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AI時代に100万ドルのスタートアップが「構築に値しなかった」衝撃の真実:Townの挑戦と未来

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現代のテクノロジー業界において、AIはあらゆるビジネスモデルを再定義し、既存の価値観を根底から揺るがしています。その激動の時代において、あるスタートアップが、年間100万ドル規模の収益が見込める「優れたビジネス」をあえて捨て去り、全く新しい方向へと舵を切るという大胆な決断を下しました。その企業の名は「Town」。この決断の背景には、AIがもたらすビジネスの根本的な変革、そして未来の価値創造に対する深い洞察がありました。

本記事では、ベンチャーキャピタル業界の著名人であるアンドリーセン・ホロウィッツのパートナー、アレックス・ランペル氏と、TownのCEO兼ファウンダーであるジャン・デニス氏の対談を通じて、AI時代におけるスタートアップ戦略の真髄に迫ります。なぜデニス氏がPlaidのCTOという輝かしいキャリアを捨てて起業し、初期の税務ツール事業から現在のAIアシスタントへとピボットしたのか。そのプロセスから、AI時代のビジネスモデル、競争戦略、そして将来展望について、詳細かつ多角的に分析していきます。

第一章:AI以前の「優れたビジネス」の限界 – 税務ツールの挑戦と挫折

ジャン・デニス氏がPlaidのCTOという要職を辞して起業した際、彼が選んだ最初の挑戦は「中小企業向けの税務ツール」でした。この選択は、周囲からは驚きをもって迎えられ、アレックス・ランペル氏自身も、当初は期待外れだと感じたと言います。しかし、デニス氏にはこの分野に深い合理性を見出していました。

1.1 税務領域がAIに「理にかなっていた」理由

デニス氏は、Plaidでの経験を通じて、B2Bの視点からAIがプロダクト体験を根本から変革できる市場を探していました。その中で、税務という分野はいくつかの点でAI、特に大規模言語モデル(LLM)との相性が非常に良いと考えられました。

第一に、税務には膨大な量のテキスト情報が伴います。財務諸表、賃貸借契約書、経費明細、領収書など、企業の税務申告に必要な書類はテキストベースであり、LLMはこうしたテキストデータの処理に非常に長けています。自然言語を理解し、要約し、関連情報を抽出する能力は、税務書類の分析において極めて有効です。

第二に、これらの入力データの多くは「構造化されている」という特徴があります。個人の確定申告とは異なり、法人の税務申告では、貸借対照表や損益計算書といった定型フォーマットのデータが多く存在します。LLMが構造化データと非構造化データを組み合わせて処理できる能力は、法人税申告プロセスを自動化する上で大きな強みとなると直感したのです。デニス氏のチームは、技術的なデューデリジェンスを通じて、今後2年以内に中小企業が財務データや事業関連書類から確定申告書を作成するプロセスをAIで自動化できると確信しました。

1.2 技術的成功と市場投入の壁:なぜ「AI以前の優れたビジネス」だったのか

デニス氏のチームは1年間を費やし、AIを活用した税務ツールの開発に取り組みました。プロダクトは技術的には機能し、中小企業の税務申告を効率化できる可能性を秘めていました。しかし、そこで彼らは市場投入(Go-to-Market)における予想以上の課題に直面します。

(1)利用頻度の低さという根本的な問題 税務サービスは、本質的に「年に一度」しか売ることができません。確定申告のプロセスは年に一度発生するため、ユーザーが製品と日常的に関わる機会が極めて限定されます。これは、現代のSaaSビジネスにおいて重視されるDAU(Daily Active User)やMAU(Monthly Active User)といった指標の向上を著しく困難にします。デニス氏が指摘するように、「これはそもそも日常的に利用されるツール(DAUツール)にはなり得ない」のです。たとえ製品が素晴らしくても、年に一度しか触れられないのでは、ユーザーの習慣に深く根付かせることはできません。

(2)口コミ効果の欠如 年に一度の利用頻度は、口コミの広がりにも悪影響を及ぼします。人々は日常的に使って「人生が変わった」と実感するような製品について話したがりますが、税務の準備状況について自慢する人は稀です。また、仮に誰かが税務処理の快適さを話したとしても、それが他の人が新しい税理士や会計士を探しているタイミングと一致することはほとんどありません。結果として、ポジティブな体験は翌年には忘れられてしまい、持続的なネットワーク効果を生み出すことができませんでした。デニス氏は、エドテック(教育技術)企業の友人の例を挙げ、年に二度しか販売機会がないことが急速な拡大を制限すると語っていますが、税務はそれ以上に機会が限定されます。

(3)既存企業との競争:時間との戦い 新規参入者としてのスタートアップの強みは、そのスピードと革新性、そして既存企業とは異なる市場投入アプローチにあります。しかし、税務という既存産業には、既に強固な販路と顧客基盤を持つ大手企業が存在します。デニス氏は、「壁には時計がかけられている」と表現し、既存企業がこの新しいAI技術を使って既存顧客向けの税務処理を自動化してしまう前に、どれだけ早く市場シェアを獲得できるかという時間的プレッシャーを感じていました。年に一度の販売機会では、既存企業の販路の強みに打ち勝ち、何億ドルもの収益を上げるほどの速度で拡大することは不可能だと判断したのです。

(4)「AI以前の優れたビジネス」の定義 これらの課題を踏まえ、デニス氏は1年間の開発の後、自分たちの事業が「AI以前の優れたビジネス」であると結論付けました。つまり、初年度に100万ドル弱の収益、2年目には250万〜300万ドルへの成長が見込めるような、従来の評価基準では十分成功とみなされるビジネスモデルではありました。しかし、AIが登場し、その変革の可能性が明らかになった後では、この事業が「ベンチャー規模の企業」に成長することはないと確信したのです。AIがもたらす劇的な効率化と競争環境の変化は、既存の「良いビジネス」の定義そのものを覆すものでした。

1.3 創業者としての苦悩とピボットの決断

この結論に至るまでのプロセスは、創業者にとって非常に苦しいものでした。事業は「うまくいっていないわけではなかった」ため、普通であればピボットという大胆な選択はしないでしょう。しかし、デニス氏には二つの重要な動機がありました。

第一に、「世界に影響を与えたい」という強い使命感です。何百万人もの人々に価値を届け、世の中をより良くしたいという創業者の根源的な願いがありました。現在の税務ツールでは、その目標を達成するのに十分な速度で拡大できないと判断しました。

第二に、チームへの責任です。優秀なメンバーは、もっと有名な企業やシリコンバレーの素晴らしい企業で働く機会を犠牲にして、Townに参加していました。彼らの目を見て、この事業が目指すような素晴らしい成果を出せると信じられなくなった時、デニス氏は真剣に自問自答せざるを得ませんでした。資金が尽きる前に、あるいはチームの士気が低下する前に、正しい決断を下す必要がありました。

さらに、税務が年次業務であるという特性も、決断のタイミングに大きな影響を与えました。確定申告の時期に方針転換することは不可能であり、新たな顧客との契約が始まる前に決断しなければなりませんでした。この時間的な制約が、かえって効率的な決断を促したとデニス氏は振り返っています。

こうしてデニス氏と共同創業者たちは、1年間の開発期間を経て、自分たちの最初の事業を終了し、新たな可能性を求めてピボットするという、極めて勇気ある決断を下しました。この経験は、AI時代において、単に「良いプロダクト」を作るだけでは不十分であり、市場の根本的な変化とスケールアップの可能性を常に問い直すことの重要性を示しています。

第二章:転換点 – 日常業務に潜むAIの真の価値

税務ツールの挫折を経て、ジャン・デニス氏のチームは新たな問いに向き合いました。「なぜ誰もメールとカレンダーで機能する優れたAIを作らなかったのか?」この問いこそが、現在のTownのプロダクトの原点となります。

2.1 ナレッジワーカーの非効率な日常とAIの着眼点

税務製品を開発していた際、多くの顧客から「税務の自動化は素晴らしいが、顧客との打ち合わせの調整にも時間を取られている」「会議に行っても、そもそも何のための会議だったか忘れてしまう」「クライアントからいつも同じ税務の質問ばかりされる」といった声が寄せられました。

これらの声は、決して複雑な作業ではないにもかかわらず、ナレッジワーカーの日常的な業務フローに潜む非効率性を浮き彫りにしました。会議の準備や結果の整理、頻繁にやり取りする単純なメールへの返信、一日のための備えなど、これらは「ナレッジワーカーのありふれたワークフロー」でありながら、優れたAIによる支援がほとんど存在していなかったのです。

この洞察は、AIが単に複雑な計算やデータ処理を行うだけでなく、人間の日常的な、一見些細に見えるが積み重なると膨大な時間と労力を要するタスクを効率化する上で、計り知れない価値を持つことを示唆していました。

2.2 Opus45とプロダクトマーケットフィット:魔法のような瞬間

この時期、AIの技術も急速に進化していました。特に「Opus45」の登場は、AIエージェントが少なくともコーディングの分野で自律的な作業をこなせるようになる可能性を示していました。この技術の進化と、ナレッジワーカーの日常業務における非効率性というシンプルな洞察が組み合わさることで、Townは非常に短期間でプロダクトマーケットフィット(PMF)を達成することができました。

デニス氏はPMFを「本当に魔法のようなもの」と表現しています。一度PMFに到達すると、ユーザーからのものすごい引き合いが生まれ、その勢いに乗って全力で市場を学び、チャンスを見極めることに集中できたと言います。彼らは、TAM(獲得可能な最大市場規模)がどれくらいか、誰もがこれをやりたがるだろうか、といった問いに立ち止まることなく、ひたすらプロダクトの改善に邁進しました。

2.3 「ほとんどのビジネスはメールとカレンダーで動いている」という洞察

プロダクトを進める中で、チームはさらに深い洞察を得ました。それは「結局のところ、ほとんどのビジネスはメールとカレンダーで動いているんだ」というものです。特に営業、事業開発、採用など、社外とやり取りする業務においては、企業間の連携手段のほとんどがメールです。

この洞察は、Townが狙うTAMが米国だけでなく、世界中のあらゆるビジネスに及ぶ、非常に広大なものであることを示していました。顧客が製品のどこを気に入っているかを教えてくれるようになるにつれて、彼らが求めている課題解決には深みがあることにも気づかされました。単にメールにLLMを接続すればいいというほど単純な話ではなく、体験をより良くするためには多くの要素が必要になること、そして十分な複雑性があるため深く掘り下げれば素晴らしい製品体験が作れると確信しました。

彼らは昨年12月から4月にかけて、毎日ひたすら製品の改善を続け、1%から1.5%ずつ成長していきました。顧客からの要望は絶えず、ロードマップも非常に明確だったため、クローズドベータ版を終了し、製品を世に送り出す準備ができたと感じるまでになりました。

2.4 PLG戦略とエンタープライズへの道:BlackBerryとiPhoneの教訓

Townがプロダクトマーケットフィットを達成した後、彼らが取った戦略もまた大胆でした。それは、プロダクト主導型成長(PLG)に注力し、最初はCISO(最高情報セキュリティ責任者)やIT企業の要件を満たすことよりも、世界クラスの製品体験を作ることに集中するというものです。

デニス氏と共同創業者はDropboxでの経験から、「素晴らしい製品体験を構築し、そこからいかにエンタープライズ向けに展開するか」という教訓を学んでいました。コンプライアンスやIT企業の要件を基準にして、そこから素晴らしい製品体験を構築しようとするのは、ほぼ不可能に近いと感じていたのです。

この戦略は、アレックス・ランペル氏がBlackBerryとiPhoneの対比で説明した歴史的な転換点と重なります。2007年にiPhoneが登場した際、MicrosoftのCEOだったスティーブ・バルマーは「800ドルの電話なんて誰も買わない」と酷評しましたが、結局iPhoneは世界を変えました。なぜなら、各社のCEOがプライベートでiPhoneを体験し、「なんてこった、これはすごい」となり、やがて「これを何とかしてうちで使えるようにしろ」と会社に要求するようになったからです。

AIにおいても同様の状況が起こるとTownは予測しています。消費者のAIに対する期待は高まっており、コンシューマーレベルの体験が求められる時代が到来しています。CIOやCEOが個人的な環境でAIの魔法を体験し、「この素晴らしいパーソナルアシスタントを会社でも使いたい」と考えるようになるでしょう。

だからこそ、企業向けでありながら消費者向けのように感じられる体験を提供できる企業こそが、勝者となるとTownは考えています。彼らは、製品体験を磨き上げ、データセキュリティやプライバシーといった企業向けの基盤をしっかりしていれば、管理機能の最適化は後からいくらでも調整できるという仮説に基づいて行動しました。

2.5 「人間の速度」から「AIの速度」へ:AI導入の段階的アプローチ

しかし、AIの企業導入はiPhoneの普及よりも複雑です。なぜなら、エージェントはビジネスを動かすデータやAPIにアクセスできるほど、より効果的に機能するからです。安全かつプライバシーを保護した方法でそれらにアクセスできれば、彼らは多くのことを代行してくれますが、そうでなければエージェントの知能はその真価を発揮できません。

Townの考える道のりは、まずどの企業でも、メールとカレンダーを連携させるだけで、数人の利用者に使い始めてもらうことです。まだ中核となる記録システムには手を付けず、「おっ、これは自分の仕事に大きな価値をもたらすぞ」という魔法を実感してもらうのです。

外部対応の役割において、カレンダーとメールは仕事の一部を自動化するための洞察を得る宝庫です。AIアシスタントが「会議の準備をお手伝いできます」と提案し、会議資料のデザイン調整や最新情報の更新まで可能にするだけで、人々は魔法を感じ始めます。その時、彼らは自問するでしょう。「CRMの接続をお願いしてもいいだろうか」「IT部門に頼んで、他のあらゆるツールを接続してもらう権利を、私は得ただろうか」と。

この道のりは、人間が適応する「人間の速度」に近いものになるでしょう。企業は、監査ログ、機密情報がエージェントと共有されないような体制、CFOのためのコスト管理など、様々な側面で適応していく必要があります。

Townは、製品体験やセルフサービス型の成長という点ではSMB(中小企業)市場やミッドマーケットに注力し、セキュリティ、コンプライアンス、財務機能といった面では大企業に注力するという戦略を取っています。これにより、この分野のあらゆる領域をカバーし、AIが企業に浸透するプロセスを加速させることを目指しています。

第三章:ジェヴォンズのパラドックスとAIアシスタントの可能性

AIアシスタントの概念は、従来の「アシスタント」の枠を超え、市場を劇的に拡大させる可能性を秘めています。この現象を理解する上で重要なのが、「ジェヴォンズのパラドックス」です。

3.1 「アシスタント」市場の再定義とジェヴォンズのパラドックス

アレックス・ランペル氏は、自身がエグゼクティブ・アシスタントを雇っている経験から、人間のアシスタントには「自分のメールをすべて読ませたくない」というプライバシー上の制約があることを指摘します。しかし、AIであればその制約が緩和され、より深く日常業務に入り込むことが可能になります。

従来の「エグゼクティブ・アシスタント」市場は、ほとんどの人が雇う余裕がないため、比較的小さいものでした。しかし、もしそれをシリコンチップ、つまりAIで実現できるなら、その市場は非常に大きくなります。AIアシスタントに「常にメールを読み込ませる」といった、人間には決してさせないようなことでも、ユーザーは平気でAIにやらせるようになるでしょう。これは、プライバシーに関する「ジェヴォンズのパラドックス」のような二重の意味を持っているとランペル氏は語ります。

「ジェヴォンズのパラドックス」とは、蒸気機関の効率が向上したことで、石炭の消費量が減るどころか、その安価で効率的な利用が可能になったことで、かえって需要が爆発的に増加した現象を指します。AIアシスタントも同様に、タスクを効率化し、コストを劇的に下げることで、これまで不可能だった、あるいは価値がないと思われていたタスクへの需要が千倍にも膨れ上がる可能性があります。

3.2 「トークン割り当てマシン」としてのTown:新たな価値の発見

ジャン・デニス氏は、Townを「人々がより良い仕事をするためにAIを活用できる機会を、共に探し出す製品」であり、ある意味で「トークン割り当てマシン」だと表現します。これは、AIが生成する「トークン」が安価になるにつれ、これまで高すぎて使えなかった場所や、人間には頼まなかったような場所でもトークンを活用できるようになるという発想に基づいています。

Townの仕事は、人間がトークンをどこに適用できるかという選択肢を提示し、その結果が必要かどうかを人間が選べるようにすることです。具体的な例を挙げると:

  • 会議の準備メモの自動生成: 秘書がいたとしても、30分ごとの会議すべてに完璧な準備メモを作成する時間を費やすことはありません。しかし、LLMなら1セント程度でそれができてしまいます。そうなれば、突然、誰でも会議のたびに準備メモを用意できるようになります。他の出席者の調査や、彼らが過去1週間にSNSで会議に関連する発言をしていないかの確認といった「ロングテールの調査」も、費用が大幅に下がったことでやる価値が出てくるのです。
  • レストランオーナーの事例: デニス氏は、アメリカでレストランを経営する小規模事業者の例を挙げます。彼らは月に一度、食材の卸売業者から価格リストが記載されたExcelやPDFファイルを受け取ります。何千、あるいは1万点もの品目があり、価格は常に変動しています。本来であれば、経理担当者が四半期ごとに価格変動をチェックし、別の卸売業者からの仕入れや、価格高騰によるメニュー削除などを検討すべきですが、これは面倒な作業であり、ほとんど行われていません。

Townを使えば、たった5分のプロンプト作成で、月に一度自動で分析を行うシステムを構築できてしまいます。もし12ヶ月のうち11ヶ月は何の成果も出なかったとしても、このツールの利用料は月々たった1ドル程度です。しかし、年に一度でも成果が出れば、何百ドル、あるいは何千ドルもの節約になる可能性があります。これにより、「やる価値があるか分からなかった作業」が、少なくとも月に一度はやるべき作業へと変わるのです。

この事例は、「秘書はいりますか?」と問うのではなく、「節約しませんか?」という具体的な価値提案の重要性を示しています。AIは、ユーザーが認識していない非効率性や、費用対効果の悪さを見つけ出し、解決策を提示することで、新たな需要と価値を創造します。Townの仕事は、こうした価値ある活用例を次々と見つけ出し、ユーザーに「これを代行しましょうか?」と提案することにあるのです。

第四章:ホリゾンタル vs バーティカル、そして個別最適化の未来

Townは、AIがもたらすビジネスの構造変化に対応するため、その市場戦略においても深い洞察を持っています。それは、ホリゾンタル(水平型)なアプローチから始め、最終的にはバーティカル(垂直型)な、そして極めて個別最適化されたサービスへと進化させるというものです。

4.1 初期段階のホリゾンタル戦略と市場からの学習

デニス氏は、初期段階において「できるだけホリゾンタルから始める」という戦略を取るべきだと強調します。特定のバーティカル(例:「レタスのコスト削減専門の会社」)に限定されることを避け、数千、数万もの企業や利用者から幅広く学びを得ることを重視しています。

彼らは、市場がその方向性を定義してくれることを期待しており、特定の「氷山の一角」のような問題を最初から知っていると決めつけることはしません。実際にユーザーがTownをダウンロードして利用し、フィードバックを得て初めて、それが一つのバーティカルになり得ると認識できると考えています。

4.2 AI製品の機能的差別化の難しさと価値の単位の変化

デニス氏は、今日のほとんどのAI製品について、その機能は非常に似通ったものになると予測しています。つまり、仕事の文脈で使われるほとんどのツールは、将来的には同じことをこなせるようになるということです。これは、シリコンバレーで長年差別化の要因となってきた「市場を先取りする独自の機能を持つ」という戦略が、今後維持するのがますます難しくなることを意味します。

彼は、ソフトウェアにおける「価値の単位」がアプリから「コンピュータ全体」へとシフトしたと見ています。人間はコンピュータを使って何でもできるのですから、アプリという階層は完全に抽象化され、アプリ層の価値は低下していくという考えです。もし機能面での違いがなくなるのであれば、どうやって成功する企業を築くのでしょうか?

4.3 Townの差別化戦略:ユーザーの役割に応じた高度なカスタマイズ

Townの見解は、AIが進化するにつれて、ユーザー一人ひとりのニーズに合わせて製品をより高度にカスタマイズできるようになるという点に賭けています。

(1)オンボーディングでのパーソナライズ 例えば、あなたが電気技師としてTownに登録した場合、オンボーディングでTownが提案する自動化の対象は、電気技師に特化したものになります。ベンチャーキャピタリストであれば、VCに特化したものになり、エグゼクティブ・アシスタントであれば、その業界のEAに特化したものとなるでしょう。

現状のモデルでは、「VCであるアレックスがTownで自動化できることを提案して」と尋ねても、まだ十分な精度とは言えません。表層的な提案は得られても、本質を突いた深い提案は難しいのが現実です。

(2)ユーザーデータに依存しない学習メカニズム そこでTownが採用しているのが、ユーザーデータは見ないという方針です。エンタープライズ対応であるためには、ユーザーデータにアクセスしてはならないからです。その代わりに、プラットフォーム上のパワーユーザーが誰であるかを示す集計データを見ます。そして、彼らに直接話を聞きに行くのです。

例えば、レストランを経営するパワーユーザー10人に話を聞くと、彼ら全員に共通する5つの項目が見えてきます。そこでTownは社内で、卸売業者に関するもののような、レストランオーナーにとって非常に有益だと思われる自動化のプロトタイプ(彼らは「ルーチン」と呼んでいます)を構築し、それをシードとして活用します。

誰かがTownに参加すると、AIはその人のメールや受信トレイを見て、「あなたはレストランオーナーのようですね」と判断します。そして、インタビューから丁寧に作り上げた、レストランオーナーが抱える課題と解決策のテンプレートを提示し、ユーザーの目の前に並べるのです。

(3)AIの速度で業務を行う未来 AIが進化し、より多くのレストランオーナーと対話するようになるにつれて、提供できる「ルーチン」のライブラリは充実していきます。現在では手作業に近い部分もありますが、将来的には、インタビューを自動的にスケジュール設定したり、Amazonギフトカードなどを提供して、AIでインタビューを録画し、ユーザーがソフトウェアをどのように使っているかを確認する、といったことが可能になります。

つまり、人間の速度ではなく、AIの速度で業務を行うことができるようになるのです。このライブラリはより良くなり、モデルの精度も向上することで、推奨機能はライブラリへの依存度が減っていきます。このアプローチを続ければ、時間の経過とともに、80対20の法則に基づく、個人に最適化されたソフトウェアを提供できるようになると考えています。

将来的には、人は一つの役割だけでなく、複数の役割を担うでしょう。例えば、レストランオーナーでありながら、財務管理も行い、貸し出しているバケーションレンタル物件も管理し、さらに子供の夏休みの予定も管理するといった多岐にわたるニーズです。Townieはこれらすべての得意なアシスタントになりたいと目指しています。

4.4 FDE(Full-time Equivalent)アプローチとの比較

市場で見られるもう一つの戦略として、ラボが行っているようなFDE(Full-time Equivalent)アプローチがあります。これは、人間がビジネスに入り込み、運営方法を理解した上で、カスタムソフトウェアを構築するようなものです。

FDEのアプローチは、年間500万ドルをOpenAIのFDEに費やせるような大企業にとっては、今のところ非常に魅力的に見えるかもしれません。しかし、デニス氏は、時が経ちモデルが進化するにつれて、FDEアプローチはかえって悪化し、自動化やAIによるカスタムソフト開発を重視するTownのアプローチの方が、はるかにうまくスケールすると予測しています。

TownはPLGやSMB、中堅企業、そして技術志向の強い企業から始めるという賭けに出ています。そこでは彼らのアプローチが非常にうまく機能するからです。手作業に近いようなソフトウェアでエンタープライズ市場を戦うのは、他の企業に任せればよいと考えています。Townの賭けは、フライホイール効果を通じて得られる知見が、こうした個別対応型のFDEアプローチよりも、長期的に彼らを成功させてくれるというものです。

「未来は今日よりも人間が関与する場面がずっと少なくなる」というデニス氏のビジョンは、AIが個々のユーザーのニーズに合わせてパーソナライズされた体験を提供し、経済のあらゆる側面に深く浸透していく未来を明確に描いています。Townの仕事は、企業がその世界観に慣れる手助けをすることであり、それによる経済的利益は、今日直面するであろういかなるリスクもはるかに上回ると考えています。

第五章:AIサプライヤーとの共存と競争 – 中立性とデータ所有権の重要性

AI時代において、スタートアップは基盤となるAIモデルを提供する巨大なラボ企業(OpenAI、Anthropicなど)とどのように共存し、競争していくべきでしょうか。この問いは、インフラ層とアプリケーション層の間の奇妙な関係性という、長年のテクノロジー業界の構造変化に通じる問題です。Townの戦略は、この複雑な状況における明確な差別化要因を提示しています。

5.1 インフラとアプリケーションの奇妙な関係性

かつてインターネット黎明期には、CiscoやAkamaiといった企業がインフラを提供し、AmazonやeBayがその上でアプリケーションを構築していました。しかし、Ciscoが自ら本の販売を始めたり、オークションサイトを作ったりすることは考えられませんでした。彼らはスイッチやロードバランサーを売ることに満足していました。

しかし、AI時代においては、この境界線が曖昧になりつつあります。OpenAIのようなインフラ層の企業が、自らアプリケーション層に踏み出し、垂直統合を目指す動きも見られます。このような状況で、Townのようなアプリケーション層の企業は、自らのサプライヤーと競合するリスクに直面します。デニス氏は、このリスクを認識しつつも、それが「本来あるべき世界の姿」なのかという問いを投げかけます。

5.2 Townの差別化要因:中立性、データ所有権、そして学習方針

TownがAIラボ企業との競争において掲げる主要な差別化要因は以下の三点です。

(1)中立的なインテリジェンスの提供 Townの最大の差別化要因の一つは、「中立的なアプリである」という姿勢です。従業員500人から1,000人規模の中堅企業と話す際、デニス氏は「今後3年から5年の間に、どのモデルプロバイダーが最高になるか分かりますか?」と問いかけます。ほとんどの企業は答えを知りません。

もし企業がOpenAIの製品を買えば、その製品には常にOpenAIのモデルが搭載されます。しかし、もしOpenAIが今後数年間に最高の知能を提供できなくなったらどうなるでしょうか?AIがより多くの役割を担うようになる中で、その企業は競争上の不利を被るかもしれません。また、モデルの使用料を吊り上げられた場合のリスクも存在します。

Townは、その時々において、顧客にとってベストだと考えるサプライヤーを自ら選んで利用します。これは単なる汎用的な知能だけでなく、音声、動画、スライド作成など、AIのあらゆる能力において、フロンティアモデル、オープンウェイトモデルの中から、ビジネスにとって何が最適かを判断するというものです。これにより、顧客はコスト削減につながるだけでなく、間違ったパートナーを選んでしまうというリスクも回避できます。例えば、2年前にOpenAIを選んだ企業が、その後の12ヶ月間はAnthropicのコーディング能力が優れていることに気づき、結局両方を使わざるを得なくなった例などが挙げられます。賢明な企業であれば、誰がインテリジェンスを提供し、誰がルーティングを行っているのか、その「中立性」について真剣に考えるはずです。

(2)顧客によるデータ所有権の真の支配 二つ目の非常に重要な理由は、Town上で作成されるデータ、記憶、連絡先といった「コンテキスト(文脈)」は、企業である顧客自身が所有し、真に支配すべきだというTownの姿勢です。デニス氏は、コンピューティング以前の旧来の世界では物理的な資産や人的資産があったが、AI時代には「コンテキスト」が新たな資産群となると語ります。AIがあなたのビジネスを効率的に運営するために知っていることのすべて、それがコンテキストです。

Townは、顧客がそのすべてを自分自身で所有すべきだと考えています。Townよりも優れたソリューションが現れたとき、一日あれば乗り換えられるほど、完全に所有すべきだというのです。これは、Townにとっては顧客の乗り換えコストを下げてしまうリスクになりますが、デニス氏はこの点を「私のセールスポイント」だと断言します。もし市場で最高の製品を提供できないなら、それは負けを意味する、という覚悟がそこにはあります。この「コンテキスト層」を所有し、それを自由に使える状態にしておくことが、新しい世界における競争戦略の鍵となります。

(3)ユーザーデータを用いた学習を行わない方針 三つ目のポイントは、学習についてです。大規模な企業であればラボはデータを学習に利用しないかもしれませんが、ビジネスの運営方法が他社に再販されるモデルの重みに組み込まれてしまえば、それはビジネスの成功要因を他社に売り渡しているようなものです。これは絶対に避けたいはずです。そのため、Townは学習のレイヤーに関しては、一切学習を行わないという方針をとっています。これは彼らのビジネス哲学の一部です。

5.3 AIが加速させる企業のスピードと「ゴルディロックス・ゾーン」

Townのチーム向け製品には、社内のCRMを構築するモードがあり、社内のどの情報を他の従業員が利用できるかをエージェントに判断させています。例えば、Townを使って「この見込み顧客の財務チームに誰か知り合いはいませんか?」と尋ねると、Townはあなたの会社の他の従業員のエージェントと対話し、そのリードにつながりを持つ人物を見つけ出すことができます。

これは非常に強力な製品ですが、プライバシーの観点から非常に慎重に設計する必要があります。デニス氏が考えているのは、人間がいかにして「AIの速度」で、つまり人間の速度ではなくAIの速度で動けるようにするかということです。先ほどの質問を人間の速度で行う場合、SlackやMicrosoft Teamsで「そのチームに誰か知り合いはいませんか?」と尋ねることになり、社内の全員がそのメッセージを読んで考えなければならず、通知が来るのは一日後といった具合です。デニス氏はこれを「人間は処理速度が遅いルーティングのようなもの」と表現し、Townであれば瞬時に答えが得られると語ります。

最後に、アレックス・ランペル氏は、AIラボがターゲットとしやすい「ゴルディロックス・ゾーン(適正領域)」があることを指摘します。もし収益が1兆ドル規模の大企業であれば、株主は大喜びする一方で、OpenAIやAnthropicにとっては間違いなく最大の標的となります。逆に収益がゼロで誰も製品を使っていなければ、彼らは見向きもしないでしょう。

コーディング市場は、このゴルディロックス・ゾーンの「悪い側」に落ちてしまったと言えるかもしれません。例えばAnthropicがコードに全振りして大きな成功を収めたことで、OpenAIもその教訓を学び、この分野を無視できなくなりました。ヘルスケア、法律といった巨大な市場も同様に、AIラボにとって必須の巨大な賭けとなっています。しかし、SMBやミッドマーケットのような「横展開の分散した市場」には、巨大なAIラボはなかなかコミットしにくいようです。

デニス氏はこの点に同意しつつも、AIがビジネスをより成功させるための市場は、コーディング市場よりもはるかに大きいと強調します。そして、AIラボがこれらの分散した市場に本格的に参入するのは「やるかやらないか」ではなく「いつやるか」の問題であり、事態は非常に急速に動くだろうと予測しています。このような状況だからこそ、Townのような中立性とデータ所有権を重視するアプリケーション層の企業に、大きなチャンスがあると考えているのです。

第六章:AIの普及曲線とプロダクトマーケティングの課題

AIの進化は目覚ましく、シリコンバレーでは「過剰に煽りすぎ」とさえ言われることがあります。しかし、Townのデニス氏とランペル氏は、AIは毎週進化しており、過剰に煽ることは不可能だと考えています。むしろ、世界の他の地域は「AIを過小評価しすぎている」という認識です。この認識のギャップは、AIの普及における大きな課題であり、プロダクトマーケティングの根本的な再考を促しています。

6.1 AI普及の不均一性:「いじり手」の存在とテキストボックスの限界

AIは世界中で使われていますが、その普及は均等ではありません。デニス氏が驚かされた事例として、ある島でサーフボードを貸し出しているビジネスがTownを使って、サーフボードやビーチバギーの損傷を検査し、預かり金を返すべきかどうかを判断している例を挙げました。これは彼の予想の範囲外であり、AIが経済の至る所で、予期せぬ形で活用されていることを示しています。

成功の鍵は、AIを理解し、自分の問題を解決するために工夫しようとする「いじり手(ティンカラー)」がそこにいるかどうかです。AIがまだ十分に普及していないのは、世界中にいじり手が十分にいないこと、あるいは自分のビジネスを助けるためにいじり手になる時間がある人が少ないことに起因するとデニス氏は指摘します。

ClaudeやChatGPTには、多くの小規模ビジネスで時間を大幅に節約できる機能がこの12ヶ月間ずっと存在していたにもかかわらず、そうなっていないのはなぜでしょうか?それは、「プロダクト体験が単なるテキストボックスであってはならないから」だとデニス氏は断言します。多くの人は、AIをより良いGoogle検索の代わりとして使っているだけで、「何が起きているんだろう?」という状態なのです。

私たちがすべきことは、人に教えることではありません。価値の提案を単に見せて、彼らのために実行してあげる必要があります。それこそが真のブレイクスルーです。Townのユーザーが使い続ける理由は、メール、カレンダー、そして記録システムを接続し、そこから自分では思いつかないような魔法のようなカスタム統合を一つ構築できたからです。

Townは、そのカスタム統合すら不要にしようとしています。一人ひとりが記録システムを接続した瞬間に、その人にとって非常にパーソナライズされ、本当に役立つ価値を届けられるようにしたいのです。シリコンバレーの多くの企業には「いじり手」が多く存在するため、AIを効果的に活用できていますが、世界の大半はそうではありません。もし非いじり手がいじり手と同じ価値をAIの世界で得られるようにできれば、AIは非常に多くのビジネス課題を解決できるため、今日巨大なビジネスを築くことができるでしょう。これ以上の知能は必要ありません。知能は既にそこにあるのです。それをどうやって大規模かつ効果的に導入するかが課題です。

6.2 人々の認識とAIの進化のギャップ

アレックス・ランペル氏は、ハーバード大学の聡明な教授との会話の例を挙げ、AIの急速な進化と人々の認識のギャップを強調します。教授は数年前にAIを試したが「そこそこだったけれど、素晴らしくというほどではなかった」と評価していました。そこでランペル氏が、教授が20年以上前に書いた博士論文をChatGPTに書き直させ、現在の内容をすべて反映させたところ、教授は「これは素晴らしいわね」「これ、どこのAI?」と驚愕したそうです。

多くの人は現在の状況を見て物事を判断します。シリコンバレーは、将来どうなるかという可能性で判断する傾向があるため、時に「現実歪曲空間」といった状況に陥ることがありますが、そこには行き着く可能性が見えています。一方で多くの人たちは、今の姿だけを見ています。

この技術の成長曲線は非常に急勾配です。今の状況を見て人々が活用できていないのは、皮肉にも彼らが「早期採用者だったから」という側面があります。2年前に何かを試した人たちは、「ああ、ハルシネーション(幻覚)があったし、うまく機能しなかった」と言って、その時の認識で凝り固まってしまっているのです。しかし今もう一度試せば、彼らは「そのAIどこで手に入れたの?私が持っているAIとは違う」と驚くでしょう。

プロダクトの分野はこれほど速く動いているので、今後も同じことが起こり続けるでしょう。デニス氏は、勝者となるプラットフォームは、その時々の最高のAIにビジネスを適応させ続けられる場所だと考えています。人々の「何が可能で何が不可能か」「何が難しくて何がそうでないか」というメンタルモデルは、時代遅れになっていくでしょう。この2か月半の間に、アシスタントが6か月前には不可能だったことを実行できるようになっているのですから。

6.3 具体的な価値提案の重要性:AIがPCを操作する未来

AIがPCを操作できるようになる、というような抽象的な表現では、多くの人にピンとこないでしょう。もっと具体的な提案が必要です。例えば、「Canvaであなたがいつも作っているようなイベントポスターを、私が作れますよ」といった提案です。「あなたのCanvaのサブスクリプションを使って、私が作成しますよ」と。ユーザーはすでに料金を支払っているわけですから、「私が代わりにやりましょうか?」と問われれば、「ああ、じゃあ一度やってみて」となるでしょう。そして5分後には、わずかなコストで非常に価値のある成果物が提示されます。

さらに、「カレンダーに登録されたイベントのたびに、私が自動でやりましょうか?」と続けるのです。もしユーザーがビジネスのデザインを変更した場合、わざわざ指示しなくても、次回のチラシ作成時にはAIがそれを察知して自動的に新しいデザインが反映されているべきです。そしてAIが動画を効果的に扱えるようになれば、「Instagram広告用の動画素材も作りましょうか?」と提案するはずです。

このように、今の技術では不可能に思えることを次々と提案していく必要がありますが、それは単にAIモデルが実現可能なことの進化曲線に沿っているだけなのです。エージェントによるトラフィックは、すでに人間によるトラフィックを大幅に上回っています。これは、AIが人間の活動に深く入り込み、その様相を根本的に変えつつあることを示唆しています。

第七章:AIエージェントと変化するビジネスモデル

AIエージェントは、インターネットにおける情報流通のあり方、そしてそれに基づくビジネスモデルを根本的に変革する可能性を秘めています。これは「敵対的アプローチ」と「相乗的アプローチ」という二つの異なる方向性として議論されています。

7.1 エージェントに対する「敵対的アプローチ」と「相乗的アプローチ」

この新しい世代のエージェントは、ChatGPTのようにインターネットで何かを検索するだけのものではなく、ユーザーに代わって実際に物事を先回りして実行するものです。

Amazonのような企業は、明らかに少し「敵対的なアプローチ」を取っています。彼らは広告会社であるため、これはある意味で納得できます。インターネットには長年、ある種の契約関係が存在していました。例えば、Yahoo Financeで株価を調べに行くと、YahooはNasdaqなどから株価データを取得するために費用を払っていますが、私の目はそこでE*TRADEの広告を目にすることになります。その契約とは、「私が無料で株価を教える代わりに、あなたの視線(広告視聴)を私に提供してくれ」というものです。

しかし、エージェントの時代において、この契約は破綻してしまいました。エージェントがユーザーに代わって情報を収集し、判断を下すことで、ユーザーの目が直接広告に触れる機会が減少するからです。この破綻した契約に直面した人々は敵対的になっていますが、デニス氏はそこには「相乗効果を生む大きなチャンス」があったように感じると語ります。これは新しいSEOのようなものです。もしエージェントからのトラフィックをブロックせずに受け入れる側になれたら、「どうやってこれを止めるか」ではなく「どうやって歓迎するか」という視点に立てば、そこには巨大なチャンスがあるように思えます。

7.2 中立的なエージェントと「人間が楽しむ摩擦」

アレックス・ランペル氏は、エージェント自身が中立でなくなると、流通がどう変わるのかという疑問を提示します。例えばMetaのエージェントを使っていて、Metaが広告主を誘い込んでいるとします。フライトの予約を頼んだとき、無名の航空会社より広告を出しているユナイテッド航空が優先されたらどうなるでしょうか。エージェントがもう中立的な情報をくれないと感じたら、ユーザーはそのエージェントを信頼しなくなるでしょう。人間のインセンティブとして、製品を宣伝し、マーケティングを行うという欲求は常に存在し続けるからです。

ランペル氏は、「自分専用の中立的なエージェントが必要だ」という考えを強く支持します。そのエージェントにとって唯一の資金源はユーザーである自分の財布であり、作成者のインセンティブは、マーケティングの大きな力による歪みを受けずに、人間であるユーザーにとって最良の情報を届けることであるべきだと。

また、人間が「楽しめる摩擦」と「楽しめない摩擦」という体験の違いも重要です。ニューヨークのソーホーを歩いて買い物をするのは、多くの人にとって楽しい「摩擦」です。店から店へ歩き、他の人のスタイルを参考にし、その体験自体を楽しむのです。一方で、自宅でトイレットペーパーを注文する際に、単にいつもの商品をできるだけ早く、安く手に入れたいだけであれば、それは「楽しくない摩擦」です。

エージェントについて考える際、私たちは摩擦や労力を減らして効率を最大化することばかりに目を向けがちですが、人間は必ずしも効率だけを追求するわけではありません。例えば、子供のためにLEGOを買っている時など、他の組み立て玩具の広告を見たいと思うこともあります。そこで知らない面白そうなものを見つけ、エージェントにレビューを尋ねて、購入を検討するといった体験は、Amazonにとって莫大な利益をもたらす可能性があり、広告やマーケティングで供給を集約する場所には依然として価値があるでしょう。しかし、そうした要素が不要な場面で、あえて摩擦を最適化しているケースも多いはずです。

7.3 Museの事例と「未利用による利益」モデルの終焉

Amazonのような巨大企業が、エージェント時代に直面する課題は深刻です。彼らが年間数百億ドル規模の広告ビジネスを抱えている場合、エージェントをブロックするのではなく、歓迎することが重要になります。そうしなければ、「ヘッドレスなAmazon」のような、広告が必要とされる優れた分離型の体験を創出し、それ単体でも利用する価値がある新たな巨大ビジネスが登場する可能性があります。

この文脈で興味深いのが、「Muse」のような無料のパーソナルエージェントの事例です。人々は「いつかMuseにも広告を入れなければならなくなるだろう」と言いますが、もしかするとMuseには一生広告を入れる必要がないかもしれません。Museが提供するデータを使えば、Instagram上でのターゲット広告の精度が上がるだけかもしれません。Instagramを使うとき、私たちは効率性を求めてはいません。エンターテインメントを楽しみたいだけだからです。

もしMuseから得た情報ののおかげでInstagramでのターゲティングが向上し、しかもMuseが無料のままであればどうでしょう。さらに、Instagramで気に入った商品を見つけた際、Museを通じて蓄積されたウォレット情報でそのまま決済できたり、Museがオンラインでその商品の別バリエーションを探してくれたりするかもしれません。これは素晴らしいフライホイール効果を生みます。つまり、このパーソナルなユースケースにおいて、エージェント体験と収益化を切り離すことができるという可能性を示唆しています。

これは、Amazonのような企業が不利になる点だとデニス氏は指摘します。単に供給をまとめるだけでは、エージェントの時代には通用しないビジネスモデルになるかもしれないのです。彼らには打つ手がなく、このモデルにおいては負けるでしょう。正直なところ、彼らの対抗策は、独自のパーソナルエージェントを持つこと、つまりMuseのような「より優れたMuse」を持つことでしょう。ショッピングにおける独占権を得て、それをPrimeの一部に組み込むことが彼らにとって十分な動機になることを願うばかりです。

7.4 CamelCamelCamelとIQテスト:誰もが最適化の恩恵を受けられる世界へ

アレックス・ランペル氏は、Amazonのための価格追跡エンジン「CamelCamelCamel」というウェブサイトの事例を挙げます。このサイトは、ユーザーが特定の商品の価格が下がるのを追跡し、目標価格になったらメールで通知するシンプルなサービスですが、アメリカで2000万人もの人々が利用していると言います。これは単なるアフィリエイトサイトで18年も続いているサービスであり、「未来を予測する最良の方法は現在を観察すること」という言葉を体現しています。

エージェントについて考えるもう一つの視点は、お金より時間がある人と、そうでない人がいるという点です。お金の方が時間より多い人は、CamelCamelCamelのようなサービスは使いません。時間がかかりすぎるからです。しかし、時間の方がお金より多い人は、使います。

もしお金の方が時間より多い人全員に、エージェントというツールを渡して自動でやってくれたらどうでしょう?当然、みんなそれを使うはずです。これはIQテストのようなものです。こうしたものは間違いなくもっと普及します。私たちは何が起こるか想像さえしなくていい場合もあります。ただ、クーポンなどを見ればいいだけです。裕福ならクーポンは使うべきではありません。時間がかかりすぎるからです。しかし、AIエージェントが最適なクーポンを自動で探し、適用してくれたらどうでしょう?

これは、これまで世界を分ける非常に巧妙な方法だった「未利用による利益」モデルが破られていることを意味します。アメックスのプレミアム会員特典も同様です。AIエージェントが特典のすべてを最適化してくれるようになれば、「未利用による利益」モデルは死にました。私たちがチェイスやアメックスの特典を悪用するようになれば、彼らはそれを変えざるを得なくなるでしょう。これではコストに見合わないからです。

これらすべてに通底しているのは、供給の集約化は以前よりもはるかに価値が低くなっているということです。かつては人々の関心が限られていたため非常に価値がありましたが、今や供給の集約化の価値は大幅に低下しています。なぜなら、人間の関心はAIによる自動化で代替できてしまうからです。

AIの進化は非常に速く、流通や人間の習慣を劇的に変えていくため、どのプラットフォームがその領域で勝者になるかなど誰にも予測できないでしょうし、間違いなく大きな敗者も出てくるはずです。Amazonは未来に抗おうとして、広告ビジネスの大部分を失うかもしれません。しかし、彼らにはその先がどうなるか予測できないのです。AIが切り拓く新たな価値創造の時代は、既存のビジネスモデルを破壊し、誰もが最適化の恩恵を受けられる世界へと導いていくでしょう。

結論:AIが切り拓く新たな価値創造の時代

Townの物語は、AI時代におけるスタートアップ戦略の深い教訓を私たちに示しています。それは、単に技術的な実現可能性や既存の市場規模に目を奪われるのではなく、AIがもたらす根本的なビジネスモデルの変革、そして人間の行動様式の変化を深く洞察することの重要性です。

ジャン・デニス氏が初期の税務ツール事業を「AI以前の優れたビジネス」として手放した決断は、AIの真の価値が、ナレッジワーカーの日常業務に潜む非効率性を解消し、これまで想像もできなかったような新たな機会を創出することにあるという、彼の確信に基づいています。Townがメールとカレンダーに注目し、プロダクト主導型成長(PLG)を追求した戦略は、消費者レベルの体験を企業向けに提供するという、AI時代の成功方程式を体現しています。

AIがもたらす「ジェヴォンズのパラドックス」は、効率化が新たな需要を生み出し、市場を劇的に拡大させる可能性を秘めています。Townの「トークン割り当てマシン」としての役割は、これまでコストや労力の問題で顧みられなかった多くのタスクにAIの力を適用し、年間わずか数ドルの利用料で数百、数千ドルもの価値を生み出す、という新たな価値提案を可能にしています。

ホリゾンタルなアプローチから始め、市場のフィードバックに基づいてバーティカルな、そして個々のユーザーの役割に高度に最適化されたサービスへと進化させるTownの戦略は、AI製品の機能的差別化が難しくなる未来において、パーソナライズされた体験こそが競争優位性となることを示唆しています。彼らがパワーユーザーから学習し、ユーザーデータに依存せずに「ルーチン」を構築するアプローチは、AI時代のプロダクト開発における革新的な方法論です。

さらに、OpenAIやAnthropicといった巨大なAIラボ企業との共存と競争において、Townが掲げる「中立性」「データ所有権の顧客への帰属」「ユーザーデータを用いた学習を行わない方針」という三つの差別化要因は、アプリケーション層のスタートアップが生き残り、成長するための重要な指針となります。企業が特定のモデルプロバイダーにロックインされるリスクを回避し、自社のコンテキストデータを真に支配できる安心感を提供することは、AI時代における信頼構築の鍵となります。

AIの普及はまだ均等ではありません。多くの人々がAIの真の可能性をまだ過小評価しており、プロダクト体験が「単なるテキストボックス」に留まっていることが普及の障壁となっています。しかし、ハーバード大学教授の事例が示すように、AIは驚異的な速度で進化しており、その能力に対する人々のメンタルモデルは常に時代遅れになっていきます。勝者となるプラットフォームは、常に最高のAIに適応し続けられる場所であり、具体的な価値提案を通じて、AIが実現可能なことを示し続ける必要があります。

AIエージェントの登場は、インターネットにおける情報流通の「契約」を破綻させ、広告ベースのビジネスモデルに大きな挑戦を突きつけています。しかし、これは同時に、中立的でユーザー中心のエージェントが「相乗的アプローチ」を通じて新たな価値を創造する巨大なチャンスでもあります。Townの視点は、供給の集約化の価値が低下し、「未利用による利益」モデルが終焉を迎える未来において、誰もが最適化の恩恵を受けられる世界が到来することを示唆しています。

「未来は今日よりも人間が関与する場面がずっと少なくなる」というデニス氏のビジョンは、AIが私たちの仕事、生活、そして経済のあらゆる側面に深く浸透し、その様相を根本的に変革していく未来を明確に描いています。Townの挑戦は、この不可逆的な変化に適応し、AIがもたらす経済的利益が今日直面するいかなるリスクもはるかに上回る時代への準備を、私たちに促しているのです。AI時代において、成功は「やるかやらないか」ではなく、「いつやるか」の問題であり、変化の速度に適応し続ける企業だけが、新たな価値創造のフロンティアを切り拓くことができるでしょう。