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Part 1: ヨーロッパ発のAIユニコーン、ElevenLabsの軌跡

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AIの未来を再定義する:ElevenLabs CEO Mati Staniszewskiが語る、ヨーロッパ最速成長AIスタートアップの知られざる物語

今日、私たちはテクノロジーの歴史がかつてない速度で書き換えられる時代に生きています。特にAI分野においては、毎日のように新たなブレイクスルーが報じられ、その中でも際立った存在感を放つ企業がいます。それが、音声AIの最前線を走り続けるElevenLabsです。創業からわずか20ヶ月で年間収益(ARR)1億ドル、そのわずか10ヶ月後には2億ドルを突破するという驚異的な成長を遂げ、今や世界で最も急成長しているAI企業の一つとしてその名を轟かせています。

この目覚ましい成功の裏には、一体どのような物語が隠されているのでしょうか?ヨーロッパの地から、いかにしてグローバルなスケールで競争し、AIの巨人と肩を並べる存在へと駆け上がったのでしょうか?

今回は、ElevenLabsの共同創業者兼CEOであるMati Staniszewski氏のインタビューを深く掘り下げ、その知られざる創業秘話、革新的な技術、先見の明に満ちたビジネス戦略、そして未来への大胆なビジョンを、詳細かつ専門的に分析していきます。読者の皆様には、ElevenLabsが単なる音声AI企業ではない、人類のコミュニケーションとテクノロジーのあり方を根底から変えうる存在であることの重要性を、深く理解していただけるでしょう。

ElevenLabsの物語は、単なる技術的成功に留まりません。それは、限られたリソースと偏見に立ち向かい、大胆なビジョンを追求した起業家精神の結晶です。Mati Staniszewski氏の言葉の端々から、その情熱と挑戦の軌跡を辿ってみましょう。

創業者の背景と初期の動機:ポーランドから世界を見据える視点

Mati氏はポーランドのワルシャワ郊外で育ちました。彼はこの幼少期の経験が、その後の世界観と企業構築へのマインドセットに大きな影響を与えたと語ります。ワルシャワ郊外の小さな世界から、市内、そしてさらに広い世界へと視野を広げていく中で、「私たちがまだ知らない世界が広がっている」という発見は、ElevenLabsのグローバルな野心に直結するものです。まるで目の前に立ちはだかる丘や山を一つずつ登っていくように、新たな可能性を探求し続けるモチベーションとなりました。

また、彼の「飽くなき探求心」は、高校時代の共同創業者Piotrとの出会いによってさらに加速します。ワルシャワの公立学校から、より才能が密集する高校へと進んだMati氏は、そこで高い競争意識と互いに刺激し合う仲間たちに囲まれます。「最高の大学で学びたい」「この試験を完璧に乗り越えたい」という共通の目標は、彼らにとって強力なモチベーションの源泉となりました。Mati氏の兄が海外留学で道を切り開いたことも、彼らのグローバルな野心を後押しします。この「才能の密度」と「共創の精神」は、ElevenLabsの組織文化の根幹にもなっています。

ElevenLabs誕生のきっかけ:ひどい映画の吹き替えとオーディオ技術への興味

ElevenLabsのアイデアは、非常に個人的な、しかし普遍的な問題意識から生まれました。Mati氏とPiotrは、GoogleとPalantirでの職務の傍ら、ハッカソンプロジェクトで定期的に顔を合わせていました。レコメンデーションエンジンや暗号リスク分析ツールなど、様々な技術領域を探求する中で、彼らはオーディオ技術の可能性に目覚めます。あるプロジェクトでは、話し方を分析し改善点を提案するツールを開発しようとし、そこでオーディオ技術の奥深さに触れることになります。

そして、運命的な瞬間が訪れます。2021年後半、ポーランドでの映画鑑賞体験が、彼らにElevenLabsの着想を与えました。ポーランドでは、映画の吹き替えが非常に特殊な方法で行われます。オリジナル音声の男性・女性全てのキャラクターのセリフが、一人のナレーターによって、感情のない平坦な声で読み上げられるのです。それはまるで映画のオーディオブックのようで、「ひどい体験」だったとMati氏は振り返ります。

この「耳障りな映画鑑賞体験」と、ハッカソンで培ったオーディオ技術への理解が結びついたとき、二人は確信しました。「数年後には、全ての音声はオリジナルの感情、イントネーションを伴い、信じられないほど素晴らしいものになっているだろう。これを実現しなければならない」。これが、ElevenLabs設立の直接的な契機となりました。当初は映画の「ダビング」に特化したアイデアでしたが、やがてその可能性は「あらゆる音声」へと拡大し、テクノロジーと人間のインタラクションにおける「音声」という巨大なインターフェースを再定義する野望へと発展していきます。

初期の日々、挑戦とピボット:ユーチューバーのニーズから生まれた核心

アイデアが生まれた後、Mati氏とPiotrは「それが本当に実現可能なのか」を検証するべく、並行して二つのアプローチを開始します。Piotrは既存の技術を組み合わせることで、より良い吹き替えを作成できるかを研究しましたが、すぐに「素晴らしい」とは言えないレベルであることに気づきます。根本的な解決には、核となる音声生成技術そのものを刷新する必要がある、と判断しました。

一方、Mati氏のミッションは「そのダビング製品を本当に必要としている人がいるのか?」を確かめることでした。彼はYouTuberのメールアドレスをスクレイピングし、数千通のパーソナライズされたメールを送信します。内容は「もしあなたの動画をあらゆる言語に対応させるダビング製品があれば、興味がありますか?」というものでした。しかし、返信率はわずか15%と低調で、ほとんどのYouTuberは「それが本当に可能なのか信じられない」「サンプルがあれば素晴らしいが、どうやって運用するのか?」と懐疑的でした。これは彼らにとって「燃えるような問題」ではなかったのです。

しかし、このリサーチは予期せぬ発見をもたらします。YouTuberとの対話やサンプル提供を進める中で、彼らが本当に求めているのは、もっとシンプルで身近な問題の解決だと気づきました。それは、動画の「ポストプロダクションでの修正」、スクリプトがどのように聞こえるかを「事前に確認する」、あるいは「自分で話さずにナレーションを付ける」といったニーズでした。つまり、言語エンジニアリングを伴わない、純粋な高品質のText-to-Speech(テキスト読み上げ)への需要がそこにあったのです。

この発見は、ElevenLabsの方向性を大きく変えるピボットとなりました。Piotrが研究を深める中で、感情豊かでイントネーションに富んだ、全く新しいText-to-Speechモデルを構築できると確信したからです。こうして、当初の「ダビング問題」は一時棚上げされ、クリエイターが抱える「より広範な音声生成の課題」を解決するために、Text-to-Speech技術の研究と開発に全力を注ぐことになります。この柔軟な対応と、ユーザーの真のニーズを見極める洞察力が、後のElevenLabsの成功を決定づける要因となりました。

資金調達の舞台裏:シードラウンドの苦闘とスピード、パートナーシップの重要性

ElevenLabsの初期の資金調達は、決して平坦な道のりではありませんでした。Mati氏が「Pre-seedは大変だった。本当に大変だった」と語るように、彼らは30〜50社もの投資家と対話しましたが、その多くから「No」を突きつけられました。主な懸念は三つです。

  1. 市場の小ささ: 「あなたが解決しようとしている市場は非常に小さい」という声。当時はまだAI音声技術への注目度が低く、多くの投資家はその潜在的規模を見誤っていました。
  2. 差別化と防衛性: 「OpenAIのような大企業がこれをやらない理由は何か?」「既存の企業をどうやって凌駕するのか?」という問い。技術的な優位性を長期的に維持できるか、という懸念です。
  3. 研究開発の実現性: 「本当に既存の研究を改善できるのか?」という、技術力への疑問。

2022年初頭には、米国のアクセラレーターからのオファーを断るという大胆な決断もしています。彼らは自分たちのビジョンの方が価値あるものであり、外部からの支援なしでも実現できると信じたのです。しかし、GPUへの投資や初期のメンバー採用により資金は減り続け、GoogleやPalantir時代の貯蓄を切り崩す中で、リスクは増大していきました。

最終的に、彼らは2022年Q3に200万ドルのシードラウンドを900万ドルのポストマネー評価でクローズします。CreandumやZubr Capital、Polkadotの共同創業者であるPeter Czaban氏などが初期の支援者となりました。Mati氏は「早期の信奉者」を見つけるのに時間がかかったと振り返ります。

シリーズAラウンド(2023年6月に1900万ドル調達)では、よりドラマチックな展開が待っていました。多くの主要なVCがElevenLabsにアプローチする中、彼らが最終的に選んだのは、シリコンバレーの雄であるAndreessen Horowitz (A16Z) と、著名なAI投資家であるNat FriedmanとDaniel Gross (NFDG) でした。

特にA16ZのBrian Kim氏との出会いは、Mati氏にとって印象的でした。彼は、Brian氏が唯一「事前にElevenLabsのAPIを自らテストし、具体的なフィードバックと改善点を提示してくれた投資家」だったと語ります。これは、単なる数字やプレゼンだけでなく、プロダクトそのものに深く関心を持ち、真のパートナーシップを求めている証拠でした。Brian氏は驚くほどのスピードで意思決定し、Mati氏とPiotrがロンドンで電話越しにタームシートにサインするという、まさに現代のスタートアップらしい光景が繰り広げられました。

Mati氏は、資金調達において「スピード」と「パートナーシップ」が極めて重要だと強調します。投資家も起業家も、迅速な意思決定と実行が成功の鍵となる時代であり、単に多くの投資家と会う「ロードショー」ではなく、本当に価値のあるパートナーを見極めるべきだと説きます。実際にA16Zは投資前からElevenLabsをセレブリティに紹介するなど、積極的に支援を始めました。これは、資金を提供するだけでなく、ネットワークやブランド力、そして「もし状況が困難になった時にどう行動するか」という、真のパートナーシップの価値を重視するMati氏の哲学に合致するものでした。

ヨーロッパのVCとの比較においては、米国の方が「より大きなリスクを取りたがる」傾向があるとMati氏は指摘します。また、困難な時にこそ真のパートナーシップが試されるという信念のもと、投資家の「バックリファレンス」を徹底的に調べた結果、米国系の投資家の方が、逆境において創業者を支える姿勢が強かったと感じています。この初期の資金調達戦略が、ElevenLabsがグローバルな舞台で躍進する基盤を築きました。

Part 2: ElevenLabsの技術力とプロダクト戦略

ElevenLabsの心臓部は、その比類なき音声AI技術にあります。彼らがいかにして既存の限界を打ち破り、感情豊かで自然な音声生成を実現したのか、そしてその技術がどのようにビジネスに貢献しているのかを探ります。

独自モデル開発の必要性:既存技術の限界を超えて

Mati氏とPiotrがElevenLabsの構想を練っていた2022年当時、AI音声技術はまだ「アンキャニーバレー」(不気味の谷)の課題を抱えていました。既存のText-to-Speechモデルは、人間の声に似せようとすればするほど不自然さが増し、感情やイントネーションの表現は限定的でした。Mati氏は「当時の全てのモデルは、一聴してすぐに『不気味の谷』だとわかるほど良くなかった」と断言します。特に、既存の声を正確に再現する「ボイスクローニング」のような機能は、到底実現できるレベルではありませんでした。

このような状況において、ElevenLabsは大胆な決断を下します。それは、既存の技術を継ぎ接ぎして使うのではなく、ゼロから全く新しいText-to-Speechモデルを開発する、というものでした。彼らは、単にテキストを音声に変換するだけでなく、話者の感情、意図、ニュアンスを深く理解し、それを音声表現に反映させることに挑戦しました。これは、単一の技術要素を「偉大」なものにすることを目指す、Piotr氏の初期の洞察に根ざした戦略です。

モデルの進化と多角的なアプローチ:Eleven v3とマルチモーダルAI

ElevenLabsの技術は、その創業以来、急速な進化を遂げています。当初は純粋なText-to-Speechモデルに焦点を当てていましたが、彼らは常に次のフロンティアを見据えています。Mati氏は、現在のAIアーキテクチャの進化を鑑みれば、もし今日ElevenLabsを立ち上げるなら、最初から異なるアプローチを取るだろうと語ります。

彼らは現在、「シングルモダリティ」(音声専用モデル、画像専用モデルなど)から、「マルチモーダルアプローチ」へと重心を移しています。これは、推論能力と音声生成を組み合わせることで、より豊かな音声体験を生み出す試みです。最新の「Eleven v3」モデルは、まさにこの方向性を示すものです。これにより、より複雑な文脈や感情の機微を捉え、より自然で知的な音声対話を実現しようとしています。この進化は、音声AIが単なる「読み上げ」ツールから、より高度な「対話型エージェント」へと変貌を遂げるための重要なステップとなります。

研究開発への継続的な投資:OpenAIとの比較と専門チームの強み

Mati氏は、AI技術の「コモディティ化」に対する強い危機感を抱いています。純粋な研究開発だけでは、いずれその優位性は失われ、製品化されたソリューションが重要になると語ります。だからこそElevenLabsは、研究と製品開発の両輪を同時に回すことに注力しています。

彼らがしばしば問われるのが、「なぜOpenAIがElevenLabsと同じことをしないのか?」という問いです。Mati氏はこれに対し、OpenAIも将来的には音声技術に参入する可能性を認めつつも、ElevenLabsにはいくつかの明確な優位性があると反論します。

  1. 焦点の明確さ: ElevenLabsは「音声AIの研究と製品」に全力を注いでいます。OpenAIが多岐にわたるAI領域をカバーする中で、ElevenLabsは音声に特化することで、より深い専門性と迅速な実行力を実現しています。
  2. 「Mighty Team」: Mati氏は、音声AI領域で世界トップレベルの研究者は「おそらく50〜100人」しかいないと見積もっており、ElevenLabsにはそのうち「5〜10人」が在籍する「非常に強力なチーム」がいると胸を張ります。彼らはText-to-Speechだけでなく、Speech-to-TextにおいてもOpenAIやGeminiのベンチマークを凌駕する性能を発揮し、さらに大手企業がまだ成功していない音楽生成にも挑戦しています。
  3. 製品レイヤーの強み: たとえOpenAIが優れた音声モデルを開発したとしても、それをクリエイター向けのナレーション、ボイスオーバー、ダビングといった具体的なユースケースに落とし込み、完璧な製品体験として提供するには、多大な努力と専門知識が必要です。ElevenLabsは、この「製品レイヤー」での優位性を確立しており、さらに音声エージェントや会話型エージェント向けのプラットフォーム機能(知識ベース統合、デプロイ、テスト、評価、監視など)にも投資しています。OpenAIはこれらの製品化の側面にはあまり時間とリソースを割いていないとMati氏は指摘します。

このような強力な研究チーム、迅速な実行力、そして特定のユースケースへの深い集中が、ElevenLabsがAI業界の巨人と渡り合える理由です。Mati氏は、自社の研究優位性を「競合に対して6〜12ヶ月のリード」と見積もっていますが、この期間は「素晴らしい製品体験を構築するのに十分な時間」であると強調します。

プロダクトマーケットフィットの確立:クリエイターの心を掴む瞬間

製品市場適合(Product Market Fit, PMF)は、スタートアップにとって最も重要なマイルストーンの一つです。Mati氏は、ElevenLabsがPMFを達成するまでの道のりを詳しく語っています。初期のダビング製品に対するYouTuberの反応が鈍かったことから、彼らはまだPMFに至っていないことを認識していました。しかし、Text-to-Speechにピボットした後、状況は一変します。

PMFの兆候は、いくつかの出来事によって示されました。

  1. AIが笑う音声: ElevenLabsが「AIが笑うことができる初の音声モデル」に関するブログ記事を公開し、サンプルを配布したところ、これがニュースレターで取り上げられ、数千人のユーザーがウェイティングリストに登録しました。この「魔法のような体験」は、人々にAI音声の新たな可能性を実感させました。
  2. オーディオブック作家の事例: 最初の100人程度のユーザーをプラットフォームに招待した際、あるオーディオブック作家がElevenLabsのサービスを使って、自作の小説全体をナレーションしました。当時のプラットフォームではAI生成コンテンツが禁止されていましたが、彼の作品は人間がナレーションしたものとして承認され、高い評価を得ました。作家自身が「他の作家仲間にも勧めたい」と語ったことで、Mati氏は「これは何か大きなものになりそうだ」と確信します。
  3. クリエイターコミュニティからの熱狂: 2023年1月にベータ版を一般公開した際、クリエイターやナレーターからの熱狂的な支持が集まりました。ソーシャルメディアやニュースレター、Discordコミュニティ、Reddit、Hacker Newsといった草の根のチャネルを通じて、彼らのプロダクトは瞬く間に広まっていきました。Mati氏は、伝統的なメディアのPRよりも、ユーザーが実際に集まるフォーラムでの発信がはるかに効果的だったと語ります。

Mati氏は、PMFを「今後5〜10年間、持続可能な価値を提供できる状態」と定義し、まだその道の途中であるという謙虚な姿勢を見せつつも、ユーザーがElevenLabsの製品を心から愛しているという確かな手応えを感じています。このクリエイターコミュニティとの強固な結びつきが、ElevenLabsの驚異的な成長の原動力となりました。

Part 3: 驚異的な成長とビジネスモデルの深掘り

ElevenLabsの成長は、その技術力と市場適合性だけでなく、巧妙なビジネス戦略と効率的な運営にも支えられています。ここでは、その目覚ましい収益成長の裏側と、未来を見据えたビジネスモデルの構築について深く探ります。

目覚ましい収益成長:200Mドル突破までの速度とエンタープライズ顧客の獲得

Mati氏がインタビューで語った数字は、まさに驚異的です。ElevenLabsは、創業からわずか20ヶ月で年間収益(ARR)1億ドルを達成し、さらにその10ヶ月後には2億ドルを突破しました。2023年末時点では3500万ドルのARRであったことを考えると、その後の成長曲線がいかに急峻であったかがわかります。この爆発的な成長は、AIスタートアップの中でも稀有な事例と言えるでしょう。

この成長を牽引しているのは、当初のクリエイター向けセルフサーブ市場だけでなく、エンタープライズ顧客の獲得です。Mati氏によると、現在TwelveLabsのビジネスの大部分は、会話型エージェントプラットフォームの構築に注力しており、最も大きな契約は200万ドル規模に達しています。

これらのエンタープライズ顧客は、主にコールセンター、顧客サポート、パーソナルアシスタントなどの分野でElevenLabsの技術を活用しています。彼らは、ElevenLabsのSpeech-to-Text、Text-to-Speech、そして新たに開発された様々な統合機能を組み合わせることで、顧客との対話を自動化・最適化しています。Cisco、Twilio、Epic Gamesといった大企業との連携は、ElevenLabsが単なるスタートアップではなく、業界のインフラを支える存在へと成長していることを示しています。

主要なビジネス領域とエージェントプラットフォームの未来

Mati氏は、ElevenLabsの将来の最大のビジネスラインは「エージェントプラットフォーム」になると明言しています。現在すでにこの分野は大きな成長を遂げていますが、彼はまだ「表面をなぞっているに過ぎない」と感じており、適切に戦略を実行すれば「数十億ドル規模の収益を生み出すビジネスになる」と確信しています。

具体的には、ElevenLabsは音声エージェントを企業に提供し、顧客サポート業務の自動化を支援しています。しかし、そのビジョンは音声に留まりません。彼らは、将来的にはメールやWhatsAppなど、あらゆるチャネルに対応する「オムニチャネルソリューション」へと拡張し、より広範な会話型AIエージェントプラットフォームを構築することを目指しています。これは、IntercomやDecagonといった既存の顧客サポートツールプロバイダーとの提携をさらに深める可能性を秘めていますが、同時にElevenLabsが自ら垂直統合を進め、特定の業界やユースケースに特化したソリューションを提供するようになることで、一部で競合する可能性も示唆しています。

ユニットエコノミクスとコンピューティング戦略:自社データセンター構築の理由

多くのAIアプリケーション企業が、高い計算コストのためにユニットエコノミクスが苦しいという批判に直面する中で、ElevenLabsは独自の戦略でこの課題に立ち向かっています。Mati氏は、他社と比較してElevenLabsのユニットエコノミクスは「はるかに健全」であると語ります。その理由の一つは、研究、製品、流通(ブランド)の全てを自社でコントロールしている点にあります。

さらに特徴的なのは、ElevenLabsが自社でデータセンターを構築していることです。多くのスタートアップがCoreWeaveやNVIDIAのようなクラウドプロバイダーのGPUサービスを利用する中、ElevenLabsがこの道を選んだのは、綿密な費用対効果の分析に基づいています。Mati氏の計算では、彼らが望むようなモデルの継続的なトレーニングと、膨大なデータの転送量を考慮すると、2年間の期間で自社データセンターを所有する方が、レンタルするよりも採算が取れるという結論に至りました。

この戦略は、単なるコスト削減に留まりません。自社データセンターを持つことで、ElevenLabsはより迅速に実験を行い、モデルを改善し、新機能を展開することができます。これにより、外部の制約を受けることなく、技術革新のスピードを最大化しています。もちろん、将来的にGPUインフラストラクチャに劇的なイノベーションが起こればこの方程式は変わる可能性もありますが、現時点では「より多くのコントロール」と「より多くの実験」が可能になるという大きなメリットを享受しています。

Mati氏は、AI企業のユニットエコノミクスに関する懸念は「リスクのあるビジネス」であると認めつつも、モデルコストの最適化が進むこと、そして何よりも「顧客が信頼するブランド」を確立することの重要性を強調します。ElevenLabsは、先行投資によって得られる「魔法のような体験」を最優先し、競合他社がモデルを構築することすら考え始める前に、市場に投入することを重視しています。彼らは、コスト構造を犠牲にしてでも、最高の製品を最速で提供することで、長期的なブランド価値と顧客ロイヤルティを獲得するという戦略を描いています。

水平展開と垂直展開のバランス:初期の広範なアプローチから未来へ

創業当初、ElevenLabsは非常に「水平的」な顧客アプローチを取っていました。クリエイター、開発者、企業など、特定の業種やユースケースに絞らず、幅広い層にサービスを提供していました。この戦略は、従来のスタートアップのアドバイス(「垂直的に特定のICPに焦点を当てるべき」)とは一見反するものです。

Mati氏はこのアプローチについて、「もし非常に新しく、異なる何かを立ち上げ、まだ顧客ベースのサブセットを完全に知らなくても、より大きな市場が存在するとわかっているなら、水平展開は全く問題ない」と説明します。彼らの初期のピボット経験が示すように、未知の市場で真のニーズを発見するためには、広範な探索が必要だったのです。

しかし、現在はエージェントプラットフォームの分野で「垂直化」の兆候も見られます。特定のエンタープライズユースケースに深く潜り込み、特化したソリューションを提供することで、さらに大きな価値を生み出そうとしています。これは、市場が成熟し、自社の強みが明確になるにつれて、戦略を柔軟に調整していくElevenLabsの姿勢を示しています。彼らはパートナー企業との関係を重視しつつも、自社のコア技術を基盤として、新たな市場機会を積極的に開拓していくでしょう。

Part 4: 組織文化と人材戦略

ElevenLabsの目覚ましい成長は、Mati Staniszewski氏が構築した独自の組織文化と人材戦略なしには語れません。それは、「small and mighty」という哲学から、タイトル廃止、そしてヨーロッパでの人材育成への信念に至るまで、従来の企業とは一線を画すものです。

「small and mighty」チームの哲学:少人数制、オーナーシップ、迅速な実行

ElevenLabsの現在の従業員数は約250人ですが、Mati氏はこれを「20のチーム、それぞれ5〜10人で構成されている」と説明します。この「small and mighty(小さくても強力な)」という哲学は、彼らの組織構造の核となっています。

この少人数制のメリットは多岐にわたります。

  1. 高いオーナーシップ: 各チームメンバーは、自分のプロジェクトや製品領域に対して高いオーナーシップを持ち、責任を負います。
  2. 迅速な実行: 小規模なチームは意思決定が迅速で、市場の変化やユーザーからのフィードバックに素早く対応し、製品を改善していくことができます。
  3. 結果へのコミットメント: メンバーは自分の貢献が直接製品や会社の成功に結びつくことを実感しやすく、それがモチベーションに繋がります。

Mati氏は、「より多くの人が必ずしも問題を解決するわけではない。何か特別なことを成し遂げるのに、それほど多くの人は必要ない」という信念を持っています。もちろん、このアプローチにはコミュニケーションや調整といった別の課題も伴いますが、ElevenLabsでは、各チームが特定の製品領域や機能(例:スタジオインターフェース、音声エージェントスイート、人材チームなど)に責任を持ち、高い独立性を持って実行することで、これを乗り越えています。

タイトル廃止の理由:インパクト重視と成長機会の最大化

ElevenLabsの組織文化で特に目を引くのは、役職(タイトル)を廃止している点です。これはStripeのような一部の先進的な企業でも見られるアプローチですが、ElevenLabsではその哲学がより深く根付いています。

タイトルを廃止した主な理由は以下の通りです。

  1. インパクトの重視: 「何よりもインパクトが重要である」というメッセージを明確に打ち出すため。新入社員であっても、入社初日から最もインパクトのある貢献をすることができ、その決定権レベルがタイトルによって制限されるべきではないという考えです。
  2. 成長機会の最大化: メンバーが特定の役割や階層に縛られることなく、非常に迅速にチームや機能のリーダーへと移行できることを奨励するため。Mati氏は「勤続年数が短くても、正しい人物であれば、はるかに長い勤続年数の人々のマネージャーになることができる」と語り、タイトルがその成長機会を制限する障壁となることを避けています。
  3. 不必要な煩わしさの排除: 小規模なチームが多数存在する中で、誰にどんなタイトルを与えるかという議論は、不必要な distraction(妨げ)になると考えられています。

もちろん、意思決定の際には「そのチームの現在のリーダー」が最終決定を下すという明確な構造は存在しますが、そのリード役は固定されず、流動的であることも特徴です。このアプローチは、メンバーが自身の能力を最大限に発揮し、変化に富むAI業界で常に成長し続けられる環境を提供することを目的としています。

ヨーロッパでの企業構築:「ハードモード」だが「インクレディブルな才能」

LovableのAnton氏が「ヨーロッパで会社を作るのはハードモードだ」と語ったことに対し、Mati氏も「その通りだ」と同意します。しかし、彼は同時に「素晴らしい利点もある」と強調します。

最大の利点は、ヨーロッパに存在する「インクレディブルな才能」です。Mati氏は、多くの人々が懸命に働き、何か特別なものを生み出したいと強く願っているにもかかわらず、その機会に恵まれていない状況を指摘します。彼らがグローバルな野心を持つヨーロッパ企業で働くことで、その潜在能力を最大限に引き出すことができると考えています。LovableやSynthesia、そしてスウェーデンのAuraのような企業がその好例です。

重要なのは、「ヨーロッパから構築するが、ヨーロッパのためだけに構築するわけではない」という視点です。Mati氏は、ElevenLabsを「グローバル企業」と位置づけ、米国、ヨーロッパ、そしてアジアでも勝利することを目指しています。彼の言葉には、ヨーロッパの才能を活用しつつ、常に世界市場を視野に入れるべきだという強いメッセージが込められています。

また、米国の一部から聞かれる「ヨーロッパ人は米国人ほどハードワークしない」という批判に対して、Mati氏は断固として「No」と答えます。彼は、ElevenLabsのチームには「真のミッショナリー」がおり、週末も会社のために尽力し、単に「ハードワークする」以上に、会社の成功を心から願っている人々がいると語ります。彼らは会社の一員であるという強い帰属意識を持っており、その情熱は米国の人材にも決して劣らないと確信しています。

人材獲得と育成:内部育成とメンターシップ、そして学び

ElevenLabsは、採用において「成長」を重視しています。Mati氏は、「可能であれば、外部から経験豊富な人材を連れてくるよりも、人材を内部で育成することに賭けたい」と考えています。しかし、成長には時には「すでにそれを成し遂げた人からのメンターシップ」が必要であることも理解しています。そのため、彼らは米国を拠点とする投資家のネットワークからアドバイザーを募り、ヨーロッパの才能とマッチングさせることで、育成を加速させています。

採用プロセスにおいて、Mati氏とPiotr氏は現在も「全ての採用面接」に参加しています。従業員が250人(そして年末には400人を目指す)という規模にもかかわらず、この徹底した関与は、会社の文化や技術的基準を維持するための重要なシグナルとなっています。彼らは、たとえ従業員数が1000人に達しても、可能な限りこのプロセスを続けることを望んでいます。

Mati氏は、自身の「最大の採用ミス」についても語っています。それは、最初の数週間や数ヶ月で、その人が会社に合わないと判断した場合に、迅速に別れる決断を下せなかったことです。彼は、「もし最初の数週間や数ヶ月で確信が持てないのなら、すぐに別れるべきだ」と学びました。これは、成長する企業において、文化的な適合性やパフォーマンスが非常に重要であることを示唆しています。

社員へのインセンティブ:セカンダリー提供とリスクテイクの精神

ElevenLabsは、ほぼ全ての資金調達ラウンドで「セカンダリー(二次売却)」を実施し、従業員が保有するベステッドストック(権利確定済みの株式)を売却する機会を提供しています。Mati氏はこれを「非常に価値がある」と考えています。

その理由は、ElevenLabsが「何か巨大なもの」に賭けている企業だからです。従業員が大きなリスクを取ってそのビジョンを追求するためには、「基本的な生活が保障されている」という安心感が必要です。セカンダリーを提供することで、従業員は株式を現金化し、住宅購入や子育て費用など、個人の経済的ニーズを満たすことができます。これにより、従業員は短期的な金銭的誘惑に囚われることなく、会社の長期的な成功と、より大きな目標に集中することができます。

Mati氏は、「金融的な報酬が重要でないとは言わないが、それは目標そのものではない。しかし、人々が求める基本的な生活レベルをカバーすることは必要だ」と語ります。この戦略は、ヨーロッパの多くの企業が、資金流動性の欠如から早期に買収されてきた歴史を踏まえると、特に重要な意味を持ちます。ElevenLabsは、従業員に流動性を提供することで、彼らが「壮大なビジョン」を追求するリスクを取ることを奨励し、会社が独立した存在として成長し続けるためのモチベーションを維持しているのです。

Part 5: 未来への展望とMati Staniszewskiの哲学

ElevenLabsの物語は、単なる現在の成功に留まりません。Mati Staniszewski氏の言葉からは、AIが織りなす未来、そしてその中でElevenLabsが果たすであろう役割に対する、明確で揺るぎないビジョンが垣間見えます。

AIの未来における音声の役割:主要なインターフェースとしての音声

Mati氏が最も強く信じていることの一つは、「音声が私たちを取り巻くテクノロジーのインターフェースとなる」というものです。彼は、音声が多くのテクノロジーにおいて「主要なインターフェース」になると予測しており、多くの人々がこの信念に同意しないかもしれないことを承知の上で、このビジョンを力強く語ります。

スマートフォンやPCのキーボード、タッチスクリーンといった既存のインターフェースは、私たちのデジタル体験を大きく変えてきました。しかし、音声はより自然で直感的、そして効率的なインタラクションを可能にする潜在力を持っています。ElevenLabsが開発する感情豊かで自然な音声AIは、この未来を実現するための重要な基盤となります。音声コマンド、音声対話、そして音声ベースのエージェントが、私たちの生活や仕事において中心的な役割を果たすようになるでしょう。

人間とAIエージェントの共存:専門化する人間の役割とAIによる自動化

AIエージェントが顧客サポートなどの分野で普及するにつれて、「人間の雇用が奪われるのではないか」という懸念が生まれます。Mati氏はこの点について、人間の役割は「より専門化する」という見解を示しています。

AIエージェントは、アポイントメントの予約、払い戻し処理、一般的な情報提供など、反復的でドメイン知識をあまり必要としない「マニュアルな部分」を自動化します。これにより、誰もがやりたがらなかったり、効率が悪かったりするタスクから人間が解放されます。

一方で、病院からの退院後の患者のフォローアップや、複雑なデータ分析に基づいたアドバイスなど、深いドメイン知識や共感、高度な判断力を必要とする「ラストマイル」の業務は、引き続き人間の専門家が担うことになります。Mati氏は、このような専門的な人間の役割は、「以前よりもさらに価値が高まる」と見ています。AIが簡単なタスクを自動化すればするほど、人間はより複雑で創造的な問題解決に集中できるようになり、その貢献の価値は増大するでしょう。人間とAIは競合するのではなく、それぞれの強みを活かして協力し合う「ヒューマン・プラス・エージェント」の関係が深化していくとMati氏は確信しています。

AI規制への見解:US法への準拠の提唱

Mati氏は、ヨーロッパにおけるAI規制の動きについても言及しています。もし彼が「ヨーロッパの大統領」になったら、欧州のAI関連法を「米国の法律に準拠させる」ことを提言すると語ります。これは、欧州独自の厳しいAI規制が、技術革新のスピードを阻害する可能性を懸念しているためです。

彼は、EU内で「米国法に準拠する選択肢を提供できる別の州」を作るという大胆なアイデアも示唆しています。これは、AI技術の開発と導入において、グローバルな競争力を維持するためには、より柔軟で革新を促進する規制環境が必要であるという彼の信念を反映しています。

起業家へのアドバイス:リスクを取ることと迅速な行動

Mati氏が、Peter Thielの言葉を引用し、「最大の危険はリスクを取らないことだ」というアドバイスを最も心に留めていると語るように、彼の起業家としてのキャリアは大胆なリスクテイクの連続でした。シードラウンドでの苦闘、ダビングからText-to-Speechへのピボット、自社データセンターへの大規模投資、そして既存のAI巨人と戦うという野心的な挑戦、これら全てがリスクを恐れずに迅速に行動した結果です。

彼は、創業者に対し、決定を遅らせたり、行動を起こさなかったりするリスクを避けるよう促します。また、資金調達の際も、単に高額なバリュエーションを追求する「ロードショー」よりも、真のパートナーシップを築ける投資家との迅速な意思決定を重視すべきだとアドバイスしています。彼自身、現在も数百億円規模の買収案件を検討する中で、外部企業を買収するリスクよりも、「自社でより良くできる」という信念に基づき、内部での開発を選択するという「リスク」を取ろうとしています。

創業者のブランドとチームへの貢献

Mati氏は、創業者自身のブランド(Founder Brand)の重要性について、自身の心境の変化を語っています。以前は、創業者ばかりが注目されることで、チーム全体の素晴らしい貢献が霞んでしまうことを懸念していました。ElevenLabsの成功は、並外れた研究者、優れた製品開発を行うエンジニア、革新的なGo-to-Market戦略を編み出すチーム、そして超高速成長を支えるオペレーションチームなど、会社を構成するあらゆる個人のたゆまぬ努力の結晶であると彼は強調します。

しかし、最近では、「創業者ブランドが、チーム全体の功績を高める可能性もある」と考えるようになりました。創業者自身がビジョンを語り、会社の顔となることで、より多くの才能を引きつけ、ブランド認知度を高め、ひいてはチーム全体の成功に貢献できるという認識です。このバランスをいかに取るかが、成長企業における重要な課題であると彼は示唆しています。

まとめ:沈黙を破り、未来の声を創造するElevenLabs

ElevenLabsの物語は、単なるAIスタートアップの成功事例ではありません。それは、飽くなき探求心、顧客中心のピボット、技術への揺るぎない信念、そして「small and mighty」なチームによる迅速な実行力と、ヨーロッパからグローバルな舞台に挑む大胆な野心が融合した、現代の起業家精神の象徴です。

Mati Staniszewski氏のビジョンは明確です。音声は、私たちを取り巻くテクノロジーの主要なインターフェースとなり、AIエージェントは人間の能力を拡張し、社会をより効率的で豊かなものに変えていくでしょう。ElevenLabsは、この未来のコミュニケーションを可能にするための「声」を創造し、そのインフラを構築しています。

わずか数年で2億ドルを超えるARRを達成し、世界中のクリエイターや大企業にその技術を提供するElevenLabsは、まだその旅の始まりにいます。彼らが描く、感情豊かで自然な音声が、あらゆるデジタル体験とシームレスに統合される未来は、私たちの想像力をはるかに超える可能性を秘めています。Mati氏とElevenLabsのチームが、これからどのような「声」で世界を驚かせ、テクノロジーの未来を再定義していくのか、その動向から目が離せません。

このブログ記事が、ElevenLabsの重要性、具体的な機能、ビジネスへの影響、そして将来性について深く理解するための一助となれば幸いです。