ツールに回帰する動きがあるかもしれません。Notion AIがNotionの利用を劇的に容易にし、かつてはハードルが高かったNotionをより多くの人にとって「使えるツール」に変えたように、AIは既存の汎用SaaSのアクセシビリティを高めます。しかし、これらの汎用ツールも、依然として「as a Service」として提供されるでしょう。

さらに、ワークOS(Work OS)のような「エンタープライズ機能のStripe」とでも呼べるようなサービスは、SaaS企業がシングルサインオン、SCIM、RBAC、監査ログなどのエンタープライズ顧客に必須の機能を手間なく統合できるようにすることで、SaaSエコシステム全体の基盤を強化しています。これは、SaaSの価値がより専門化されたレイヤーへとシフトしていることを示唆しています。

マックス氏は、クラウド戦争の歴史を例に挙げ、ビジネスは特定のプロバイダーへのロックインを嫌い、常に「選択肢」を求めると指摘します。Herokuがオペレーションチームを代替しようとしたのに対し、Kubernetesはオペレーションチームを「スーパーヒーロー」に変え、同時にクラウドの選択肢を提供したことで成功しました。この教訓は、AI時代においても、ユーザーに真の価値を提供し、選択肢を尊重するSaaSが生き残ることを示唆しています。したがって、「SASの黙示録」は大きく誇張されており、SaaSは形を変えながらも、その価値を維持し続けるでしょう。

成功するプロダクトの「小さな核心」を見極める

プロダクトを成功に導くために何が重要かという問いに対し、マックス氏は「さらに一つ機能を追加すれば、ついに素晴らしいものになる」という考えが、最大の落とし穴だと警鐘を鳴らします。多くの企業が陥りがちなこの「機能追加のスパイラル」は、プロダクトを肥大化させ、かえってその価値を損ねてしまいます。

彼が強調するのは、真に偉大なプロダクトは「たった一つの小さなコア」が超絶的に優れているという点です。その「小さなスーパーパワー」こそが、プロダクトを成功に導く核心的な要素だとマックス氏は語ります。

具体的な例を挙げてみましょう。

  • iPhone: 「マルチタッチ」という直感的な操作方法が、スマートフォン体験を根本から変えました。
  • GitHub: 「プルリクエスト(Pull Request)」という仕組みが、オープンソース開発における共同作業のあり方を革命的に変え、あらゆる開発者が貢献できる文化を生み出しました。
  • Notion: 「ブロック」と「スラッシュコマンド」というシンプルな概念が、あらゆるコンテンツを柔軟に構築・整理できる汎用的なワークスペースを実現しました。
  • Figma: 「リアルタイムコラボレーション」のシームレスな統合が、デザインプロセスを劇的に効率化しました。
  • Heroku:git push heroku master」というシンプルなコマンド一つで、開発者が煩雑なデプロイ作業から解放され、コードを書くことに集中できる体験を提供しました。
  • Dropbox: 「小さなメニューバーのアイコン」が提供する完璧なファイル同期機能が、ユーザーのファイルを常に手元に置いておくという体験を確立しました。
  • Snapchat: 「消える写真」というユニークな概念が、若者を中心に爆発的な人気を博しました。

これらのプロダクトは、多くの機能を持つかもしれませんが、その成功の根底には、ユーザーの特定の課題を驚くほどシンプルかつ強力に解決する「たった一つの核心」がありました。そのコアが強力であれば、たとえ他の部分が未熟であったとしても、ユーザーはそれを使う理由を見出すのです。マックス氏が、かつてNotionの競合プロダクトを開発していた際、編集体験の洗練に多くの時間を費やしたにもかかわらず、Notionの初期エディターが「ひどかった」にも関わらず成功したのは、Notionの「ブロック」というコアが持つ潜在能力が圧倒的だったからだと振り返ります。

また、マックス氏は「最初であること」の重要性を過大評価すべきではないとも指摘します。「正しいこと」が重要であり、必ずしも最初に市場に出る必要はないという考えです。Bluetoothヘッドホンが既に存在した後にAirPodsが登場し、その洗練された接続体験で市場を席巻したように、重要なのは革新的なアイデアを「正しく」実装し、ユーザーに真の価値を提供することなのです。

プロダクト思考の再定義:Jobs to be Doneと現実の直視

マックス氏は、プロダクト開発における思考フレームワークとして、「Jobs to be Done(JTBD)」の有用性を肯定します。このフレームワークは、ユーザーがプロダクトを「雇う(hire)」目的を、より全体的かつ本質的に理解することを促します。

彼がJTBDを好む主な理由は、「ユーザーが何を求めているのか」について、開発者や企業が「ユーザーに何を求めてほしいのか」という願望ではなく、「ユーザーが実際に何を求めているのか」という事実に正直に向き合うことを促すからです。

特に大規模な組織では、従業員が自身の開発したプロダクトをレビューする際に、ユーザーとしての視点を忘れ、「この会社の一員として、何かを作った」という視点に陥りがちです。JTBDは、そのような状況において、「あなたを雇うユーザーにとって、このプロダクトは良い体験なのか?」「あなたはこれを自分で買うのか?」と問い直すことで、開発者やプロダクトマネージャーに一歩引いて全体像を俯瞰させ、ユーザーの現実的なニーズに立ち返ることを促す強力なリマインダーとなります。

マックス氏は、新機能のランディングページ作成の例を挙げます。開発チームがマーケティング用語で飾り立てた説明文を作成する際、彼は「友人に説明するときのように、ホワイトボードに何かを描くように、本質的な部分を伝えられるか?」と問いかけます。往々にして、その結果は、飾り立てられたランディングページとは全く異なる、シンプルで明快な説明になるでしょう。この「ズームアウト」の視点こそが、JTBDがプロダクト開発者にもたらす真の価値なのです。

AI時代の普遍的ベーシックインカムと人生哲学

マックス氏の洞察は、テクノロジーの領域にとどまらず、社会の未来、そして個人の人生哲学にまで及びます。特に彼の「普遍的ベーシックインカム(UBI)」に関するホットテイクは、多くの議論を呼ぶかもしれません。

AIの進化により、将来的に多くの仕事が自動化され、人間は労働から解放されるかもしれないという予測から、UBIの導入が現実的な議論として浮上しています。しかし、マックス氏はこう語ります。「私たちはすでに普遍的ベーシックインカムを持っています。それは知識労働(Knowledge Work)です。」

この言葉の裏には、「人間が生きるために本当に必要なもの」と、現代社会が「絶対に必要だ」と定義しているものの間には、大きなギャップがあるという彼の認識があります。私たちは、本来ならばもっと少ないもので満足できるはずなのに、複雑な社会システムや階層の中で、多くの「知識労働」を「必要不可欠なもの」として作り上げてきました。マックス氏は、自身の仕事でさえも、この「知識労働としてのUBI」の範疇にあると述べます。

彼のこの見方は、人間の本質に対する深い洞察に基づいています。人間は、たとえAIがほとんどの仕事を代替するようになったとしても、常に「何か」を見つけ出し、自分自身をそのループに挿入する存在だというのです。AGIが存在し、働く必要がなくなったとしても、マックス氏は「全く同じことをするだろう」と語ります。彼は、自身のコーディングが「知的挑戦」であり、チェスや囲碁をプレイするような喜びを感じると言います。人間は、単に生存するためだけでなく、創造し、探求し、世界を変えることに喜びを見出す存在なのです。

シリコンバレーの焦燥感への警鐘

マックス氏はまた、現在のシリコンバレーに蔓延する「焦燥感」や「フレンジー」に対して警鐘を鳴らします。「今、シリコンバレーは、珍しくコンピューターを愛していない人々で溢れている」と彼は指摘します。これは、単にお金を稼ぐことや、「この列車に乗り遅れたら二度と追いつけない」という恐怖心が、人々の行動を支配している現状を指しています。

彼は、そのような短期的な視点や不安に囚われず、自分が本当に情熱を傾けられること、心から大切にできることを見つけることの重要性を説きます。もちろん、ハードワークは重要ですが、それは不安から来るのではなく、情熱から来るものであるべきだというのです。そして、歴史を学び、コンピュータ科学の歴史を学ぶことで、変化のサイクルが繰り返されることに気づき、過度な不安から解放されると示唆します。

「排他的であること」の肯定

興味深いことに、マックス氏は「排他的であること」が必ずしも悪いことではないという、ある意味で反直感的な見解も示します。Notionが全世界の80億人に使われるプロダクトを目指せば、その過程で、現在のコアユーザーである5億人の「トップ・オブ・ザ・クラス」を不満にさせてしまう可能性があると彼は指摘します。

「時に排他的であることは良いことです。私が言いたいのは、最高の製品を作るためには、トップ・オブ・ザ・クラスの人々と共に、彼らのために働くことも有効だということです。それは定義上、他の人々を排除することになります。」

これは、全てのユーザーに広く浅くリーチするよりも、特定の、そして往々にして最も要求が厳しく影響力のあるユーザー層のために、真に深く、質の高いプロダクトを作ることに焦点を当てるべきだという考えです。その結果、そのプロダクトは、そのユーザー層にとって唯一無二の価値を提供し、深く愛されるものとなるでしょう。これは、TechCrunchの創業者であるマイケル・アーリントンが語った、少数の熱心なリスナーを持つポッドキャストが大きな影響力を持つという話にも通じます。真の価値は、量だけでは測れないのです。

人生を豊かにする哲学:「宇宙は変化であり、人生はあなたが作るものだ」

マックス氏が自らに言い聞かせ、他者にも勧める人生のモットーは、マルクス・アウレリウスの言葉とされる「宇宙は変化であり、人生はあなたが作るものだ」です。私たちは「確実性」にしがみつきがちですが、世界に確実なものなどありません。その現実を受け入れ、今この瞬間を生きること、そして自らの手で人生を形作っていくことの重要性を説きます。

結び

NotionのMax Schoening氏が語るAI時代の洞察は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。AIが技術の障壁を取り払い、より多くの「量」を生み出す中で、人間には「エージェンシー」を発揮し、「味」を見極め、「本質的な価値」を追求する能力がより強く求められるでしょう。

プロダクト開発においては、たった一つの「小さな核心」を見つけ出し、それを徹底的に磨き上げることが成功の鍵となります。そして、ソフトウェアは、企業側の都合ではなく、ユーザーの手に「所有権」が戻る「マリアブルな」存在へと進化していくべきです。

AIが私たちの生活と労働に深く浸透する未来において、私たちは自らの内なる力を信じ、「作ること」を通じてエージェンシーを育み、目の前の現象に一喜一憂するのではなく、歴史と哲学から学び、長期的な視点を持つことが重要です。マックス氏の言葉は、単なる技術トレンドの予測を超え、人間としてどう生きるべきか、どうすればこの変化の時代を豊かに生き抜けるかという、普遍的な問いへの答えを示しています。

このAI時代を、傍観者としてではなく、自らの手で未来を創造する主体者として生きる。そのために、今日から一歩踏み出し、身の回りのものを「変えられる」という可能性を信じ、行動を開始してみてはいかがでしょうか。